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アングル:欧州資本財メーカー、貿易摩擦で調達チェーン見直し

2018年08月13日(月)13時50分

8月3日、欧州資本財メーカーの事業環境に、米国と中国などの貿易摩擦激化の影響が色濃くにじみ始めた。米マサチューセッツ州ボストンの港に積まれたコンテナ。2018年5月撮影(2018年 ロイター/Brian Snyder)

[ストックホルム 3日 ロイター] - 欧州資本財メーカーの事業環境に、米国と中国などの貿易摩擦激化の影響が色濃くにじみ始めた。関税が機械部品や原材料のコストを押し上げ、供給のボトルネックを一段と悪化させる恐れが出てきているためだ。世界中から多数の部品を輸入して製品を組み立てているだけに、一部のメーカーは販売価格の引き上げや調達ルートの見直しに動いている。

米国車の対中輸出に40%もの関税がかかる自動車メーカーは、既に業績の悪化や値上げを警告している。ただアナリストの推計によると、中国が課した340億ドル相当の米輸入製品への関税のうち、65─80%は自動車などの消費財ではなく、生産活動に使われる資本財が占める。

モルガン・スタンレーの資本財アナリスト、ベン・アグロー氏は最近のノートで「制裁関税は(消費者への)直接的な影響は限られ、間接的な影響の方がはるかに大きい」と指摘。これまでのところほとんどの企業はサプライチェーンへの影響など制裁関税に絡むリスクの詳細を明らかにしていないが、この問題が資本財セクター全体を覆っていると述べた。

欧州の資本財メーカーは世界的な成長拡大の波に乗っており、今のところ投資家も平静だ。リッパーのデータによると、工業株ファンドは米国が3月に鉄鋼とアルミニウムへの追加関税導入を発表したことを受けて3月と4月に資金が流出したが、5月には資金が戻ってきた。

ダウ・ジョーンズ欧州工業製品・サービス指数も7月6日の追加制裁関税導入以降、欧州全体の株価指数を2%アウトパフォームしている。

しかしカメス・キャピタルで欧州株を運用するマイケル・ニコル氏は輸入関税引き上げのリスクを重視しており、過去9カ月間に欧州資本財セクターへの投資配分比率を大幅に引き下げた。「さまざまな制裁関税導入の最終的な影響を正確に予想するのは不可能だが、特定のマーケットや銘柄に絡むリスクが明らかに高まっている」という。

米国が新たに25%の関税を発動した中国から輸入される818品目は、タービン製品から電子関連や医療機器向けの部品まで幅広い。

モルガン・スタンレーによると、欧州の資本財セクターで輸入関税引き上げの影響が特に大きいのは機械、建設、照明の各業界。とりわけ電子関連部品は供給面でのリスクが大きく、例えばコンピューターや医療機器で使われるプリント基板は、全世界の供給の半分近くを中国製が占める。

既に対応に乗り出した企業も現れている。

ドイツの総合電機大手シーメンスの医療画像・診断部門ヘルシニアーズは調達ルートを見直し、製品の最終的な組み立てを行っている米国工場向けの部品生産拠点を中国から欧州に切り替えた。

スウェーデンの園芸用具・アウトドア機器メーカーのハスクバーナは芝刈り機の部品とエンジンの調達先を中国などアジア諸国から変えようとしている。食品加工機器メーカーのGEAも新たな製品やサービスで使われている中国製部品の調達先を見直す方針を発表した。

ただこれまでのところ最も一般的な対応は製品の値上げだ。特に米国が制裁関税を導入した鉄鋼とアルミを多く使う業界でその傾向が顕著となっている。

電子機器メーカーであるシュナイダー・エレクトリックのエマニュエル・バボー副最高経営責任者(CEO)は「調達のあらゆる場所で価格が上昇しており、関税引き上げの影響を吸収する手段を確保しなければならない」と述べ、今後値上げペースを加速する考えを示した。

(Esha Vaish記者)

ロイター
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