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焦点:政府内で人づくり予算大幅増求める声、脱デフレも狙う

2017年08月23日(水)09時21分

 8月23日、政府部内では、アベノミクスの新たな目玉政策である「人づくり革命」の推進策に積極的な予算対応をするべきだとの声が急速に浮上している。来年度予算編成で非社会保障分野の支出を拡大させ、脱デフレへの道筋を目指すことが狙いだ。写真は安倍首相、3日官邸で撮影(2017年 ロイター/Kim Kyung-hoon)

[東京 23日 ロイター] - 政府部内では、アベノミクスの新たな目玉政策である「人づくり革命」の推進策に積極的な予算対応をするべきだとの声が急速に浮上している。来年度予算編成で非社会保障分野の支出を拡大させ、脱デフレへの道筋を目指すことが狙いだ。

ただ、安定財源確保のため、社会保障費の伸び率の抑制が検討されており、政府部内の調整が進むのか不透明な要素も多い。

<非社会保障支出、物価上昇で実質目減り>

第2次安倍晋三政権発足時の2012年度以降、物価は累計で2%程度上昇しているが、基礎的財政収支対象経費から社会保障関連費、地方交付税等を除いた実質的な非社会保障分野の支出は、当初予算ベースで累計1000億円程度の増加にとどまっている。

政府関係者の一部や経済財政諮問会議の民間議員からは、これが日本経済の成長制約の一つになっている可能性があるとの指摘が出ている。

そのため、来年度以降の予算編成方針に関連し、物価上昇で実質目減りした非社会保障分野の支出を増額し、その財源は社会保障関連支出の削減で賄うアイデアが浮上している。

12年度から15年度までの物価の累計上昇率が2%に上ることから、非社会保障分野支出の2%分、およそ5000億円が増額分になる計算だ。

複数の関係筋によると、非社会保障分野の支出拡大の目玉は、幼児や高校生などを対象にした教育と、成人を対象に教育と就労を交互に行うリカレント教育やIT人材の育成。

安倍内閣が掲げる「人づくり革命」の中心的な政策対応と位置づけ、積極的に予算化する方針が描かれつつある。

日本経済が直面する低成長の壁を打破するため、賃上げや生産性向上を目指すうえで欠かせない人材投資の要になると、関係筋は説明。「将来への投資」として、財政拡張の理由にもなりやすいとしている。

具体策は、近く発足する予定の「人生100年時代構想会議」で議論し、来年6月をめどに4カ年で実行する最終方針をとりまとめる。

ただ、4年間の支出を継続的に賄うには「安定的な財源の確保が不可欠」(複数の政府関係者)だが、今のところ、詰めた議論にはなっていない。

諮問会議の民間議員である榊原定征・経団連会長や新浪剛史・サントリーホールディングス社長らは、社会保障費の一段の抑制を求める姿勢を諮問会議で示している。

社会保障費は3年間に累計で1.5兆円の増加に抑制する方針が継続中だが、物価上昇分のおよそ5000億円を大幅に上回っている。政府内には、これを一段と抑制できれば、人材投資など有効な政策経費に回せるとの考え方がある。

しかし、2025年には団塊世代が75歳の後期高齢者になり、社会保障費には一段と膨張圧力がかかる。

短期的にも18年度に診療・介護・障害の各報酬の改定が同時に実施される予定で、歳出膨張の行方がどうなるのか、大きな分かれ道になるとみられている。

<低物価上昇率、引き上げの思惑>

また、物価が日銀の目標の2%から大幅に下振れし、ゼロ%台の上昇にとどまっていることも、歳出拡大への圧力になっている。

世耕弘成経産相は7月18日の経済財政諮問会議で「何としてもデフレからの脱却をなしとげなければならない。2%物価目標を達成できていないということは、需給が引き締まっていない表れだ」と述べ、需要追加のための景気刺激策に積極的な姿勢を示した。

ただ、従来型の公共事業の追加策では、人手不足を深刻化させるだけで、実効性のある景気対策にはなりそうもない。

そこで、政府部内には成長が見込みにくい事業を切り離し、事業売却時に譲渡課税を免除する「スピンオフ税制」拡大のアイデアも一部で浮上している。

7月の都議選惨敗後、経済政策優先を掲げた安倍首相にとって、歳出拡大でデフレ脱却期待感を再度高めると決断した場合、安定財源をどう確保するのか、マクロ政策の方向性が、政権の浮沈を左右することにもなりそうだ。

(中川泉 編集:田巻一彦)

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