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焦点:サミットで経済認識一致せず、危機強調の裏に増税延期模索の声

2016年05月27日(金)19時16分

 5月27日、今年の主要国首脳会議(伊勢志摩サミット)では、世界経済の将来的な下方リスクを踏まえ、柔軟な財政政策や構造改革を進めるとの首脳宣言採択にこぎつけた。写真はサミットに出席した各国首脳、27日撮影(2016年 ロイター/Carlos Barria)

[伊勢/志摩 27日 ロイター] - 今年の主要国首脳会議(伊勢志摩サミット)では、世界経済の将来的な下方リスクを踏まえ、柔軟な財政政策や構造改革を進めるとの首脳宣言採択にこぎつけた。ただ、他の参加国からは、議長国・日本が提示した「世界経済が直面する危機」との認識に対し、異論も表明され、その溝は埋めきれなかった印象だ。日本の議事進行の裏には、消費増税延期の思惑があったのではないかとの疑念もくすぶっている。

<危機共有で増税延期>

安倍晋三首相は27日午後、閉幕に当たって記者会見し、主要7カ国(G7)が世界経済について「強い危機感を共有した」と表明した。冒頭発言では「リーマン・ショック」との言葉を繰り返し使ったうえで「最も懸念されることは世界経済の収縮」と強調し、世界経済がはらむリスクについて力説した。

しかし、首脳宣言では「新たな危機に陥ることを回避する」との認識にとどまり、現在は危機的状況ではないとの見方で一致。オランド仏大統領も、サミット終了後の記者会見で「現在は経済危機ではない」と明言した。

日本との温度差が鮮明になり、最大のテーマだったはずの世界経済で、G7の結束が揺らいだ格好だ。

経済の認識をめぐる差は、安倍首相が26日の討議で各国首脳に提示した資料に端を発する。

資料は、コモディティ価格の下落幅がリーマン・ショック級などと指摘したが、ある首脳からは「クライシスとまで言うのはいかがなものか」との異論も浮上。首脳の補佐役を務めるシェルパ間での協議に決着が持ち越された経緯がある。

あるG7外交筋は、匿名でロイターの取材に応じ、安倍首相がことさら経済の弱さを指摘するのは、消費増税を延期したい思惑があるからだと指摘した。危機感を世界で共有することで、安倍政権が増税延期の大義を得ようとしているのではないかとの見方だ。

もっとも、5月のロイター企業調査で、約8割の企業が来年までにデフレに逆戻りするとの懸念を示しており、先行きの不透明感は色濃い。与党の一部からも「デフレ脱却を確実にするなら延期判断もやむを得ない」(若手議員)と、理解を示す声も出ている。

複数の関係筋によると、安倍首相は増税延期の方針をすでに固めているが、政府内には「国際会議の場を消費増税の判断材料に使うのは問題。G7諸国から疑問視されかねない」との見方も浮上した。

<「機動的」か「柔軟」か>

焦点だった財政出動でも、日本の思惑は外れた。日本は今回のサミットで、需要喚起に向けた財政拡大路線でG7が一致する姿を描いていたが、財政政策の重要性を共有するにとどまり、どう政策を実施するかは「国別の状況を考慮する」と、各国に委ねる方向でまとまった。  

また、首脳宣言には「財政戦略を機動的に実施」との文言が盛り込まれたものの、ある政府関係者は「原文の『フレキシブル』を『機動的』と訳すことには違和感がある。『柔軟な』とするのが一般的では」と首をかしげる。「機動的」との語感が、政府支出を積極的に増やすイメージを想起させるとの指摘だ。

その政府関係者は「G7の中でも著しく成長率の低い日本から、財政出動を呼びかけられたことに疑問を感じた国も多いだろう」と振り返った。

(梅川崇 編集:田巻一彦)

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