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蘇るリーマンショックの記憶、金融不安を高めるマイナス金利

2016年02月09日(火)19時05分

2月9日、日欧のマイナス金利政策による金融機関の収益圧迫に警戒感が台頭してきた。写真は都内のトレーディングルーム(2016年 ロイター/YUYA SHINO)

[東京 9日 ロイター] - 世界的なリスクオフが第2段階に入ってきた。日欧のマイナス金利政策による金融機関の収益圧迫に警戒感が台頭。市場の懸念材料が、世界経済の減速から金融機関の信用不安という別次元のステージに移行してきた。まだ不安の段階ではあるものの、「リーマンショックの記憶」が蘇る中で株安・円高・金利低下が一段と深まっている。

<連鎖的な銀行株安>   

グローバルなリスク回避が強まる中、最も売りを浴びたのは銀行など金融株だ。8日の市場で、欧州のSTOXX欧州600銀行株指数<.SX7P>は5.59%低下。米国のS&P金融株指数<.SPSY>は2.6%の下落にとどまったが、9日の市場で日本の銀行株指数<.IBNKS.T>も7.36%と大きく下落している。

銀行株の急落は、年初からのリスクオフが別次元に入ってきたことを示す。「世界景気の減速はそれほど怖くない。循環的であり、いずれ回復するからだ。しかし、金融機関の信用収縮に結びつけば、リーマンショックのように経済全体が委縮する恐れが高まる」(米系投信・運用担当者)ためだ。グローバル化したマーケットにおいて金融機関の不安は連鎖する。

市場が不安視するのは金融機関の収益悪化だ。日欧が導入したマイナス金利が要因で、世界中の金利が急低下。運用難が極まる一方、貸出も伸びない中で、利ザヤ縮小によって収益が圧迫されるのではないかとの懸念が強まっている。

ドイツ銀行の2015年決算は、過去最大の68億ユーロ(約8800億円)の赤字。8日の市場では「CoCo債(偶発転換社債)」の一種であるAT1債の利払いに対する不安が強まった。同行は8日、充当できる手元資金が「十分」にあると強調する声明を発表したが、市場の不安はくすぶる。

同社の株価は8日の市場で9.5%急落、09年以来の安値水準に落ち込んでいる。

ドイツ銀行は世界的な金融取引の中核を担う。「もし何かがあれば、その影響は破綻したリーマン・ブラザーズの比ではない」(エモリキャピタルマネジメント代表取締役の江守哲氏)という警戒感が市場に広がったことも、リスクオフを加速させた要因となった。

<「恐怖指数」はまだ不安の段階>

ドイツ銀行の業績悪化はすでに知られた話であり、再浮上したギリシャの財政問題も今に始まったことではない。リーマンショックを経て金融規制が強化された結果、銀行など金融機関は当時と比べ無謀な投資は行いにくくなっている。

BNPパリバ証券・チーフクレジットアナリストの中空麻奈氏は「銀行などのレバレッジ投資はかなり減少している。突発的な破綻などがない限り、リーマンショックのようなことにはならない」とみる。

マイナス金利政策には、ポジティブな評価もある。

SMBC日興証券・チーフエコノミストの牧野潤一氏は、日銀のマイナス金利政策による日本経済への影響を試算。銀行は貸出金利の低下で3830億円の減益要因になる一方、保有国債の日銀への売却益が8781億円見込めるとした。国債売却によってクーポン(利息)収入が5270億円減るが、預金金利の低下もあり、銀行部門トータルでは84億円のプラスになるとしている。

「恐怖指数」とも呼ばれるシカゴ・オプション取引所(CBOE)ボラティリティー・インデックス(VIX指数)<.VIX>は8日、26ポイントまで上昇したが、昨年8月の中国ショック時(最大53ポイント)を下回り、リーマンショック時(最大89ポイント)の3分の1以下だ。「市場のリスクオフも、まだ漠然とした不安の段階に過ぎない」(外資系証券)ともいえる。

<狭い政策対応余地も懸念材料>

ただ、リーマンショック当時と比べ、政策対応の余地は大きく縮んでいる。家計の債務などは改善したが、どの国も政府債務が巨大化する中で財政余地は乏しい。金融緩和は量の拡大からマイナス金利の世界にまで踏み込んだ。

アムンディ・ジャパン市場経済調査部長の濱崎優氏は「金融緩和など政策対応の余地が狭まっているとみられていることも、市場の不安を増幅させている」と話す。

特に日本では、欧州に比べマイナス金利が金融機関に与える影響が大きいとみられている。「預金量は多い一方、貸出金利は欧州に比べ低い。国債市場は10年長期金利までマイナスに沈み、資金を持っていく場がないのが現状だ」(BNPパリバの中空氏)という。

このため、日銀の追加緩和が必ずしも市場にプラスとは言えなくなっている。現時点では、プラスの評価もあるマイナス金利政策だが、追加緩和によってマイナス金利幅を拡大させれば、金融機関への悪影響も大きくなる。

景気が弱い中では、金利が限界的に低下したからといって貸出を伸ばすのは難しい。追加緩和が金融仲介機能の低下を招き、それが信用不安へと発展してしまう皮肉な結果になる可能性もゼロではなさそうだ。

(伊賀大記 編集:田巻一彦)

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