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アングル:制裁解除で商機、イランがエアバス100機超購入へ

2016年01月18日(月)12時11分

 1月17日、イランが欧州エアバスから100機を超える商用機の購入計画を表明した。これは欧米の制裁解除を受けて経済立て直しを目指すイランにとって、対外貿易取引や投資が急増する先駆けと言えるかもしれない。写真はウィーンで15日撮影(2016年 ロイター/Leonhard Foeger)

[ドバイ 17日 ロイター] - イランが欧州エアバスから100機を超える商用機の購入計画を表明した。これは欧米の制裁解除を受けて経済立て直しを目指すイランにとって、対外貿易取引や投資が急増する先駆けと言えるかもしれない。

ロウハニ大統領は欧米の制裁解除が正式発表された翌日の17日に「イラン経済は今、制裁という足かせが解かれ、基盤構築と成長の時期を迎えた」とツイートした。

そして制裁解除発表の直前には、アホウンディ道路交通相がタスニム通信に対して、エアバスから114機の商用機を購入する計画だと語った。定価ベースで100億ドルを超える可能性がある商談だ。

エアバスは16日時点で、まだイラン側と交渉していないことを明らかにした。

イランで事業を展開する企業にとっては、当面引き続きいくつかの大きな問題に直面することも確かだ。

具体的にはイランの銀行が多額の債務を抱えていることや、法制度の未発達、汚職、硬直的な労働市場などのリスクが挙げられる。イランが制裁解除の条件である核開発の制限を順守していないことが後で判明し、再び制裁が発動されるという心配もあり、多くの外国企業はイランへの投資には及び腰の姿勢が続くだろう。

だが今回のエアバス機購入計画は、イランの潜在力の強さを浮き彫りにした。同国は人口が約8000万人で、年間の国内総生産(GDP)は4000億ドル前後に上る。世界貿易システムへの復帰という点では、20年以上前の旧ソ連崩壊以来の規模だ。

イランは金融や対外貿易などさまざまな分野での制裁が解除されるため、制裁下で手ごろな価格では入手できなかった航空機、工作機械や医薬品、ブランド衣料など多くの財・サービスに対する積もり積もった需要を満たせるようになる。

ロウハニ大統領は17日、今後5年間で現在ゼロ近辺の成長率を8%にまで高めるために300億─500億ドルの外国資金を導入することを目指すと議会で発言した。

金融制裁解除により、輸入品支払いに充当する資金もより多く確保できる。米政府当局者は1000億ドル強の資金凍結が解除されると見積もり、イラン中央銀行はもっと少ない290億ドルになると想定しているが、290億ドルでも数カ月分の輸入を賄える。

イランは原油輸出拡大によっても財政基盤を強化できる。ただし足元では原油価格が低迷し、老朽化した国内生産設備の修復が必要なため、当面の増収規模は小さいかもしれない。

<成長上振れ>

多くのエコノミストは、イランが掲げる8%という成長率について、企業向け各種規制や労働市場などの面で、何年も要する困難な改革を成し遂げない限り、楽観的過ぎる目標とみている。

とはいえ、制裁解除で成長率が大きく跳ね上がる可能性は大きそうだ。アナリストの推計では、制裁によってイラン国内の製造業は3分の1が稼働休止状態に置かれており、今後輸出市場でシェアを回復できればこのうちの相当部分が稼働を再開するとみられる。

中東地域の経済バランスが変化する可能性もある。過去10年にわたりイランが制裁に苦しんできた一方、サウジアラビアなどのペルシャ湾岸産油国は貿易が活発化して投資資金が流入した。

しかし湾岸産油国は現在、原油安に伴う財政悪化で経済が減速している。その半面イランは農業や自動車生産など非石油部門の経済規模が大きいので、湾岸産油国に対する経済面でのこれまでの遅れを取り戻せるだろう。

イランの対欧州連合(EU)貿易額は2014年が76億ユーロだったが、金融制裁が実施される前の11年には278億ユーロもあり、そこまで回復できる余地はある。

米国企業は他の国に比べてイランとの貿易回復が遅れると見込まれている。米政府がテロ防止や人権侵害の名目などでの制裁を続けることが理由だ。それでも米財務省が16日、米企業の海外子会社にイランとの貿易を認めると発表したため、対イラン貿易は増えていくだろう。

大手外国企業の対イラン投資となれば、貿易よりも回復に時間がかかるかもしれない。次の米大統領のイラン政策を見極めたいという向きがあるだろうし、投資に動いた場合に株主やロビー団体などからの訴訟に直面するリスクを警戒する企業も多い。

コンサルティング会社ユーラシアの見通しでは、一部の石油企業は早急にイランに戻り、多額の資金を必要としないサービスや小売り企業も投資に踏み切るものの、他の業態の企業は慎重な態度を取りそうだという。

もっとも大量の資本投下が不可欠な製造業といえども、イランの巨大な消費市場が放つ魅力には抗し難いだろう。

フランスのプジョー・シトロエンは11年に撤退したイランでの生産再開に向けた交渉に乗り出す構えだ。ルノーも同じような交渉を検討している。

ドイツのダイムラーは先週、制裁が解除された場合に商用車部門をイランに戻すと表明した。

(Andrew Torchia記者)

*見出しを修正しました。

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