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日本株「頼みの綱」に不安、来期減益シナリオに現実味

2016年01月07日(木)18時42分

 1月7日、日本株の「頼みの綱」に不安が強まっている。中国問題や中東・北朝鮮の地政学リスクの高まりが嫌気されているが、投資家の真の不安は日本企業の業績悪化懸念にある。都内で撮影(2016年 ロイター/Yuya Shino)

[東京 7日 ロイター] - 日本株の「頼みの綱」に不安が強まっている。中国問題や中東・北朝鮮の地政学リスクの高まりが嫌気されているが、投資家の真の不安は日本企業の業績悪化懸念にある。世界景気が鈍化していることに加え、企業の想定レートを割り込む円高が進行。業績期待は日本株の高いパフォーマンスを支えてきたが、来期の減益シナリオも現実味を帯びてきた。

<下げがきつい日本株>

日本株だけが下げているわけではない。しかし、日経平均の年初からの下落率は6.65%と、アジアの主要株価指数では上海総合指数<.SSEC>の11.96%、香港のハンセン指数<.HSI>の7.21%に次いで3番目。韓国の総合株価指数<.KS11>の2.90%などと比べ下げがきつい。

昨年、日本株は他国の株を上回る高いパフォーマンスを示していた。年間で日経平均は9.07%上昇、TOPIXは同9.93%上がっていた。このためリスクオフムードの高まりとともに「グローバル投資家から利益確定売りが出やすい」(国内大手証券の株式トレーダー)構図になっていたともいえる。

しかし、先行きの期待が高ければ、通常は途中で買い戻しも入りやすい。だが、日経平均<.N225>は、年初から21年ぶりとなる4日続落。5日続落となれば、1965年以降で初となる。歴史的な新春株安の背景には、利益確定売りだけではない要因が存在する可能性がある。

<円高進行で業績圧迫懸念>

「日本株を支えてきた企業業績に不安が高まっている」と、ニッセイ基礎研究所・チーフ株式ストラテジストの井出真吾氏は指摘する。

昨年12月14日に発表された12月日銀短観(回答期間は11月11日─12月11日)での大企業・製造業の2015年度下期の想定為替レートは、1ドル118.00円。7日の市場でドル/円は一時117円前半まで下落し、想定レートを下回ってきた。

トヨタ自動車<7203.T>は115円だが、安川電機<6506.T>やキヤノン<7751.T>など、昨年10月以降の想定レートを120円に設定している企業も少なくない。

SMBC日興証券・ストラテジストの圷正嗣氏は、大半のアナリストは1ドル120円前提で来期8%増益を見込んでいるが、1円円高に振れると増益率が約0.5%ポイント引き下げられると指摘。「会社計画は例年、アナリスト予想に対して5%ポイント程度低く設定されるため、仮に1ドル115円になれば、来期の会社計画は横ばい、企業によっては減益見通しになりかねない」と警戒する。

<鈍る増益モメンタム>

いまの市場は強気と弱気が大きく分かれており「企業ガバナンスの改善やインフレ、賃金上昇で円安にならなくても、日本企業の収益は改善していく」(フィデリティ投信のアレキサンダー・トリーブス運用部長)との見方もある。

しかし、17年度以降を視界に入れれば、増益ピッチが徐々に鈍るという見通しは、市場におけるコンセンサスだ。

UBS証券の予想(昨年12月時点)では、2016年3月期が18%増益、17年3月期は5%増益、18年3月期は消費増税を見込んで4%の減益。強気で知られるゴールドマン・サックス証券の見通し(同)でも、増益率は15年度15.1%、16年度15.7%、17年度6.5%、18年度7.0%とペースは鈍る。

水準よりもモメンタム(勢い)を重視する投資家にとって、日本株の魅力は薄らいでいく可能性がある。実際、昨年の海外投資家は日本株(現物と先物合計)を「アベノミクス相場」で初めて売り越した。

トヨタは13年3月期から15年3月期までの2年間で、1兆4300億円営業利益を増加させた。その間、為替変動(主に円安)によるプラス要因は1兆1800億円にのぼる。

来期に減益となるかどうかは予断を許さないが、少なくとも円安のサポートなしで高い増益率は期待しにくい。今期、過去最高益更新の見通しでありながら、同社株のPER(株価収益率)は10倍を割っている。

<内需系企業にも不安台頭>

世界銀行は6日、2016年の世界経済の成長率見通しを3.3%から2.9%に下方修正した。新興国だけでなく米国の見通しも引き下げている。「世界の景気敏感株」とされる日本株にとって、外需の減速も大きなマイナス要因だ。

外需の減速を投資家が予想していなかったわけではない。昨年、日本株で人気だったのは食料品や医薬品など内需株だ。

しかし、外需が一段と減速するなか、内需に悪影響を与えるのではないかという懸念も強まってきている。

ファーストリテイリング<9983.T> は7日、2016年8月期の業績予想を下方修正した。要因は世界的な暖冬の影響とされるが、国内消費の動向について、内需系企業の決算発表に一段と注目度が高まりそうだ。

実は世界的なリスクオフが起きている割に、別名「恐怖指数」のVIX指数<.VIX>や日経平均ボラティリティ指数<.JNIV>は昨年8月の「中国ショック」当時ほど上昇していない。投資家が冷静だともいえるが、パニック売りではないとすれば、それだけに怖さもある。

(伊賀大記 編集:田巻一彦)

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