コラム

まるで「対岸の花火」......日本人は金正恩の「ミサイル挑発」にどう向き合うべきか?

2024年02月06日(火)15時21分
金正恩

1月28日の北朝鮮によるミサイル発射を報じる韓国のテレビ映像 KIM JAE-HWANーSOPA IMAGESーREUTERS

<北朝鮮は原潜による巡航ミサイル発射へ向け、着々とその技術を高度化している。しかしまるで「対岸の花火」でも見るかのように、日本人は度重なるミサイル発射に慣れてしまった。加速する金正恩の挑発を正しく評価・分析する>

この2年ほど、北朝鮮がそれまでにも増して、韓国、日本、アメリカに対する挑発を強めている。北朝鮮の最高指導者である金キム・ジョンウン正恩が戦争への決意を固めたと考える専門家もいるが、その可能性は低い。しかし、挑発的な行為が引き金になって、北朝鮮の被害妄想と日米韓の恐怖心が軍事衝突に発展する危険は排除できない。

金は2022年3月に、17年以来のICBM(大陸間弾道ミサイル)発射に踏み切ったのを皮切りに、ミサイル発射を繰り返すなど、挑発の頻度とレベルを高めてきた。この1月初めにも、韓国・延坪島(ヨンピョンド)の北方の黄海上(韓国が定める軍事境界線の北側)に砲弾を大量に発射。さらに、今年に入って、日本海と黄海に立て続けに巡航ミサイルで「攻撃」した。

こうした軍事的挑発を重ねる一方で、金は最近、首都・平壌に立っていたアーチ形のモニュメント「祖国統一3大憲章記念塔」を撤去した。これは、祖父と父の体制が採用していた南北統一政策を放棄する意思表示と見なせる。金は、平和的な南北統一はもはや不可能となったと述べ、韓国を「最も敵対的な国家」と呼んでいる。

金を嘲笑したり、冷酷で気まぐれな人物と決め付けたりするのは簡単だ。しかし、一連の挑発的行動は、東アジアの地政学環境で起きた3つの変化への反応として計算された行動と言える。そうした行動により、日米韓が北朝鮮の独立を脅かすことを思いとどまらせたいという思惑があるのだ。

第1の変化は、22年3月9日の韓国大統領選で尹錫悦(ユン・ソンニョル)が当選したこと。尹大統領は前任者よりも北朝鮮に対して強硬な姿勢を示している。北朝鮮は、この大統領選の15日後にICBMを発射した。

第2の変化は、23年3月16日に、尹と日本の岸田文雄首相が東京で会談し、両国関係の正常化で合意したこと。これにより日韓の軍事情報の共有が進むことになった。北朝鮮はこの会談の数時間前に、日本海に弾道ミサイルを発射した。

第3の変化は、23年8月18日に、ワシントン近郊のキャンプデービッドで尹と岸田、そしてバイデン米大統領が会談し、安全保障面での協力強化で合意したこと。この会談から2週間もたたずに、北朝鮮は日本海に弾道ミサイルを2発発射した。

プロフィール

グレン・カール

GLENN CARLE 元CIA諜報員。約20年間にわたり世界各地での諜報・工作活動に関わり、後に米国家情報会議情報分析次官として米政府のテロ分析責任者を務めた

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

イスラエル・イラン衝突、交渉での解決が長期的に最善

ビジネス

バーゼル銀行監督委、銀行の気候変動リスク開示義務付

ワールド

訂正-韓国大統領、日米首脳らと会談へ G7サミット

ワールド

トランプ氏、不法滞在者の送還拡大に言及 「全リソー
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:非婚化する世界
特集:非婚化する世界
2025年6月17日号(6/10発売)

非婚化・少子化の波がアメリカもヨーロッパも襲う。世界の経済や社会福祉、医療はどうなる?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「タンパク質」より「食物繊維」がなぜ重要なのか?...「がん」「栄養」との関係性を管理栄養士が語る
  • 2
    ブラッド・ピット新髪型を「かわいい」「史上最高にかっこいい」とネット絶賛 どんなヘアスタイルに?
  • 3
    「サイドミラー1つ作れない」レアアース危機・第3波でパニック...中国の輸出規制が直撃する「グローバル自動車産業」
  • 4
    サイコパスの顔ほど「魅力的に見える」?...騙されず…
  • 5
    林原めぐみのブログが「排外主義」と言われてしまう…
  • 6
    メーガン妃とキャサリン妃は「2人で泣き崩れていた」…
  • 7
    若者に大不評の「あの絵文字」...30代以上にはお馴染…
  • 8
    さらばグレタよ...ガザ支援船の活動家、ガザに辿り着…
  • 9
    ハルキウに「ドローン」「ミサイル」「爆弾」の一斉…
  • 10
    構想40年「コッポラの暴走」と話題沸騰...映画『メガ…
  • 1
    庭にクマ出没、固唾を呑んで見守る家主、そして次の瞬間...「信じられない行動」にネット驚愕
  • 2
    大阪万博は特に外国人の評判が最悪...「デジタル化未満」の残念ジャパンの見本市だ
  • 3
    「セレブのショーはもう終わり」...環境活動家グレタらが乗ったガザ支援船をイスラエルが拿捕
  • 4
    「サイドミラー1つ作れない」レアアース危機・第3波で…
  • 5
    ブラッド・ピット新髪型を「かわいい」「史上最高に…
  • 6
    ファスティングをすると、なぜ空腹を感じなくなるの…
  • 7
    今こそ「古典的な」ディズニープリンセスに戻るべき…
  • 8
    アメリカは革命前夜の臨界状態、余剰になった高学歴…
  • 9
    右肩の痛みが告げた「ステージ4」からの生還...「生…
  • 10
    脳も体も若返る! 医師が教える「老後を元気に生きる…
  • 1
    日本の「プラごみ」で揚げる豆腐が、重大な健康被害と環境汚染を引き起こしている
  • 2
    【定年後の仕事】65歳以上の平均年収ランキング、ワースト2位は清掃員、ではワースト1位は?
  • 3
    日本はもう「ゼロパンダ」でいいんじゃない? 和歌山、上野...中国返還のその先
  • 4
    一瞬にして村全体が消えた...スイスのビルヒ氷河崩壊…
  • 5
    庭にクマ出没、固唾を呑んで見守る家主、そして次の…
  • 6
    大爆発で一瞬にして建物が粉々に...ウクライナ軍「Mi…
  • 7
    「ママ...!」2カ月ぶりの再会に駆け寄る13歳ラブラ…
  • 8
    あなたも当てはまる? 顔に表れるサイコパス・ナルシ…
  • 9
    ドローン百機を一度に発射できる中国の世界初「ドロ…
  • 10
    【クイズ】EVの電池にも使われる「コバルト」...世界…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story