コラム

中国が仕掛ける台湾人「転向」作戦

2018年12月06日(木)18時00分

フェイクも百回唱えれば

心理学者によると人間は、最初は自分が見聞きしたことに反対したり虚偽情報だと分かっている場合でも、繰り返し経験して慣れてくると次第に受け入れるという。

トランプはものを知らないが、1つ重要な心理学のルールを知っている。どんな意見も十分に繰り返せば、たとえ嘘でも、人々は信じ始めるのだ。慣れは、軽蔑ではなく受容と同意を助長する(レーニンも、ナチスドイツの宣伝相だったヨーゼフ・ゲッベルスも、このルールを熟知していた)。

実際、台湾の論説や文学、ビラ、報道では、政治や社会の問題について、中国政府の立場をさりげなく主張する傾向が強まっている。例えばニューヨーク・タイムズ紙によると、海軍士官候補生も学ぶ国立台湾海洋大学には、中国寄りの主張を巧妙に組み入れたパンフレットが堂々と置かれている。

台湾の有力メディアが中国寄りの姿勢を強めているのも、偶然ではない。最近も、台湾公共広播電視集団が放映した米国在台協会幹部のインタビューが、アーカイブなどから削除された。「外国勢力」が先の統一地方選の前に、国民を欺きかねない虚偽の情報を伝えていたと、警鐘を鳴らす内容だった。

今回の選挙は台湾人の意識にとって歴史的な転換点になった。70年に及び中国と対立関係を続けてきた台湾は、人々の心理と、力の相関関係と、政治的な現実について自ら中国の思惑に合わせて軌道修正しているようだ。

全ての橋は北京に通じる。それだけでなく、台湾人の考えも北京を目指し始めている。

<本誌2018年12月11日号掲載>


※12月11日号(12月4日発売)は「移民の歌」特集。日本はさらなる外国人労働者を受け入れるべきか? 受け入れ拡大をめぐって国会が紛糾するなか、日本の移民事情について取材を続け発信してきた望月優大氏がルポを寄稿。永住者、失踪者、労働者――今ここに確かに存在する「移民」たちのリアルを追った。

ニューズウィーク日本版 習近平独裁の未来
※画像をクリックすると
アマゾンに飛びます

2026年2月17号(2月10日発売)は「習近平独裁の未来」特集。軍ナンバー2の粛清劇は強権体制の揺らぎか、「スマート独裁」強化の始まりか

※バックナンバーが読み放題となる定期購読はこちら


プロフィール

グレン・カール

GLENN CARLE 元CIA諜報員。約20年間にわたり世界各地での諜報・工作活動に関わり、後に米国家情報会議情報分析次官として米政府のテロ分析責任者を務めた

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

香港紙創業者に懲役20年、国安法裁判 国際社会は強

ワールド

仏中銀総裁、6月に前倒し退任 ECB理事会のハト派

ワールド

イラン原子力長官、ウラン濃縮度引き下げ検討も 制裁

ワールド

英首相、辞任要求にも続投示唆 任命問題で政権基盤揺
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:習近平独裁の未来
特集:習近平独裁の未来
2026年2月17日号(2/10発売)

軍ナンバー2の粛清は強権体制の揺らぎか、「スマート独裁」の強化の始まりか

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「最恐」恐竜T・レックスの定説を覆す新研究が
  • 2
    ビジネスクラスの乗客が「あり得ないマナー違反」...周囲を気にしない「迷惑行為」が撮影される
  • 3
    台湾発言、総選挙...高市首相は「イキリ」の連続で日本をどうしたいのか
  • 4
    【銘柄】「ソニーグループ」の株価が上がらない...業…
  • 5
    イースター島の先住民から資源を略奪、島を「生きた…
  • 6
    米戦闘機、空母エイブラハム・リンカーンに接近した…
  • 7
    「二度と見せるな」と大炎上...女性の「密着レギンス…
  • 8
    韓国映画『しあわせな選択』 ニューズウィーク日本…
  • 9
    飛行機内で隣の客が「最悪」のマナー違反、「体を密…
  • 10
    がんの約4割は、日々の取り組みで「予防可能」...予…
  • 1
    高市積極財政にアメリカが慌てる理由
  • 2
    イースター島の先住民から資源を略奪、島を「生きた実験室」に...抗生物質の「不都合」な真実とは
  • 3
    がんの約4割は、日々の取り組みで「予防可能」...予防のために、絶対にしてはいけないこととは?
  • 4
    致死率は最大75%のニパウイルスが、世界規模で感染…
  • 5
    米戦闘機、空母エイブラハム・リンカーンに接近した…
  • 6
    グラフが示す「米国人のトランプ離れ」の実態...最新…
  • 7
    台湾発言、総選挙...高市首相は「イキリ」の連続で日…
  • 8
    エヌビディア「一強時代」がついに終焉?割って入っ…
  • 9
    「右足全体が食われた」...突如ビーチに現れたサメが…
  • 10
    高市首相の発言は正しかった...「対中圧力」と「揺れ…
  • 1
    【クイズ】致死率50~75%...インドで感染拡大「ニパウイルス」の感染源となる動物は?
  • 2
    高市積極財政にアメリカが慌てる理由
  • 3
    セーターが消えた冬 ── 暖かさの主戦場が「インナー」と「フリース」に移った日
  • 4
    海上自衛隊が水中無人機(UUV)を導入 中国の海軍拡…
  • 5
    イースター島の先住民から資源を略奪、島を「生きた…
  • 6
    防衛省が「新SSM」の映像を公開、ノルウェー・コング…
  • 7
    中国で大規模な金鉱脈の発見が相次ぐ...埋蔵量は世界…
  • 8
    【クイズ】韓国を抜いて1位に...世界で最も「出生率…
  • 9
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い…
  • 10
    180万トンの「リチウムごみ」を資源に...EV電池の「…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story