コラム

ウルトラマンがウクライナ侵攻の時代に甦ることになった意味

2022年06月15日(水)15時46分

このことは、この映画に予期しない批評的なアングルをもたらすことになった。なぜなら、『シン・ウルトラマン』では、強力な武器による勢力の均衡や、よりマシな強者に服従してその代わりに安全を確保しようという考えは、全て否定されているからだ。人類は賢明になり、自立し団結して、主体的に問題に立ち向かい、進歩していかなければならない。その過程で勝ち取られた科学技術は、平和のために正しく使われなければならない。この映画は極めて明瞭に、そうしたメッセ―ジを伝えている。

『シン・ウルトラマン』の製作陣は、もちろんウクライナ戦争に伴い、日本の政治が軍事力の強化に傾くことを予期していたわけではないだろうし、彼ら自身も、作品のメッセージをどれだけ本気で信じているのかも疑わしい。むしろこのメッセージは、この映画がファンムービーとして製作されたことによって、ウルトラシリーズに潜在的に内在している理想が顕性化したものなのではないだろうか。

たとえば『シン・ゴジラ』では、このようなメッセージはなかった。それは『シン・ゴジラ』では原作ゴジラのテーマを踏襲せず、3.11を踏まえた震災ナショナリズムの物語へと書き換えていたからだだろう。一方、『シン・ウルトラマン』では製作陣の自己主張はあまり強くなく、原作『ウルトラマン』をリスペクトした物語をつくろうとしているようにみえる。

理想や進歩を語ることが馬鹿にされ、「現実主義」の名のもとに、メフィラスのような「よりマシな強者」に隷従したり、ベーターシステムのような超技術を軍事利用したりすることが受け入れられてしまいそうな世の中で、当時の特撮番組が持っていた理想と進歩が21世紀に再現されたことは、何か啓示的なものを感じずにはいられない。

プロフィール

藤崎剛人

(ふじさき・まさと) 批評家、非常勤講師
1982年生まれ。東京大学総合文化研究科単位取得退学。専門は思想史。特にカール・シュミットの公法思想を研究。『ユリイカ』、『現代思想』などにも寄稿。訳書にラインハルト・メーリング『カール・シュミット入門 ―― 思想・状況・人物像』(書肆心水、2022年)など。
X ID:@hokusyu1982

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