コラム

ウルトラマンがウクライナ侵攻の時代に甦ることになった意味

2022年06月15日(水)15時46分

中国・広州市の成形工場で古代ローマの戦士と並べられたウルトラマン像(2003年) Bobby Yip-REUTERS

<3.11を踏まえて原作を震災ナショナリズムの物語に書き換えた『シン・ゴジラ』と違い、『シン・ウルトラマン』はあくまで原作の哲学を踏襲し、さらにコロナで公開が延期になるという偶然が重なって、啓示的な作品になった>

2022年5月13日、SF特撮映画『シン・ウルトラマン』(企画・脚本:庵野秀明、監督、樋口真嗣)が公開された。2015年公開の映画『シン・ゴジラ』のスタッフがつくる『シン・〇〇』シリーズの第二弾ということで期待が集まり、観客動員数は8日間で100万人を超えた。映画の内容については賛否両論がある。ウルトラシリーズのファンからは概ね高い評価を得ているが、「シナリオがダイジェスト的である」「演出面におけるジェンダー描写が古い」といった声も耳にしつつ、筆者も遅ればせながら鑑賞してきた。

ジェンダー問題について

まず公開当初から大きな議論となっていた、演出やカメラアングルがヒロインの長澤まさみに対してセクハラ的である、という問題についてだ。実際に観た限りでは、残念ながら、確かにそう受け取られても仕方がないカットやシーンがあった。ジェンダー描写の古さについては邦画が持つ宿痾ともいえるが、この映画に関しては、単にセクハラ的で不快だから悪いというわけではなく、長澤まさみが演じる浅見弘子というキャラクターの首尾一貫性を損なってしまっていることも問題だ。

ヒロインの浅見は、主人公である神永新二の「バディ」であり、最初から最後までバディとしての関係に徹している。たとえば途中から恋愛関係になることはない。作品が異星人と人類の信頼関係を、あくまでバディの関係として際立たせようとしているとき、長澤まさみをセクシュアルな存在として無意味に強調する演出はノイズになる。映画には何らかの「お色気」が必要だという信念があるのかは分からないが、少なくとも作品の主題を傷つけてまで入れるべき演出ではないだろう。

良く出来たファンムービー

こうしたセクハラ問題などの瑕疵はあるにせよ、映画の製作陣の中核メンバーがウルトラシリーズのマニアであり、原作ファンを唸らせる「ネタ」を効果的に仕込むことが出来ている、という点については大方が一致することができるだろう。多くのマニアがいる伝説的な作品を現代風にリメイクして成功すること自体が簡単なことではないのであって、映画を観たあとのマニアを失望させず、作品について何時間でも語り合いたくなるような作品に仕立てあげたことは評価できる。

プロフィール

藤崎剛人

(ふじさき・まさと) 批評家、非常勤講師
1982年生まれ。東京大学総合文化研究科単位取得退学。専門は思想史。特にカール・シュミットの公法思想を研究。『ユリイカ』、『現代思想』などにも寄稿。訳書にラインハルト・メーリング『カール・シュミット入門 ―― 思想・状況・人物像』(書肆心水、2022年)など。
X ID:@hokusyu1982

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