コラム

東京五輪は始まる前から失敗していた

2021年07月24日(土)14時00分
東京オリンピック・パラリンピックの聖火

東京オリンピック・パラリンピックの聖火(7月23日) Kai Pfaffenbach-REUTERS

<開会式直前のドタバタ解任劇までの数々の不祥事、責任を取らない組織委員会、ブルーインパルスの失敗を成功のように扱うメディア、「安心安全」の嘘──ここまでガバナンスが崩壊すれば、もう誰も修正できない>

東京オリンピックのガバナンス崩壊が止まらない。「バブル方式で安心・安全」はどこへやら。「バブル」であるはずの選手村からは毎日の感染者。オリンピック関係者はワクチン未摂取の日本の市民とガンガン接触する始末。

開会式をめぐるグダグダはいっそう酷い。開会式演出担当者が発表されるやいなや、音楽責任者の小山田圭吾が学生時代に行っていた壮絶ないじめを過去に自慢していたことを指摘され辞任。またパラリンピックの文化プログラムに起用されていた絵本作家ののぶみも、同様のいじめ問題や過去の障碍者差別発言が指摘され辞任した。そして開会式前日には、演出担当の元お笑いコンビ「ラーメンズ」の小林賢太郎が、過去のコントにナチスによるユダヤ人虐殺を揶揄するようなボケを組み込んでいたと指摘され、解任されたのである。

小林賢太郎解任への疑問

ナチス政権下でおよそ600万人のユダヤ人が虐殺された、いわゆる「ホロコースト」については、否定したり揶揄したりすることが世界的に禁じられている。そのような行為に及んだ場合、国によっては犯罪として処罰の対象となる。オリンピックは差別の禁止や人権の尊重を理念的な建前としており、過去のコントとはいえ開会式の演出家にふさわしいとはいえない。その行為について十分な反省と学習をする期間も乏しく、解任はやむを得ない。

しかし、解任までに至った直接的な経緯については、少しだけ注意を向けたほうがよい。問題となったコントが収録されているビデオを発掘したのは、雑誌『実話BUNKAタブー』なのだが、この雑誌自体がそもそも露悪的な内容を取り扱う雑誌であったということだ。同誌には『テコンダー朴』のような差別漫画も連載されている。

さらに、『実話BUNKAタブー』の記事を受けて、真っ先にユダヤ系団体の「サイモン・ヴィーゼンタール・センター」(SWC)に告発したのは、中山泰秀防衛副大臣だった。中山副大臣は、今年イスラエルがパレスチナを空爆し侵攻を仕掛けたことをはっきり擁護したことで話題となった、日本では珍しい部類に入る親イスラエル議員だ。人権や差別問題を冷笑する雑誌が取り上げ、オリンピックを進める政府与党の大臣が、おそらく政府や党に諮ることなく直接ユダヤ系団体に連絡したのだ。

プロフィール

藤崎剛人

(ふじさき・まさと) 批評家、非常勤講師
1982年生まれ。東京大学総合文化研究科単位取得退学。専門は思想史。特にカール・シュミットの公法思想を研究。『ユリイカ』、『現代思想』などにも寄稿。訳書にラインハルト・メーリング『カール・シュミット入門 ―― 思想・状況・人物像』(書肆心水、2022年)など。
X ID:@hokusyu1982

あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

米経済活動、ほぼ変化なし 雇用減速・物価は緩やかに

ワールド

米移民当局、レビット報道官の親戚女性を拘束 不法滞

ビジネス

米ホワイトハウス近辺で銃撃、州兵2人重体か トラン

ビジネス

NY外為市場=円下落、日銀利上げ観測受けた買い細る
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:ガザの叫びを聞け
特集:ガザの叫びを聞け
2025年12月 2日号(11/26発売)

「天井なき監獄」を生きるパレスチナ自治区ガザの若者たちが世界に向けて発信した10年の記録

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    インド国産戦闘機に一体何が? ドバイ航空ショーで墜落事故、浮き彫りになるインド空軍の課題
  • 2
    【最先端戦闘機】ミラージュ、F16、グリペン、ラファール勢ぞろい ウクライナ空軍は戦闘機の「見本市」状態
  • 3
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるようになる!筋トレよりもずっと効果的な「たった30秒の体操」〈注目記事〉
  • 4
    【クイズ】次のうち、マウスウォッシュと同じ効果の…
  • 5
    7歳の娘の「スマホの検索履歴」で見つかった「衝撃の…
  • 6
    ミッキーマウスの著作権は切れている...それでも企業…
  • 7
    がん患者の歯のX線画像に映った「真っ黒な空洞」...…
  • 8
    ウクライナ降伏にも等しい「28項目の和平案」の裏に…
  • 9
    【銘柄】イオンの株価が2倍に。かつての優待株はなぜ…
  • 10
    あなたは何歳?...医師が警告する「感情の老化」、簡…
  • 1
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判殺到、そもそも「実写化が早すぎる」との声も
  • 2
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるようになる!筋トレよりもずっと効果的な「たった30秒の体操」〈注目記事〉
  • 3
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸送機「C-130」謎の墜落を捉えた「衝撃映像」が拡散
  • 4
    ポルノ依存症になるメカニズムが判明! 絶対やって…
  • 5
    インド国産戦闘機に一体何が? ドバイ航空ショーで…
  • 6
    マムダニの次は「この男」?...イケメンすぎる「ケネ…
  • 7
    AIの浸透で「ブルーカラー」の賃金が上がり、「ホワ…
  • 8
    海外の空港でトイレに入った女性が見た、驚きの「ナ…
  • 9
    【銘柄】イオンの株価が2倍に。かつての優待株はなぜ…
  • 10
    「まじかよ...」母親にヘアカットを頼んだ25歳女性、…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 3
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 4
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 5
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 6
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸…
  • 7
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 8
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読…
  • 9
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
  • 10
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」は…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story