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東京五輪は始まる前から失敗していた

東京オリンピック・パラリンピックの聖火(7月23日) Kai Pfaffenbach-REUTERS
<開会式直前のドタバタ解任劇までの数々の不祥事、責任を取らない組織委員会、ブルーインパルスの失敗を成功のように扱うメディア、「安心安全」の嘘──ここまでガバナンスが崩壊すれば、もう誰も修正できない>
東京オリンピックのガバナンス崩壊が止まらない。「バブル方式で安心・安全」はどこへやら。「バブル」であるはずの選手村からは毎日の感染者。オリンピック関係者はワクチン未摂取の日本の市民とガンガン接触する始末。
開会式をめぐるグダグダはいっそう酷い。開会式演出担当者が発表されるやいなや、音楽責任者の小山田圭吾が学生時代に行っていた壮絶ないじめを過去に自慢していたことを指摘され辞任。またパラリンピックの文化プログラムに起用されていた絵本作家ののぶみも、同様のいじめ問題や過去の障碍者差別発言が指摘され辞任した。そして開会式前日には、演出担当の元お笑いコンビ「ラーメンズ」の小林賢太郎が、過去のコントにナチスによるユダヤ人虐殺を揶揄するようなボケを組み込んでいたと指摘され、解任されたのである。
小林賢太郎解任への疑問
ナチス政権下でおよそ600万人のユダヤ人が虐殺された、いわゆる「ホロコースト」については、否定したり揶揄したりすることが世界的に禁じられている。そのような行為に及んだ場合、国によっては犯罪として処罰の対象となる。オリンピックは差別の禁止や人権の尊重を理念的な建前としており、過去のコントとはいえ開会式の演出家にふさわしいとはいえない。その行為について十分な反省と学習をする期間も乏しく、解任はやむを得ない。
しかし、解任までに至った直接的な経緯については、少しだけ注意を向けたほうがよい。問題となったコントが収録されているビデオを発掘したのは、雑誌『実話BUNKAタブー』なのだが、この雑誌自体がそもそも露悪的な内容を取り扱う雑誌であったということだ。同誌には『テコンダー朴』のような差別漫画も連載されている。
さらに、『実話BUNKAタブー』の記事を受けて、真っ先にユダヤ系団体の「サイモン・ヴィーゼンタール・センター」(SWC)に告発したのは、中山泰秀防衛副大臣だった。中山副大臣は、今年イスラエルがパレスチナを空爆し侵攻を仕掛けたことをはっきり擁護したことで話題となった、日本では珍しい部類に入る親イスラエル議員だ。人権や差別問題を冷笑する雑誌が取り上げ、オリンピックを進める政府与党の大臣が、おそらく政府や党に諮ることなく直接ユダヤ系団体に連絡したのだ。
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