コラム

【2021年の重要課題】日本の右派ポピュリストが進める改憲論議に乗ってはいけない

2020年12月29日(火)17時42分

集団的自衛権の合憲解釈も、この法規範体系を破壊する政治の力の問題なのであって、憲法の条文に問題があるわけではない。「募ってはいるが募集はしていない」「会っただけで会食はしていない」こうした言語感覚に基づいて憲法を解釈する者たちが議席を有していることが問題なのだ。

改憲論議という空中戦をやめて、本当の憲法論議を

憲法は確かに、私たちの日常と密接に関係している。生活上の様々な問題を、憲法の人権カタログと結びつけて考え、それをみんなで議論しながら具体的な要望や政策へと落とし込んでいく作業は、ふつうの人々が政治に参加していくプロセスとしてはまっとうな道筋だろう。

憲法に関する身近な取り組みとしては、「明日の自由を守る若手弁護士の会」が開催している学習会「憲法カフェ」などもある。

ところが、それが新たな憲法をデザインしたいという欲望と結びついてしまうと、話は変わってくる。身近な生活上の問題と憲法をリンクさせようとする地道な作業は消え去り、憲法についての前提知識の共有もないまま、各々が好き勝手に「自分が考えた最強の憲法」を提示し合うだけの空中戦が急に始まる。

憲法改正を悲願とした安倍政権は、結局それを果たせぬまま倒れた。一方、改憲の準備が中断されたわけではない。1月から始まる通常国会では、臨時国会に続き国民投票法改正案の処遇が問題になるだろう。

憲法を「コクミン」全体で「ギロン」しようという運動は、一見すると前向きな運動のように思える。しかしその動きは実際のところ、憲法の充足のために使われるべき政治リソースを、不要不急の空中戦に無駄に注ぎ込ませるだけの「反立憲的」な行為なのである。

プロフィール

藤崎剛人

(ふじさき・まさと) 批評家、非常勤講師
1982年生まれ。東京大学総合文化研究科単位取得退学。専門は思想史。特にカール・シュミットの公法思想を研究。『ユリイカ』、『現代思想』などにも寄稿。訳書にラインハルト・メーリング『カール・シュミット入門 ―― 思想・状況・人物像』(書肆心水、2022年)など。
X ID:@hokusyu1982

あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

米シティ、ライトハイザー元通商代表をシニアアドバイ

ビジネス

アップル、関税で今四半期9億ドルコスト増 1─3月

ビジネス

米国株式市場=上昇、ダウ・S&P8連騰 マイクロソ

ビジネス

加藤財務相、為替はベセント財務長官との間で協議 先
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:英語で学ぶ 国際ニュース超入門
特集:英語で学ぶ 国際ニュース超入門
2025年5月 6日/2025年5月13日号(4/30発売)

「ゼロから分かる」各国・地域情勢の超解説と時事英語

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本の未婚男性の「不幸感」は他国と比べて特異的に高く、女性では反対に既婚の方が高い
  • 2
    マリフアナを合法化した末路とは? 「バラ色の未来が来るはずだったのに...」
  • 3
    タイタニック生存者が残した「不気味な手紙」...何が書かれていた?
  • 4
    ウクライナ戦争は終わらない──ロシアを動かす「100年…
  • 5
    インド北部の「虐殺」が全面「核戦争」に発展するか…
  • 6
    MRI検査で体内に「有害金属」が残留する可能性【最新…
  • 7
    悲しみは時間薬だし、幸せは自分次第だから切り替え…
  • 8
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」では…
  • 9
    クルミで「大腸がんリスク」が大幅に下がる可能性...…
  • 10
    朝1杯の「バターコーヒー」が老化を遅らせる...細胞…
  • 1
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 2
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 3
    MRI検査で体内に「有害金属」が残留する可能性【最新研究】
  • 4
    中国で「ネズミ人間」が増殖中...その驚きの正体とは…
  • 5
    ロシア国内エラブガの軍事工場にウクライナが「ドロ…
  • 6
    日本の未婚男性の「不幸感」は他国と比べて特異的に…
  • 7
    パニック発作の原因の多くは「ガス」だった...「ビタ…
  • 8
    マリフアナを合法化した末路とは? 「バラ色の未来…
  • 9
    使うほど脱炭素に貢献?...日建ハウジングシステムが…
  • 10
    私の「舌」を見た医師は、すぐ「癌」を疑った...「口…
  • 1
    【話題の写真】高速列車で前席のカップルが「最悪の行為」に及ぶ...インド人男性の撮影した「衝撃写真」にネット震撼【画像】
  • 2
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 3
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 4
    健康寿命を伸ばすカギは「人体最大の器官」にあった.…
  • 5
    【心が疲れたとき】メンタルが一瞬で “最…
  • 6
    間食はなぜ「ナッツ一択」なのか?...がん・心疾患・抜…
  • 7
    北朝鮮兵の親たち、息子の「ロシア送り」を阻止する…
  • 8
    【クイズ】世界で最も「半導体の工場」が多い国どこ…
  • 9
    クレオパトラの墓をついに発見? 発掘調査を率いた…
  • 10
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story