コラム

ギリシャの極左「炎の陰謀」の正体

2010年11月05日(金)17時09分

pa_041110.jpg

ニーチェに傾倒? ギリシャ警察が11月2日に逮捕した「炎の陰謀」メンバー
Reuters

 サルコジ仏大統領、メルケル独首相、ベルルスコーニ伊首相ら欧州首脳にあてた小包爆弾が相次いで見つかっている事件を、ギリシャ当局は「炎の陰謀」と名乗る極左過激派グループの仕業と見て行方を追っている。既にメンバー2人が逮捕されたが、この謎めいたグループの正体はほとんどわかっていない。ウォールストリート・ジャーナルは以下のように伝える。


「炎の陰謀」の名が最初に浮上したのは08年初め。ギリシャ警察が悪名高い極左グループ「11月17日運動」を壊滅させて6年後のことだ。だが、炎の陰謀の正体はほとんど知られていない。

 炎の陰謀は、2年ほど前からアテネ周辺で人が死なない程度の爆弾攻撃を繰り返してき。逮捕されたメンバー数人の大半は20代だ。グループは反権力で知られており、ここへきて欧州主要国の首脳をターゲットにし始めたのは、財政危機でEU(欧州連合)から1100億ユーロの支援を受けたのと引き換えに、ギリシャ政府が緊縮財政を強行しようとしていることに対する抗議なのかもしれない。


 ウィキペディア(英語版)に掲載されている過去の標的を見ると、元司法長官、自動車ディーラー数店、フランスのAFP通信、ネオナチ党、パキスタンの地域指導者、ギリシャ議会、アテネにあるメキシコ、ブルガリア、チリ、ドイツの各大使館など、一見して脈絡がない。死者が一人も出ていないようなのが救いだ。

■EUに対する逆恨みか

 かつて在ギリシャ米大使館で政治参事官を務めたジョン・ブレイディ・キースリングは炎の陰謀のイデオロギーについて興味深いことを書いている。


 逮捕された炎の陰謀メンバー、パナイトス・マソーラスの主張を見ると、このグループはその初期にはニーチェ哲学の中途半端な影響下にあったようだ。

「我々は道徳を破壊し、大惨事を引き起こし、熱狂を囁き、『戦争攻撃』を訴える。正義とは、美と強さを相殺するために臆病者が作り出した概念だ」──マソーラスが10月9日に独立メディアセンター(通称インディメディア)のアテネ支部に宛てて出した手紙)

 最近の炎の陰謀のお題目はより長く、より成熟して革命的になってきた。経済危機を契機にギリシャが「革命期」に突入するという信念から生まれた、新しい集団的責任感が見てとれる。象徴的に建物を爆弾攻撃するという戦術面でも修辞面でも、このグループは少しずつ、革命運動(EA)や革命的民衆運動(ELA)に似てきている。両者とも、理論共産主義者と反権力/無政府主義テロストとの緊張した協調から生まれたものだ。


■なぜ極右でなく極左か

 欧州の他の国ではほとんど死滅した70年代スタイルの左翼主義や無政府主義的主戦論が、なぜギリシャで生き残ってきたのか興味深い。

 また、アナーキスト(無政府主義者)ニュースというサイトが作ったギリシャの無政府主義グループのリストも一見の価値がある(それが本当に実在するのかどうかはわからないが)。ざっと見て、私のお気に入りは以下のグループだ。

・夏の秩序崩壊奇襲部隊
・汚れた意識の放火団
・秩序の脱構築評議会
・社会平和の完全破壊者
・ニコラ・テスラ特殊部隊

──ジョシュア・キーティング
[米国東部時間2010年11月4日(木)14時46分更新]

Reprinted with permission from "FP Passport", 5/11/2010. © 2010 by The Washington Post Company.

プロフィール

ForeignPolicy.com

国際政治学者サミュエル・ハンチントンらによって1970年に創刊された『フォーリン・ポリシー』は、国際政治、経済、思想を扱うアメリカの外交専門誌。発行元は、ワシントン・ポスト・ニューズウィーク・インタラクティブ傘下のスレート・グループ。『PASSPORT:外交エディター24時』は、ワシントンの編集部が手がける同誌オンライン版のオリジナル・ブログ。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

トランプ氏が英国到着、2度目の国賓訪問 経済協力深

ワールド

JERA、米シェールガス資産買収交渉中 17億ドル

ワールド

ロシアとベラルーシ、戦術核の発射予行演習=ルカシェ

ビジネス

株式6・債券2・金2が最適資産運用戦略=モルガンS
MAGAZINE
特集:世界が尊敬する日本の小説36
特集:世界が尊敬する日本の小説36
2025年9月16日/2025年9月23日号(9/ 9発売)

優れた翻訳を味方に人気と評価が急上昇中。21世紀に起きた世界文学の大変化とは

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「二度見した」「小石のよう...」マッチョ俳優ドウェイン・ジョンソンの、あまりの「激やせぶり」にネット騒然
  • 2
    「日本を見習え!」米セブンイレブンが刷新を発表、日本では定番商品「天国のようなアレ」を販売へ
  • 3
    ケージを掃除中の飼い主にジャーマンシェパードがまさかの「お仕置き」!
  • 4
    【クイズ】次のうち、飲むと「蚊に刺されやすくなる…
  • 5
    腹斜筋が「発火する」自重トレーニングとは?...硬く…
  • 6
    「最悪」「悪夢だ」 飛行機内で眠っていた女性が撮影…
  • 7
    中国は「アメリカなしでも繁栄できる」と豪語するが.…
  • 8
    観光客によるヒグマへの餌付けで凶暴化...74歳女性が…
  • 9
    「なにこれ...」数カ月ぶりに帰宅した女性、本棚に出…
  • 10
    「この歩き方はおかしい?」幼い娘の様子に違和感...…
  • 1
    「最悪」「悪夢だ」 飛行機内で眠っていた女性が撮影...目覚めた時の「信じがたい光景」に驚きの声
  • 2
    「中野サンプラザ再開発」の計画断念、「考えてみれば当然」の理由...再開発ブーム終焉で起きること
  • 3
    【クイズ】世界で唯一「蚊のいない国」はどこ?
  • 4
    【クイズ】次のうち、飲むと「蚊に刺されやすくなる…
  • 5
    科学が解き明かす「長寿の謎」...100歳まで生きる人…
  • 6
    「二度見した」「小石のよう...」マッチョ俳優ドウェ…
  • 7
    「我々は嘘をつかれている...」UFOらしき物体にミサ…
  • 8
    埼玉県川口市で取材した『おどろきの「クルド人問題…
  • 9
    【クイズ】世界で1番「島の数」が多い国はどこ?
  • 10
    観光客によるヒグマへの餌付けで凶暴化...74歳女性が…
  • 1
    「4針ですかね、縫いました」日本の若者を食い物にする「豪ワーホリのリアル」...アジア出身者を意図的にターゲットに
  • 2
    【クイズ】世界で唯一「蚊のいない国」はどこ?
  • 3
    「まさかの真犯人」にネット爆笑...大家から再三「果物泥棒」と疑われた女性が無実を証明した「証拠映像」が話題に
  • 4
    信じられない...「洗濯物を干しておいて」夫に頼んだ…
  • 5
    「最悪」「悪夢だ」 飛行機内で眠っていた女性が撮影…
  • 6
    「レプトスピラ症」が大規模流行中...ヒトやペットに…
  • 7
    「あなた誰?」保育園から帰ってきた3歳の娘が「別人…
  • 8
    「中野サンプラザ再開発」の計画断念、「考えてみれ…
  • 9
    「我々は嘘をつかれている...」UFOらしき物体にミサ…
  • 10
    プール後の20代女性の素肌に「無数の発疹」...ネット…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story