コラム

世界で最も無意味なテロ集団

2010年04月13日(火)16時38分

 

卑劣 MI5の施設前で爆発の跡を調べる捜査員(ベルファスト、4月12日)
Cathal McNaughton-Reuters
 


 テロは政治的戦術として決して擁護できるものではないが、少なくともテロの背景にある政治的動機を特定することは可能だ。しかしそれは、カトリック過激派アイルランド共和軍(IRA)の分派「真のIRA」にはまったく当てはまらない。彼らは、イギリス政府が北アイルランドでの司法・警察権を自治政府に移譲した直後、こんな事をしでかした。


「真のIRA」は、対テロ情報機関MI5の北アイルランドにおける拠点で、厳重に警備された施設「パレス・バラックス」の門に爆弾を運ぶよう、ベルファストのタクシー運転手に強要したことを認めた。

警察幹部によると、運転手の勇気ある行動がなければ、裕福なベルファスト郊外のパレスわきに住む一般市民が爆弾であっけなく殺傷されていたはずだという。

運転手(名前は非公表)は武装した3人から、爆弾をパレスに届けてそれを黙っておけ、さもなくば彼か家族を処刑すると脅されていた。だが彼は、外周の門の外に車を止めるとすぐに「爆弾だ!」と叫んだという。

20分後、近所の老夫婦や家族らを警官が避難させているさなかに爆弾が爆発し、屋根や庭に金属片やがれきが降り注いだ。けが人はなかった。


 テロを「卑怯」と表現するのは政治的な決まり文句になっている。タクシー運転手の家族を誘拐したうえで本人に爆弾を住宅街まで運ばせるという行為には、それ以外の単語が思い浮かばない。

「真のIRA」のテロは下手で頻度も少ないため、市民に幅広く恐怖を植え付ける可能性は小さい。無神経で政治的に鈍感な彼らが共感を呼ぶとも思えない。

 しかも主流の共和主義政治家たちが「真のIRA」の行為を容赦なく批判している。元IRA司令官のマーティン・マクギネス自治政府副首相は「政治状況は永遠に変わってしまったのだから、時間の無駄、まったく無益」とこき下ろす。

 もう足を洗うべきときだろう。

──ジョシュア・キーティング
[米国東部時間2010年04月12日(月)13時50分更新]

Reprinted with permission from FP Passport, 13/4/2010.  ©2010 by Washingtonpost.Newsweek Interactive, LLC.

プロフィール

ForeignPolicy.com

国際政治学者サミュエル・ハンチントンらによって1970年に創刊された『フォーリン・ポリシー』は、国際政治、経済、思想を扱うアメリカの外交専門誌。発行元は、ワシントン・ポスト・ニューズウィーク・インタラクティブ傘下のスレート・グループ。『PASSPORT:外交エディター24時』は、ワシントンの編集部が手がける同誌オンライン版のオリジナル・ブログ。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

中国で「南京大虐殺」の追悼式典、習主席は出席せず

ワールド

トランプ氏、次期FRB議長にウォーシュ氏かハセット

ビジネス

アングル:トランプ関税が生んだ新潮流、中国企業がベ

ワールド

アングル:米国などからトップ研究者誘致へ、カナダが
MAGAZINE
特集:ジョン・レノン暗殺の真実
特集:ジョン・レノン暗殺の真実
2025年12月16日号(12/ 9発売)

45年前、「20世紀のアイコン」に銃弾を浴びせた男が日本人ジャーナリストに刑務所で語った動機とは

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    デンマーク国防情報局、初めて米国を「安全保障上の脅威」と明記
  • 2
    【衛星画像】南西諸島の日米新軍事拠点 中国の進出を睨み建設急ピッチ
  • 3
    受け入れ難い和平案、迫られる軍備拡張──ウクライナの選択肢は「一つ」
  • 4
    【クイズ】「100名の最も偉大な英国人」に唯一選ばれ…
  • 5
    「前を閉めてくれ...」F1観戦モデルの「超密着コーデ…
  • 6
    首や手足、胴を切断...ツタンカーメンのミイラ調査開…
  • 7
    現役・東大院生! 中国出身の芸人「いぜん」は、なぜ…
  • 8
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 9
    【揺らぐ中国、攻めの高市】柯隆氏「台湾騒動は高市…
  • 10
    世界最大の都市ランキング...1位だった「東京」が3位…
  • 1
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした「信じられない」光景、海外で大きな話題に
  • 2
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価に与える影響と、サンリオ自社株買いの狙い
  • 3
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だから日本では解決が遠い
  • 4
    兵士の「戦死」で大儲けする女たち...ロシア社会を揺…
  • 5
    【衛星画像】南西諸島の日米新軍事拠点 中国の進出…
  • 6
    健康長寿の鍵は「慢性炎症」にある...「免疫の掃除」…
  • 7
    デンマーク国防情報局、初めて米国を「安全保障上の…
  • 8
    キャサリン妃を睨む「嫉妬の目」の主はメーガン妃...…
  • 9
    ホテルの部屋に残っていた「嫌すぎる行為」の証拠...…
  • 10
    【クイズ】「100名の最も偉大な英国人」に唯一選ばれ…
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 3
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸送機「C-130」謎の墜落を捉えた「衝撃映像」が拡散
  • 4
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした…
  • 5
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 6
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 7
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 8
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 9
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 10
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story