コラム

英労働党への深すぎる失望

2009年06月09日(火)08時48分

pass060609.jpg

試練のとき 身内からの辞任要求をなんとかしのいだブラウンだが Reuters

 イギリス政界にとっては最悪の24時間だった。6月7日に行われた欧州議会選で、英労働党の得票率は15%以下。極右のイギリス国民党(BNP)が2議席を獲得する躍進を見せた。一部の労働党議員から退陣を求められていたゴードン・ブラウン首相は、批判派をなんとかねじ伏せ、辞任を回避した

 ナチス信奉者が創設したBNPに票が流れた原因について、2つの興味深い議論がある。

 ニューヨーク・タイムズ紙のスティーブン・アーランガーは次のように分析した。


 経済危機によってEU(欧州連合)はきわめて困難な課題を突きつけられたが、熱狂的な欧州統合論者でさえ、EUはこの試験に落第したと考えている。

 各国の指導者は国内政治にばかり目を向け、不況対策の中身や景気刺激策への投入額をめぐって激しく対立。欧州中央銀行にとって不況と将来のインフレのどちらがより深刻な懸念材料かという問題について意見を戦わせている。そして、他国の雇用を犠牲にして、国内の雇用確保に走っている。

 7日の欧州議会選の結果も、そうした実態を裏付けている。経済危機の渦中にあり、投票が義務化されている国もあるというのに、投票率は43%という歴史的な低さを記録。EU構想と貧しい加盟国からの移民に反対する極右政党が、緑の党と並んで議席を伸ばした。投票した人々にとって重要なのは国内問題だったのだ。

 一方、イギリスのテレビ局チャンネル4は以下のように論じた。


 最大の衝撃が走ったのは、BNPに投票した多くの人がかつては労働党支持者だったという説を、われわれが検証したときだろう。

 この説は事実のようだ。BNPに投票した人の実に59%が、労働党は「以前は自分のような人々の問題に取り組んでくれたが、最近は違う」と感じているという。

 労働党にとってさらなる懸念材料は、BNPへの投票者に留まらない無数の有権者がそうした感情を共有していることだ。イギリス人の63%が労働党が以前は自分たちの問題に取り組んでくれたと考えているが、今もそうだという回答はわずか19%だった。

  
 イラク戦争と経済危機などの諸問題に対して政治的、経済的な失策を長年重ねてきた政府から、イギリス国民の気持ちが一気に離れているという見方に、私も同意する。

 イギリスの保守党対労働党と、アメリカの共和党対民主党の現状を比較してみるのも面白い。米民主党と異なり、英労働党はバブル経済の創出と崩壊の責任を負っている。

 さらに、アメリカでは穏健派の間に大きな政府を容認する空気が広がっており、オバマ大統領がそうした左寄りの流れにうまく乗っている。一方、イギリスでは保守党のデービッド・キャメロン党首が右寄りに流れる世論をうまく利用しているようだ。

----アニー・ラウリー

Reprinted with permission from FP Passport, 09/06/2009. © 2009 by Washingtonpost.Newsweek Interactive, LLC.

プロフィール

ForeignPolicy.com

国際政治学者サミュエル・ハンチントンらによって1970年に創刊された『フォーリン・ポリシー』は、国際政治、経済、思想を扱うアメリカの外交専門誌。発行元は、ワシントン・ポスト・ニューズウィーク・インタラクティブ傘下のスレート・グループ。『PASSPORT:外交エディター24時』は、ワシントンの編集部が手がける同誌オンライン版のオリジナル・ブログ。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

独ポルシェ、組み立て最終段階の米への移管計画との報

ワールド

トランプ氏、無人機防衛強化や超音速飛行促進へ大統領

ワールド

グレタさんら搭乗のガザ支援船を拿捕、イスラエル軍が

ワールド

銃撃されたコロンビア上院議員、一命取り留める 容疑
MAGAZINE
特集:韓国新大統領
特集:韓国新大統領
2025年6月10日号(6/ 3発売)

出直し大統領選を制する李在明。「政策なきポピュリスト」の多難な前途

メールマガジンのご登録はこちらから。
メールアドレス

ご登録は会員規約に同意するものと見なします。

人気ランキング
  • 1
    日本の「プラごみ」で揚げる豆腐が、重大な健康被害と環境汚染を引き起こしている
  • 2
    一瞬にして村全体が消えた...スイスのビルヒ氷河崩壊の瞬間を捉えた「恐怖の映像」に広がる波紋
  • 3
    「ママ...!」2カ月ぶりの再会に駆け寄る13歳ラブラドールに涙
  • 4
    猫に育てられたピットブルが「完全に猫化」...ネット…
  • 5
    日本の女子を追い込む、自分は「太り過ぎ」という歪…
  • 6
    ウクライナが「真珠湾攻撃」決行!ロシア国内に運び…
  • 7
    ひとりで浴槽に...雷を怖れたハスキーが選んだ「安全…
  • 8
    ペットの居場所に服を置いたら「黄色い点々」がびっ…
  • 9
    50歳を過ぎた女は「全員おばあさん」?...これこそが…
  • 10
    あなたも当てはまる? 顔に表れるサイコパス・ナルシ…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story