コラム

感情計測テクノロジーが開く新ビジネスの可能性

2015年05月25日(月)14時03分

 もっと驚いたのは、「将来、こんなこともできます」という例だ。デートをしている2人。男性の方は、相手の感情がつかめない。そこで感情計測アプリを立ち上げて、おしゃべりの間モニターさせておく。それによって、実は彼女はとても好意をいただいていることが分かった.........。実際、相手の感情が分からない人はたくさんいるので、世の中をスムーズにするためにはこんなアプリは歓迎なのかもしれない。

 あるいは、運転中の家族。後部座席で子供が騒いでいるので、運転をしているお父さんが「静かにしなさい!」と何度も言うハメに。しかし、車に備え付けられた感情計測装置が、「感情が高まっています。運転に集中しましょう」と言ってくれる。これは、けっこういい使い方だ。

 その他にも、今の気分にあった音楽を自動的にかけてくれるとか、部屋の照明を変えてくれるとか、売るものを変えるとか、感情を核として無数に選択肢と商売のネタが広がるのだ。

 ただ、こういう感情テクノロジーにはちょっとした危険性も感じられないだろうか。
たとえば、感情が操作されてしまうこともあるだろう。相手が、ちょっと気分の落ち込んでいることを察して、気分を少しずつ盛り上げ、その気にさせて要らないものを買わせてしまう。

 あるいは、いつも楽しい気持ちにさせて虜にする。

 そうなれば、長期的に心理、物理の面で相手から搾取することは簡単になるだろう。感情は、注意力や認知、記憶、振る舞い、意思決定を左右するので、感情さえつかんでしまえば、あとは何でもありだ。
また、そんな被害がなくても心配な要素もある。

「相手の気持ちに寄り添う」というは通常はいい意味に使われる。しかし、機械がいつも自動的にそうしたことをやるようになると、本来の自分の心の在処が見えにくくならないだろうか。ちょっとへこんでいるけれどどうにか立ち直ろうとか、相手が厳しいことを言ってくれたから気づいた、人間が独自でやること、あるいは他人とのやりとりで起こることはテクノロジーにはまだできない。だが、それこそ人間の成長や成熟には必要な心の動きなのではないだろうか。

 テクノロジーがいよいよ人間の感情領域に入ってきた。面白そうではあるが、注意も必要だ。

プロフィール

瀧口範子

フリーランスの編集者・ジャーナリスト。シリコンバレー在住。テクノロジー、ビジネス、政治、文化、社会一般に関する記事を新聞、雑誌に幅広く寄稿する。著書に『なぜシリコンバレーではゴミを分別しないのか? 世界一IQが高い町の「壁なし」思考習慣』、『行動主義: レム・コールハース ドキュメント』『にほんの建築家: 伊東豊雄観察記』、訳書に『ソフトウェアの達人たち: 認知科学からのアプローチ(テリー・ウィノグラード編著)』などがある。

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