コラム

iPad以外のタブレットが選べる時代が始まった

2012年06月29日(金)14時50分

 タブレットパソコンの周辺が、にわかに騒がしくなってきた。ここ最近、マイクロソフトとグーグルが相次いで自社ブランドの製品を発表したからである。

 この2社のタブレットが出たことで、やっとこのプレーヤーが勢揃いした感がある。iPadを発表した2010年以降、アップルがほぼ市場を独占し、それにサムスンのギャラクシーが攻勢をかけてきた。アマゾンのキンドル・ファイアも、主として電子書籍で獲得した客に軸足を置き、メディア消費ツールとしての廉価版タブレットをアピールしてきた。

 だが今回マイクロソフトとグーグルが加わったことで、これからのタブレット戦争の構図が何となく見えてきた感じがする。

 値段で言えば、アップルやマクロソフトの高価版と、アマゾンやグーグルの廉価版に分かれること。マイクロソフトは自社製タブレット「サーフェス」の値段をまだ明らかにしていないが、おそらくはアップルと正面衝突する価格に設定しそうだ。

 それに対して、グーグルが発表したタブレット「ネクサス7」とアマゾンのキンドル・ファイアは同じ199ドルという価格設定。ただしネクサス7は正面カメラやGPS機能を搭載しスクリーンの解像度も高くするなど、性能をぐっと上げている。お得感はかなり大きい。

 大きさもポイントだ。iPadとサーフェスの10インチに対して、グーグルのネクサス7とキンドル・ファイアは7インチ。ことにネクサス7は400グラムにも満たない軽さで、片手で持てるこの7インチというサイズは、タブレットの適性サイズとしてかなり説得力がある。アップルも、これで7インチのiPadを出さずにはいられなくなるだろうと、業界関係者は見ている。

 さらに、これまではOS開発に徹していた企業が、自社ブランドのハードウエアを出すという点も新しい。グーグルはすでにスマートフォンでハードウエアを出していたが、今回のネクサス7のタブレットとしての完成度は、同社の意気込みを感じさせるものになっている。

 マイクロソフトも、メーカーと競合して関係を悪化させるのではないかというリスクを背負いながらサーフェスを世に出したわけだが、カバーにキーボードとしての機能も兼ねさせるなど、ひと目見ただけでもデザイン上の工夫度がかなり高いことが伺われる。いずれも、OS開発企業がその最適な使い方をメーカー各社に実演して見せるという意味合いがかなり強い。

 折しもiPadに追従していたサムソンが、知的財産権侵害でアメリカでのギャラクシー・タブレットの販売を差し止めされる事態になった。グーグルやマイクロソフトの自社製タブレット発表からは、iPadの呪縛から逃れて、独自のタブレットのあり方を求めようと、一気奮発している様子も感じられる。

 iPadの呪縛ということで言えば、われわれ消費者の側も同じだろう。これだけ出揃ったことで、やっとまともな選択肢が生まれた、と私は思う。

 ただ、これからの勝負はタブレットという機器だけでは決まらない。タブレットを使って気軽にアクセスできるクラウド上のコンテンツがどの程度あるか、また自宅でテレビ画面やステレオなどの他の機器を結びつけて、どれだけ自在にコントロールやコンテンツが引き出せるかといったことも、利用の重要な要素になる。その意味では、われわれはもうクラウドのエコシステムの中に位置していると言ってもいい。

 現状では、コンテンツの部分で先へ進んでいるのはアマゾン、機器間のコントロールではアップルだ。マイクロソフトはまだ未知数。そしてグーグルは、今回爆弾のように複数の新製品を発表して、インターネットのエコシステムを押さえていることをアピールしている。コンテンツの品揃えでは少々遅れを取っているが、このアピールが功を奏して、コンテンツ企業が積極的に乗り出してくることもあるだろう。

 タブレット競争が、次のフェーズへ進んだ。この展開は、歓迎したい。

プロフィール

瀧口範子

フリーランスの編集者・ジャーナリスト。シリコンバレー在住。テクノロジー、ビジネス、政治、文化、社会一般に関する記事を新聞、雑誌に幅広く寄稿する。著書に『なぜシリコンバレーではゴミを分別しないのか? 世界一IQが高い町の「壁なし」思考習慣』、『行動主義: レム・コールハース ドキュメント』『にほんの建築家: 伊東豊雄観察記』、訳書に『ソフトウェアの達人たち: 認知科学からのアプローチ(テリー・ウィノグラード編著)』などがある。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

米中貿易枠組み合意、軍事用レアアース問題が未解決=

ワールド

独仏英、イランに核開発巡る協議を提案 中東の緊張緩

ワールド

イスラエルとイランの応酬続く、トランプ氏「紛争終結

ワールド

英、中東に戦闘機を移動 地域の安全保障支援へ=スタ
MAGAZINE
特集:非婚化する世界
特集:非婚化する世界
2025年6月17日号(6/10発売)

非婚化・少子化の波がアメリカもヨーロッパも襲う。世界の経済や社会福祉、医療はどうなる?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    ブラッド・ピット新髪型を「かわいい」「史上最高にかっこいい」とネット絶賛 どんなヘアスタイルに?
  • 2
    「サイドミラー1つ作れない」レアアース危機・第3波でパニック...中国の輸出規制が直撃する「グローバル自動車産業」
  • 3
    サイコパスの顔ほど「魅力的に見える」?...騙されずに「信頼できない人」を見抜く方法
  • 4
    林原めぐみのブログが「排外主義」と言われてしまう…
  • 5
    右肩の痛みが告げた「ステージ4」からの生還...「生…
  • 6
    構想40年「コッポラの暴走」と話題沸騰...映画『メガ…
  • 7
    逃げて!背後に写り込む「捕食者の目」...可愛いウサ…
  • 8
    「結婚は人生の終着点」...欧米にも広がる非婚化の波…
  • 9
    4年間SNSをやめて気づいた「心を失う人」と「回復で…
  • 10
    庭にクマ出没、固唾を呑んで見守る家主、そして次の…
  • 1
    庭にクマ出没、固唾を呑んで見守る家主、そして次の瞬間...「信じられない行動」にネット驚愕
  • 2
    大阪万博は特に外国人の評判が最悪...「デジタル化未満」の残念ジャパンの見本市だ
  • 3
    「セレブのショーはもう終わり」...環境活動家グレタらが乗ったガザ支援船をイスラエルが拿捕
  • 4
    「ママ...!」2カ月ぶりの再会に駆け寄る13歳ラブラ…
  • 5
    「サイドミラー1つ作れない」レアアース危機・第3波で…
  • 6
    ブラッド・ピット新髪型を「かわいい」「史上最高に…
  • 7
    ふわふわの「白カビ」に覆われたイチゴを食べても、…
  • 8
    脳も体も若返る! 医師が教える「老後を元気に生きる…
  • 9
    ファスティングをすると、なぜ空腹を感じなくなるの…
  • 10
    アメリカは革命前夜の臨界状態、余剰になった高学歴…
  • 1
    【定年後の仕事】65歳以上の平均年収ランキング、ワースト2位は清掃員、ではワースト1位は?
  • 2
    日本の「プラごみ」で揚げる豆腐が、重大な健康被害と環境汚染を引き起こしている
  • 3
    日本はもう「ゼロパンダ」でいいんじゃない? 和歌山、上野...中国返還のその先
  • 4
    一瞬にして村全体が消えた...スイスのビルヒ氷河崩壊…
  • 5
    庭にクマ出没、固唾を呑んで見守る家主、そして次の…
  • 6
    大爆発で一瞬にして建物が粉々に...ウクライナ軍「Mi…
  • 7
    「ママ...!」2カ月ぶりの再会に駆け寄る13歳ラブラ…
  • 8
    あなたも当てはまる? 顔に表れるサイコパス・ナルシ…
  • 9
    ドローン百機を一度に発射できる中国の世界初「ドロ…
  • 10
    【クイズ】EVの電池にも使われる「コバルト」...世界…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story