コラム

カイロ 若きアーティストたちの抵抗

2012年09月28日(金)12時00分

 政権転覆から一年半、遅ればせながら「アラブの春」の舞台となったカイロのタハリール広場を訪れた。たまたま、広場に面したカイロ・アメリカン大学で会議があったので、その周辺を毎日通ったのだが、そのキャンパスを囲む壁が巨大な落書きで埋め尽くされている。一年半前のタハリール広場でのデモは、若いアーティストが音楽や絵や映像などを披露する、一種のアート解放区となったのだが、デモ自体が縮小しても、批判的アーティストが壁に集う伝統は定着したようだ。

 と、言葉で説明してもつまらないので、今回はそのいくつかを画像で紹介しよう。

 一年前の大規模デモは、金曜日、礼拝のあとに結集するのが一般的だったが、今でも金曜午後は人々が集まってくる。なので、朝のうちから皆、脚立まで準備して大作に取り掛かる。(以下の絵には「グラフィーティー」と書いてある。)
1_opt.jpg


 人が集まってくると、絵だけではない、パフォーマンスをする人々も現れる。これは、未だに軍暫定評議会が権力を握っていることに対する批判。
2_opt.jpg


 一方で、6月に誕生したイスラーム主義のムルスィー大統領に対する揶揄も、登場した。
3_opt.jpg

 とまあ、政治批判満載の絵がほとんどだが、それは別にしてもなかには芸術的な大作もある。
4_opt.jpg
踊るように闘った、まさに自由を求める喜びが溢れる。


 もうひとつ、少女漫画的大作。運動のなかで命を落とした若者へのオマージュだ。
5_opt.jpg


 軍の支配が続き、新大統領にはイスラーム主義者が選ばれる、という今のエジプトの政治状況に、デモの中心的役割を果たした若者は釈然としない思いを抱えている。「未だ革命は成就せず」とばかりに、壁に絵を描き続けることで、政治批判を続ける若者たち。警察に消されても消されても(以下一枚目、壁の左下のほうでネズミがローラーで落書きを白く塗りつぶしている)、描き続けることこそが抵抗の営みだと主張しているのだ(同二枚目)。
6_opt.jpg

7_opt.jpg


 

プロフィール

酒井啓子

千葉大学法政経学部教授。専門はイラク政治史、現代中東政治。1959年生まれ。東京大学教養学部教養学科卒。英ダーラム大学(中東イスラーム研究センター)修士。アジア経済研究所、東京外国語大学を経て、現職。著書に『イラクとアメリカ』『イラク戦争と占領』『<中東>の考え方』『中東政治学』『中東から世界が見える』など。最新刊は『移ろう中東、変わる日本 2012-2015』。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

ガザ全域で通信遮断、イスラエル軍の地上作戦拡大の兆

ワールド

トランプ氏、プーチン氏に「失望」 英首相とウクライ

ワールド

インフレ対応で経済成長を意図的に抑制、景気後退は遠

ビジネス

FRB利下げ「良い第一歩」、幅広い合意= ハセット
MAGAZINE
特集:世界が尊敬する日本の小説36
特集:世界が尊敬する日本の小説36
2025年9月16日/2025年9月23日号(9/ 9発売)

優れた翻訳を味方に人気と評価が急上昇中。21世紀に起きた世界文学の大変化とは

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「何だこれは...」クルーズ船の客室に出現した「謎の物体」にSNS大爆笑、「深海魚」説に「カニ」説も?
  • 2
    燃え上がる「ロシア最大級の製油所」...ウクライナ軍、夜間に大規模ドローン攻撃 国境から約1300キロ
  • 3
    1年で1000万人が死亡の可能性...迫る「スーパーバグ」感染爆発に対抗できる「100年前に忘れられた」治療法とは?
  • 4
    「日本を見習え!」米セブンイレブンが刷新を発表、…
  • 5
    「最悪」「悪夢だ」 飛行機内で眠っていた女性が撮影…
  • 6
    アジア作品に日本人はいない? 伊坂幸太郎原作『ブ…
  • 7
    中国山東省の住民が、「軍のミサイルが謎の物体を撃…
  • 8
    ケージを掃除中の飼い主にジャーマンシェパードがま…
  • 9
    中国経済をむしばむ「内巻」現象とは?
  • 10
    「ゾンビに襲われてるのかと...」荒野で車が立ち往生…
  • 1
    「最悪」「悪夢だ」 飛行機内で眠っていた女性が撮影...目覚めた時の「信じがたい光景」に驚きの声
  • 2
    「中野サンプラザ再開発」の計画断念、「考えてみれば当然」の理由...再開発ブーム終焉で起きること
  • 3
    【クイズ】次のうち、飲むと「蚊に刺されやすくなる」飲み物はどれ?
  • 4
    科学が解き明かす「長寿の謎」...100歳まで生きる人…
  • 5
    「二度見した」「小石のよう...」マッチョ俳優ドウェ…
  • 6
    「我々は嘘をつかれている...」UFOらしき物体にミサ…
  • 7
    【クイズ】世界で唯一「蚊のいない国」はどこ?
  • 8
    【クイズ】世界で1番「島の数」が多い国はどこ?
  • 9
    「何だこれは...」クルーズ船の客室に出現した「謎の…
  • 10
    電車内で「ウクライナ難民の女性」が襲われた驚愕シ…
  • 1
    「4針ですかね、縫いました」日本の若者を食い物にする「豪ワーホリのリアル」...アジア出身者を意図的にターゲットに
  • 2
    【クイズ】世界で唯一「蚊のいない国」はどこ?
  • 3
    「まさかの真犯人」にネット爆笑...大家から再三「果物泥棒」と疑われた女性が無実を証明した「証拠映像」が話題に
  • 4
    信じられない...「洗濯物を干しておいて」夫に頼んだ…
  • 5
    「最悪」「悪夢だ」 飛行機内で眠っていた女性が撮影…
  • 6
    「中野サンプラザ再開発」の計画断念、「考えてみれ…
  • 7
    「我々は嘘をつかれている...」UFOらしき物体にミサ…
  • 8
    プール後の20代女性の素肌に「無数の発疹」...ネット…
  • 9
    【クイズ】次のうち、飲むと「蚊に刺されやすくなる…
  • 10
    「怖すぎる」「速く走って!」夜中に一人ランニング…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story