コラム

イランの「ぶっ壊し」屋再選

2009年08月19日(水)11時45分

 とうとう日本も選挙である。果たして「チェンジ」が起こるのかどうか。選挙は、政権を変えられる可能性を国民に担保してこそ民主的なわけで、選挙を繰り返しても何も変わらない、という閉塞感は、民主主義への不信感を生む。

 さて、変わらないことの不信感が暴動につながったのが、2カ月前のイランの大統領選挙だった。選挙の不正を巡って流血の混乱に至ったことは、前にも書いたが、その騒ぎもどこ吹く風で、アフマディネジャードは今月5日に、2期目の大統領に就任した。
 
 選挙後の混乱は、改革派対保守派という、イスラーム体制内部の対立として理解されてきたが、どうも事態は別の方向に動いているようだ。むしろアフマディネジャードは、イスラーム体制自体を「ぶっ壊し」そうな感がある。

 アフマディネジャードが強引に再選された背景には、保守派のトップ、ハーメネイ最高指導者の後ろ盾があったわけだが、そのハーメネイ師との間に不協和音が生じている。大統領認証式のとき、アフマディネジャードがハーメネイ師の手にキスしようとしたのを、ハーメネイ師が避けた。その1週間前に、アフマディネジャードがハーメネイ支持派のモフセニエジェイ情報相を解任したからだ。また7月半ばには、親族のマシャイ副大統領を第一副大統領に昇格させようとして、ハーメネイ師らの猛反対にあっている。

 この対立は、突然現れたものではない。そもそもイスラーム法学者の資格を持たないアフマディネジャードは、保守派、改革派問わず、現イスラーム体制の政治エリートたち全体に挑戦してきたとも言える。
 
 イスラーム革命から30年。革命直後には新鮮だった宗教指導者の統治も、年を経るにつれて既成エリート化する。特権的な地位にあぐらをかく宗教指導者たちが権力を握る限り、若い世代は上に上がれない。
 
 その若い世代のフラストレーションをうまく支持にまわしたのが、アフマディネジャードだともいえる。彼がシーア派のマフディー思想、つまり救世主が近く現れる、という考えに心頭していることはよく知られているが、これはある意味で、宗教指導者の役割を否定する考えでもある。救世主が降臨してイマーム(シーア派イスラーム共同体の指導者)の地位につけば、保守派であれ改革派であれ、宗教指導者たちはお払い箱だからだ。ちなみにアフマディネジャードは、「救世主と直接交信できる」と主張してはばからない。直接交信できれば、ハーメネイ師の支持など不要である。

 新たな世代、非特権層を代表してのし上がろうとする政治家は、たいてい大衆にわかりやすく訴えかける。ポピュリズムの鉄則だ。やはり、現状を「ぶっ壊そう」とする政治家は、どこか似てくるのかもしれない。いや、ぶっ壊したあとが、たいへんなのだけれど。

プロフィール

酒井啓子

千葉大学法政経学部教授。専門はイラク政治史、現代中東政治。1959年生まれ。東京大学教養学部教養学科卒。英ダーラム大学(中東イスラーム研究センター)修士。アジア経済研究所、東京外国語大学を経て、現職。著書に『イラクとアメリカ』『イラク戦争と占領』『<中東>の考え方』『中東政治学』『中東から世界が見える』など。最新刊は『移ろう中東、変わる日本 2012-2015』。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

自民がイラン情勢で会議、「調査・研究名目のホルムズ

ワールド

フィリピン、南シナ海全域に対する中国の主権主張を拒

ビジネス

イラン戦争警戒の債券投資家、FOMC前にリスク回避

ビジネス

EBRD、イラン情勢で苦境の加盟国企業向け支援検討
MAGAZINE
特集:イラン革命防衛隊
特集:イラン革命防衛隊
2026年3月24日号(3/17発売)

イスラム神権国家を裏からコントロールする謎の軍隊の歴史と知られざる実力

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    温暖化で増えた? サンマやサケ減少の裏で激増する「安価で栄養価の高い魚」の正体
  • 2
    住宅建設予定地に眠っていた「大量の埋蔵金」...現在の価値でどれくらい? 誰が何のために埋めた?
  • 3
    「ネタニヤフの指が6本」はなぜ死亡説につながったのか?
  • 4
    米軍も防ぎきれないイランのドローン攻撃──イラン製…
  • 5
    ロシア政府、痛恨のミス...プーチンの「健康不安説」…
  • 6
    「筋肉はモッツァレラと同じ」...なぜウォーミングア…
  • 7
    「映画賞の世界は、はっきり言って地獄だ」――ショー…
  • 8
    幼い子供たちの「おぞましい変化」を克明に記録...「…
  • 9
    「危険な距離まで...」豪ヘリに中国海軍ヘリが異常接…
  • 10
    世界の視線は中東から日本へ...企業主導で築くインド…
  • 1
    温暖化で増えた? サンマやサケ減少の裏で激増する「安価で栄養価の高い魚」の正体
  • 2
    ロシア政府、痛恨のミス...プーチンの「健康不安説」を裏付けるような動画を公式に投稿してしまう
  • 3
    「日本より、自分の国(フランス)を心配すれば?」と言われる外国特派員の私が思うこと
  • 4
    米軍も防ぎきれないイランのドローン攻撃──イラン製…
  • 5
    メーガン妃、娘リリベット王女との新ショット公開...…
  • 6
    「このままよりはマシだ」――なぜイランで米軍の攻撃…
  • 7
    職業別の収入に大変動......タクシー運転手・自動車…
  • 8
    キャサリン皇太子妃、英連邦デー式典に出席...公開さ…
  • 9
    ズボンを穿き忘れてる! 米セレブ、下を穿かず「目の…
  • 10
    世界の視線は中東から日本へ...企業主導で築くインド…
  • 1
    温暖化で増えた? サンマやサケ減少の裏で激増する「安価で栄養価の高い魚」の正体
  • 2
    ロシア政府、痛恨のミス...プーチンの「健康不安説」を裏付けるような動画を公式に投稿してしまう
  • 3
    メーガン妃、娘リリベット王女との新ショット公開...撮影はパパ
  • 4
    見事なカンフーを見せた中国ヒト型ロボットのからく…
  • 5
    アルコールは血糖値を下げる...「脳と血管を守る」医…
  • 6
    「日本より、自分の国(フランス)を心配すれば?」…
  • 7
    「ヘル・コリア」から日本へ7万人 ── 大企業の高給より…
  • 8
    日本の若者「韓国就職」憧れと現実のギャップ ── ビ…
  • 9
    命は長し、働け女たち――88歳「働くばあさん」が説く…
  • 10
    「水道水」が筋トレの成果を左右する...私たちの体に…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story