コラム

「科学技術立国」に必要なのは談合ではなく競争だ

2009年11月26日(木)16時34分

 行政刷新会議の事業仕分けで、事実上の凍結と判定された次世代スーパーコンピュータをめぐって、ノーベル賞受賞者らが緊急声明を出すなど、大論争が巻き起こっている。特にスパコンを調達した理化学研究所の野依良治理事長は、テレビのワイドショーにまで出演して「このままでは日本の科学技術は滅びる」などと危機感を訴えている。

 しかし冷静に考えてほしい。事業仕分けで問われたのは、スパコンという技術であって、科学を研究するという理研の目的が否定されたわけではない。野依氏もご存じの通り、科学技術の世界に国境はない。彼自身も、激しい国際競争を戦い抜いて業績を上げたのだろう。コンピュータ業界も同じで、競争のないところに進歩はない。

 くわしくは別のコラムで書いたが、今回のスパコンの1200億円という価格は、国際価格の4倍以上という非常識なもので、しかも一般競争入札にかけないで随意契約で国内メーカー3社に発注された。国際競争したら負けるから談合で国産メーカーに発注するというのは、科学技術の原則に反するのではないか。

 ノーベル賞を受賞した科学者は、その専門分野では第一人者だろうが、政策評価の専門家ではない。彼らが今回の事業仕分けに反対するなら、「科学技術立国」などという総論を繰り返すのではなく、行政刷新会議の論点整理で示された次のような指摘に具体的に答えるべきだ。

■本件は、共同開発民間3社のうち2社が本年5月に撤退を表明し、当初計画から大幅なシステム構成の変更を強いられており、見通しが不透明ではないか。こうした状況の下、プロジェクトを強行しても、当初の目標を達成することは困難ではないか

■一旦、着手してしまえば、多大な国費投入が必要となることから、リスクが少しでも残るのであれば、プロジェクトを凍結し、戦略を練り直すべきではないか


 おそらく野依氏自身は、純粋な気持ちで日本の科学技術の将来を憂えているのだろう。彼の専門は有機化学だからIT業界の事情はご存じないと思うが、日本の「ITゼネコン」と呼ばれるコンピュータ・メーカーは、世界市場では完全な「負け組」である。その理由も、建設のゼネコンと同じだ。談合で役所を食い物にしてもうけるビジネスに慣れてしまったおかげで、海外には売れない商品しか作れなくなったのだ。科学と同様、技術の世界にも必要なのは、政府の保護ではなくフェアな競争である。

プロフィール

池田信夫

経済学者。1953年、京都府生まれ。東京大学経済学部を卒業後、NHK入社。93年に退職後、国際大学GLOCOM教授、経済産業研究所上席研究員などを経て、現在は株式会社アゴラ研究所所長。学術博士(慶應義塾大学)。著書に『アベノミクスの幻想』、『「空気」の構造』、共著に『なぜ世界は不況に陥ったのか』など。池田信夫blogのほか、言論サイトアゴラを主宰。

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