コラム

垢すりで乳がん発見? 韓国乳がん学会と沐浴管理士連合会が協力

2016年04月09日(土)11時30分

ソウル市内のサウナ

 実は、韓国で垢すりおばさんが乳がんの救世主だということをご存じだろうか。

 韓国のマンションには平均してバスルームが2つある。4人家族だと4LDKに住むのが普通のことで、バスルームはリビングと夫婦用の寝室にそれぞれある。2人暮らし用の小さいマンションでも、共働き夫婦の朝の準備のため、バスルームを2つ置くマンションが増えた。それにもかかわらず、韓国人はサウナ付き銭湯に行くのが大好きである。大きな湯船で肌をやわらかくしてから、垢すりおばさんにきれいさっぱり一肌むいてもらうと、肌はつるつるして艶がでるからだ。

 この垢すりが、韓国の乳がん早期発見にとても役立っていた。韓国乳がん学会によると、垢すりおばさんに「胸にしこりがあるわよ。病院に行ってみたら?」と勧められ乳がん検診をうけたところ、早期にがんが見つかり治療できた、という事例がかなりあるという。

 韓国乳がん学会は2014年から現在まで、ピンクリボンキャンペーンの一環として、韓国沐浴管理士連合会と手を組み「ピンクスクラブキャンペーン」なるものを行っている。ピンクリボンキャンペーンは乳がんの知識啓発キャンペーンであり、世界各地で行われている。スクラブはごしごし洗うという意味である。ピンクスクラブは韓国独自のキャンペーンで、これは乳がん学会に所属する医師たちが、「垢すりおばさんにしこりがあると言われたので病院に来た」と話す患者が多いことに気付いてから始まった。韓国の国民健康保険は、40歳以上の女性に対して2年に一度無料で乳がん検診を実施しているが、韓国人の生活に根付いた垢すりおばさんも乳がんの早期発見に役立っていた。

 乳がん学会は、2014年から垢すりおばさんに乳がん検診の基本である触診を本格的に教えている。垢すりおばさんに、垢すりに来る女性に乳がんの自己検診について教える、知識啓蒙者の役割を託したのだ。また全国のサウナや銭湯に乳がん自己検診方法をイラストにしたポスターを貼り、早期健診を勧める活動も継続して行っている。さらに、乳がん治療のため切除するしかなかった患者が、人目を気にせず銭湯やプールに行けるようサポートするキャンペーンも行っている。

プロフィール

趙 章恩

韓国ソウル生まれ。韓国梨花女子大学卒業。東京大学大学院学際情報学修士、東京大学大学院学際情報学府博士課程。KDDI総研特別研究員。NPOアジアITビジネス研究会顧問。韓日政府機関の委託調査(デジタルコンテンツ動向・電子政府動向・IT政策動向)、韓国IT視察コーディネートを行っている「J&J NETWORK」の共同代表。IT情報専門家として、数々の講演やセミナー、フォーラムに講師として参加。日刊紙や雑誌の寄稿も多く、「日経ビジネス」「日経パソコン(日経BP)」「日経デジタルヘルス」「週刊エコノミスト」「リセマム」「日本デジタルコンテンツ白書」等に連載中。韓国・アジアのIT事情を、日本と比較しながら分かりやすく提供している。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

米、シリアでIS拠点に大規模空爆 米兵士殺害に報復

ワールド

エプスタイン文書公開、クリントン元大統領の写真など

ワールド

アングル:失言や違法捜査、米司法省でミス連鎖 トラ

ワールド

アングル:反攻強めるミャンマー国軍、徴兵制やドロー
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:教養としてのBL入門
特集:教養としてのBL入門
2025年12月23日号(12/16発売)

実写ドラマのヒットで高まるBL(ボーイズラブ)人気。長きにわたるその歴史と深い背景をひもとく

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「最低だ」「ひど過ぎる」...マクドナルドが公開したAI生成のクリスマス広告に批判殺到
  • 2
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入ともに拡大する「持続可能な」貿易促進へ
  • 3
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 4
    中国最強空母「福建」の台湾海峡通過は、第一列島線…
  • 5
    おこめ券、なぜここまで評判悪い? 「利益誘導」「ム…
  • 6
    ゆっくりと傾いて、崩壊は一瞬...高さ35mの「自由の…
  • 7
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後…
  • 8
    懲役10年も覚悟?「中国BL」の裏にある「検閲との戦…
  • 9
    待望の『アバター』3作目は良作?駄作?...人気シリ…
  • 10
    【独占画像】撃墜リスクを引き受ける次世代ドローン…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 3
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入ともに拡大する「持続可能な」貿易促進へ
  • 4
    【実話】学校の管理教育を批判し、生徒のため校則を…
  • 5
    「最低だ」「ひど過ぎる」...マクドナルドが公開した…
  • 6
    ミトコンドリア刷新で細胞が若返る可能性...老化関連…
  • 7
    自国で好き勝手していた「元独裁者」の哀れすぎる末…
  • 8
    【銘柄】資生堂が巨額赤字に転落...その要因と今後の…
  • 9
    香港大火災の本当の原因と、世界が目撃した「アジア…
  • 10
    身に覚えのない妊娠? 10代の少女、みるみる膨らむお…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 3
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした「信じられない」光景、海外で大きな話題に
  • 4
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 5
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 6
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 7
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 8
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸…
  • 9
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入と…
  • 10
    インド国産戦闘機に一体何が? ドバイ航空ショーで…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story