コラム

「発展した国は明るく見えるように」「紛争も『光』として確認」 油井亀美也宇宙飛行士が語る地球10年の変化、アルテミス計画への思い

2026年04月10日(金)22時05分
油井亀美也宇宙飛行士

JAXA東京事務所で会見を行った油井亀美也宇宙飛行士(4月9日) 筆者撮影

<宇宙滞在通算300日超、直近の滞在で撮影した写真・動画は数十万枚。ISSから見た地球は10年でどう変わったかをはじめ、新型補給機HTV-Xの把持成功から月探査への思いまで、帰国後初の会見で油井さんはたっぷりと語った。ISSでの濃密な日々、ミッションを7つの話題で振り返る>

ISS(国際宇宙ステーション)長期滞在を終え、今年1月に帰還した油井亀美也宇宙飛行士が9日、JAXA(宇宙航空研究開発機構)東京事務所で帰国後初の会見を開きました。

今回の滞在は2015年以来2回目です。25年8月にISSに到着し、約5カ月間の滞在を経て、26年1月に同僚宇宙飛行士の健康上の問題から予定を早めて地球に帰還しました。宇宙滞在日数は今回のミッション中に300日を超えました。


ミッションでは、「きぼう」日本実験棟で二酸化炭素除去システムの技術実証や植物の細胞分裂に重力が及ぼす影響を解明する実験などを行いました。25年10月には、ISSに食料や実験機器を届ける日本の新型補給機「HTV-X」をロボットアームで捉えることにも成功しました。

ISS初滞在から10年を経て、宇宙から見る地球にも変化があったと言います。

「10年前と比べて発展した国は(夜間に)明るく見えるようになり、台風はより激しくなったように感じます。紛争の様子も『光』として確認できました」

折しも人類が約50年ぶりに月に戻り、月面着陸の前段階として有人宇宙船が月を周回する「アルテミス2」が進行中の現在、油井さんはISSでどのようなミッションを完遂し、次世代の宇宙開発にどのような思いを寄せているのでしょうか。7つの話題で振り返ります。

◇ ◇ ◇

1. 多国籍の宇宙飛行士たちがISSで仲良く過ごす秘訣

油井さんは船長のジーナ・カードマンさん(NASA:米航空宇宙局)、マイケル・フィンクさん(同)、オレグ・プラトノフさん(ロシア)とともに、昨年8月にクルードラゴンでISSに向かいました。

クルー計画の変更や打ち上げ延期、早期帰還など波乱もあった今回の油井さんのISS長期滞在ですが、「いつ飛ぶかよりも誰と飛ぶかが大事」を合言葉に、同じ苦労をしたクルーとチームの絆を深めたそうです。

滞在中に迎えたISS25周年や油井さんの宇宙滞在300日記念、クリスマスや新年には、宇宙飛行士たちがケーキを自作してお祝いしました。油井さんは「10年前になかった文化」と目を細めます。

実は油井さんたちは、ISS到着後すぐに「お互いに気をつけることを統一しよう」と紙にまとめ、食堂に貼り出しました。「思ったことは素直に言おう」「お互いを思いあって助けあいながら仕事をしよう」などです。「これがミッション大成功の秘訣」と油井さんは振り返ります。

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「お互いに気をつけること」を綴ったメモ書きについて紹介する油井さん 筆者撮影

また、ISS滞在中に行われた地上との交信イベントでは「国の言葉や文化が異なることを、良い悪いではなく、単なる違いとして理解し、リスペクトすることが大事」とも語りました。自身はロシアの宇宙飛行士と話す時はロシア語を、アメリカの宇宙飛行士と話す時は英語を使い、相手も油井さんと話す時は片言の日本語を使って話しかけてくれたそうです。

プロフィール

茜 灯里

作家・科学ジャーナリスト。青山学院大学客員准教授。博士(理学)・獣医師。東京大学理学部地球惑星物理学科、同農学部獣医学専修卒業、東京大学大学院理学系研究科地球惑星科学専攻博士課程修了。朝日新聞記者、大学教員などを経て第24回日本ミステリー文学大賞新人賞を受賞。小説に『馬疫』(2021 年、光文社)、ノンフィクションに『地球にじいろ図鑑』(2023年、化学同人)、ニューズウィーク日本版ウェブの本連載をまとめた『ビジネス教養としての最新科学トピックス』(2023年、集英社インターナショナル)がある。分担執筆に『ニュートリノ』(2003 年、東京大学出版会)、『科学ジャーナリストの手法』(2007 年、化学同人)、『AIとSF2』(2024年、早川書房)など。

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