コラム

日本の国民と財産を守るセキュリティ・クリアランス、なぜ高市大臣しかやる気がない?

2022年10月08日(土)17時34分
高市早苗氏

高市早苗氏(2022年7月) Toru Hanai/Pool via REUTERS

<アメリカと安全保障・軍事関連の情報共有をするためにも、経済分野での協力を拡大するためにも必要な制度であるはずだが>

高市早苗・経済安全保障担当大臣は8月、記者会見で「セキュリティ・クリアランスは非常に重要だと考えている。なんとしても盛り込みたいという強い思いだ」と語って話題になった。来年の通常国会で、今年5月に成立した経済安全保障推進法の改正案が提出される予定で、そこにこのセキュリティ・クリアランスの制度が盛り込まれる可能性がある。

セキュリティ・クリアランスとは、国家の重要な情報を扱う資格のことを指す。その資格を得るには、適格性評価に合格する必要がある。

セキュリティ・クリアランスについては、かなり以前から、アメリカ側が日本に導入するよう暗に働きかけてきたものであるが、これを受けて、第一次安倍政権ではまず「秘密取扱者適格性確認制度 」を策定した。

この制度は、機密情報を扱う国家公務員の適格性を評価するものだが、さらに2014年には第二次安倍政権で「特定秘密保護法」が施行された。安倍元首相に近かった国会議員は、「特定秘密保護法を施行してから、安倍さんもアメリカからは情報取扱について口うるさく言われることはなくなった。一定の評価はしていたということ」と言っていたものだ。

ただこうした制度も、資格者は防衛省が8割と圧倒的に多く、他の省庁ではあまり重要視されていないと言える。また、アメリカなどのセキュリティ・クリアランス制度と比べると、非常に緩い。

日本とは十分な情報共有できないとの声

この分野で進んでいるアメリカでは、セキュリティ・クリアランスは大きく分けて3つに分けられる。最も機密性が高いのは「トップシークレット(極秘)」で、次いで「シークレット(秘密)」、さらに「コンフィデンシャル(外部秘)」となっている。

世界的にも知られた諜報機関のCIA(中央情報局)では、トップシークレット資格を得るに大変な評価プロセスを経て、ウソ発見器なども受ける必要がある。トップシークレットは5年ごとに、シークレットは10年ごとに更新する必要がある。

アメリカや同盟国などが安全保障や軍事関連の協議をするには、こうしたセキュリティ・クリアランスが求められるために、日本は以前から十分に情報共有もできていないと指摘されてきた。

加えて、防衛関係など機密情報を扱うようなビジネスや研究についても、日本側にセキュリティ・クリアランス制度がないことが、協力の足枷になる場合もあった。

プロフィール

山田敏弘

国際情勢アナリスト、国際ジャーナリスト、日本大学客員研究員。講談社、ロイター通信社、ニューズウィーク日本版、MIT(マサチューセッツ工科大学)フルブライトフェローを経てフリーに。クーリエ・ジャポンITメディア・ビジネスオンライン、ニューズウィーク日本版、Forbes JAPANなどのサイトでコラム連載中。著書に『モンスター 暗躍する次のアルカイダ』、『ハリウッド検視ファイル トーマス野口の遺言』、『ゼロデイ 米中露サイバー戦争が世界を破壊する』、『CIAスパイ養成官』、『サイバー戦争の今』、『世界のスパイから喰いモノにされる日本』、『死体格差 異状死17万人の衝撃』。最新刊は『プーチンと習近平 独裁者のサイバー戦争』。
twitter.com/yamadajour
YouTube「スパイチャンネル」
筆者の過去記事一覧はこちら

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

G7外相、イスラエルとイランの対立拡大回避に努力=

ワールド

G7外相、ロシア凍結資産活用へ検討継続 ウクライナ

ビジネス

日銀4月会合、物価見通し引き上げへ 政策金利は据え

ワールド

アラスカでの石油・ガス開発、バイデン政権が制限 地
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:老人極貧社会 韓国
特集:老人極貧社会 韓国
2024年4月23日号(4/16発売)

地下鉄宅配に古紙回収......繁栄から取り残され、韓国のシニア層は貧困にあえいでいる

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なない理由が明らかに

  • 2

    止まらぬ金価格の史上最高値の裏側に「中国のドル離れ」外貨準備のうち、金が約4%を占める

  • 3

    「毛むくじゃら乳首ブラ」「縫った女性器パンツ」の衝撃...米女優の過激衣装に「冗談でもあり得ない」と怒りの声

  • 4

    中国のロシア専門家が「それでも最後はロシアが負け…

  • 5

    中ロ「無限の協力関係」のウラで、中国の密かな侵略…

  • 6

    ハーバード大学で150年以上教えられる作文術「オレオ…

  • 7

    価値は疑わしくコストは膨大...偉大なるリニア計画っ…

  • 8

    休日に全く食事を取らない(取れない)人が過去25年…

  • 9

    「イスラエルに300発撃って戦果はほぼゼロ」をイラン…

  • 10

    日本の護衛艦「かが」空母化は「本来の役割を変える…

  • 1

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 2

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なない理由が明らかに

  • 3

    NASAが月面を横切るUFOのような写真を公開、その正体は

  • 4

    犬に覚せい剤を打って捨てた飼い主に怒りが広がる...…

  • 5

    攻撃と迎撃の区別もつかない?──イランの数百の無人…

  • 6

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 7

    アインシュタインはオッペンハイマーを「愚か者」と…

  • 8

    天才・大谷翔平の足を引っ張った、ダメダメ過ぎる「無…

  • 9

    帰宅した女性が目撃したのは、ヘビが「愛猫」の首を…

  • 10

    ハリー・ポッター原作者ローリング、「許すとは限ら…

  • 1

    人から褒められた時、どう返事してますか? ブッダが説いた「どんどん伸びる人の返し文句」

  • 2

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 3

    88歳の現役医師が健康のために「絶対にしない3つのこと」目からうろこの健康法

  • 4

    ロシアの迫撃砲RBU6000「スメルチ2」、爆発・炎上の…

  • 5

    バルチック艦隊、自国の船をミサイル「誤爆」で撃沈…

  • 6

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 7

    ロシアが前線に投入した地上戦闘ロボットをウクライ…

  • 8

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 9

    1500年前の中国の皇帝・武帝の「顔」、DNAから復元に…

  • 10

    浴室で虫を発見、よく見てみると...男性が思わず悲鳴…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story