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オーストラリアの診察室から

高尾康端|オーストラリア

オーストラリアの肥満問題とGLP-1受容体作動薬

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2018年のデータによるとオーストラリアの18歳以上の人口の肥満率は67%でした。これはオーストラリアの18歳以上の人口のうち、1,250万人が体重過多または肥満ということを示しています。

この肥満率のためか、オーストラリアでは最近、オゼンピックなどのGLP-1受容体作動薬を体重コントロールの手段として利用する人が増えています。GLP-1受容体作動薬はGLP-1というホルモンを増やすことで、血糖値を下げる糖尿病の薬です。この薬は、GLP-1を補うことにより膵臓からインスリンの分泌を増加させる効果があります。また食欲を制限する効果がありこれが体重減少につながります。

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オゼンピックは本来、2型糖尿病の治療薬として開発された注射剤ですが、食欲抑制や代謝促進などにより体重減少にも効果があります。オーストラリアではオゼンピックは体重コントロールのために使うことは正式には認可されていません。そのため適応外使用という薬事承認されていない効能・効果、あるいは用法・用量で使用することになります。適応外使用とは医師が患者に有効性や副作用を説明し患者がリスクを承認すれば使用することができるというものです。しかし最初は適応外使用での利用が可能でしたが、人気の高まりや生産の遅れなどにより、薬の深刻な品切れが起きました。それにより、糖尿病治療に必要な患者にも十分に供給されなくなるという事態に至り、政府は現在、糖尿病の患者のみに使用を勧めています。

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オゼンピックの他にもサクセンダというGLP-1受容体作動薬があります。こちらはオーストラリアでは糖尿病と肥満の両方の治療に認可されています。ただし、オゼンピックが週に一回の皮下注射なのに対して、サクセンダは毎日注射する必要があります。両者の価格は、最も効力のあるものでは同じくらいですが、弱いものではオゼンピックの方がやや安いようです。どちらも強いタイプだと、月に500ドル以上かかります。また、オゼンピックとサクセンダには、稀に低血糖や急性膵炎、胆嚢炎などの副作用のリスクがありますので、すべての人に適しているわけではありません。また、すべての人に体重を減らす効果があるわけでもありません。さらに、薬を中止すると体重が再び増える可能性もあります。

来年にはオーストラリアで他のGLP-1受容体作動薬の認可が予定されています。GLP-1受容体作動薬は、問題点もあるものの、この国で深刻になっている肥満問題の改善に役立つことも期待されています。





参考
https://www.aihw.gov.au/reports/overweight-obesity/overweight-and-obesity/contents/overweight-and-obesity
https://www.9news.com.au/health/new-rules-for-australians-using-weight-loss-drug-ozempic/28fd1aa0-8c2e-4d0c-b05a-cc7f3c0b2a98

 

Profile

著者プロフィール
高尾康端

日本、スイス、シンガポール、アメリカで育ち、2004年からオーストラリアに移住。シドニー大学医学部を卒業。現在は東ブリスベンエリアHawthorne Clinicにて家庭医 (GP)として勤務。家庭医の観点からみる病気についての情報、また母国である日本と移住地オーストラリアの医療システムの違いや、オーストラリアで病気になった時に役立つ情報を発信している。

Twitter:@dryasutakao
Facebook:Dr Yasu Takao
ブログ:https://www.dryasutakao.com.au/blog

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