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ドバイ像の砂上点描

Mona|UAE

ホリデーが映す中東:ドバイのクリスマスとクウェートの変化

ドバイ、マディナジュメイラのクリスマスマーケットにて(Photo: by Mona)

長年使い古された日本のクリスマスジョーク「恋人がいないから、クリスマスはイスラム教の国に旅行しようかな」。今日は、それがさっぱり通用しないドバイの様子をお届けしたい。

■伝統アラブ建築とクリスマス・マーケット

Christmas Market.jpgドバイ政府系企業によって経営される5つ星ホテル「マディナ・ジュメイラ」。アラブの伝統建築を忠実に再現したエキゾチックなホテルの間を運河が流れる、人気スポットだ。ここでは今、大規模なクリスマス・マーケットが開かれている。広場の中心には、高さ10mの巨大クリスマスツリーが聳え立つ。アラブの伝統建築にツリーが煌めく様子は、国際都市ドバイのクリスマスを象徴する、アイコニックな風景である。

ここでは定番のクリスマス雑貨や、シュトーレンなどの食品が販売されるほか、移動式ミニ遊園地も設置され、多くの家族連れを惹きつけている。運営によると期間中に延べ40万人の来場者数を見込んでいるという。(開催:12/5-31)

■ドバイでクリスマスディナーを

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そのクリスマス・マーケットに面するレストランは、まさに書き入れ時を迎えている。

マディナ・ジュメイラが誇るアラブ建築とロマンチックな運河、そして7つ星ホテル「ブルジュ・アル・アラブ」までもを視界に収め、目の前にはツリーが聳え立つーー。そんなドバイのクリスマスに必要なエッセンスをすべて一望することができるのが、イギリス料理レストラン「Mezzanine Bar & Kitchen」だ。

メニューには、七面鳥やステーキをはじめ、イギリスのガストロパブ風にミートパイのグレービーソースがけやフィッシュ&チップスなども並ぶ。

「季節の料理やドリンクをいろいろ揃えましたが、やっぱりクリスマスですから、いちばんのおすすめは七面鳥ですよ!」と、オーナーのコスタ氏。「最近は、特に夜が大盛況です。毎晩すごい人出で、運河にかかる橋が揺れちゃうくらい」と語る。日本のクリスマス行事では、(なぜか)24日がいちばんの盛り上がりを見せるが、当地では「ピークはもちろん25日」とのこと。そしてこの勢いのまま年越しカウントダウンへと、ホリデー商戦を駆け抜けるのだろう。

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ホテルという場所柄、メインの客層は欧米を中心とした海外からの観光客のようだが、スカーフをかぶったアラブ系の姿もちらほら見かける。信仰に関わらず、ホリデーのソワソワを楽しみたい気持ちは共有されうるようだ。

私は普段ドバイでおすすめのレストランを聞かれたら、「ドバイに来たからには」とUAE料理店やレバノン料理店をおすすめすることが多いが、時は今クリスマス。大切な人とターキーにナイフを入れてはいかがだろうか。

(こんな空間のビールサーバーに我らがアサヒがあることを私は見逃さなかった。ちょっと嬉しいね)

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■在ドバイの日系企業のクリスマス

在ドバイの日系のお店も、クリスマス商戦に大忙しだ。

ドバイのロイヤルファミリーが日本企業と共同経営する大人気ベーカリー「Yamanote」や、シャトレーゼの高級業態「Yatsudoki」は、日本式のクリスマスケーキを販売する。

私たちにとって当たり前な存在である、ふわふわのスポンジに生クリーム、苺を載せた「あの」クリスマスケーキは、実は日本発祥のものだ。昨今の日本スイーツブームに追い風をうけるように、日本式のクリスマスケーキもまた、ドバイで手に入るようになっている。

Yatsudoki.jpg

かわいい。

日本式のやわらかなケーキを頬張っていると、突如として賑やかなクリスマスミュージックが響き渡った。ショッピングモールの広場に、歌手とダンサーたちがフラッシュモブのように現れ、華麗なパフォーマンスを披露。多国籍な買い物客たちは足をとめてカメラを向け、子供たちはサンタのおじさんに群がり写真を撮る。これがドバイのホリデーシーズンの風景だ。

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■クウェート当局、クリスマスツリーの設置を承認

しかし、同じGCC(中東湾岸諸国)でも、国によって事情は大きく異なる。

クウェートでは、今年2025年12月9日、ホテルにおけるクリスマスツリーの装飾に違法性はないと当局から公式発表があった。つまり今までは「そうじゃなかった」のである。

クウェートのホテル業界では、ツリーを飾ると罰金を課されるなど、ペナルティを覚悟するものであった。2021年には、クウェート最大の高級ショッピングモール「アヴェニュー・モール」がツリーを飾ったところ、イスラム法シャリーアと自国文化に反していると大きな反発を招き、撤去に追い込まれた事例も記憶に新しい。

クウェートには、ドバイに比べれば少ないものの、出稼ぎフィリピン人や欧米からの駐在員などのキリスト教徒が居住している。彼らは各家庭で個人的に飾る程度の楽しみ方をしてきており、ドバイのように公共の場で楽しむものではなかった。

それが今年、クウェート当局は「ホテルがクリスマスツリーを飾ることに違法性はない。罰金が課されることはない」と公式に発表。ホテルという外国人観光客獲得に大きく貢献する業界へのバックアップのみならず、より保守的であるはずの隣国サウジアラビアの宗教的緩和政策が経済的な成果を見せつつあることに影響を受けてのことではないかと推察されている。

■ハッピー・ホリデー!

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こう比べてみると、ドバイがいかに寛容な街であるか感じられると思う。

これは、商戦のためなら形振り構わぬ商業主義な街だとも言えるだろうし、人口の9割を外国人が占める街の責務として、多様な市民に住みやすさを感じてもらうための寛容さだとも言えるだろう。

もちろん、この国のベースにはイスラムの文化が揺蕩う。当然、全くもって祝わないという人もいる。イスラム教徒以外にも、ユダヤ教徒やヒンドゥー教徒も住んでいる。相手の宗教がはっきりしない限り、今日のあいさつは「メリークリスマス!」ではなく「ハッピーホリデー!」にしておこう。多国籍、多文化の都市だからこそ、寛容の都市に住まわせてもらっているからこそ、リスペクトある楽しみ方をしていきたいものである。

 

Profile

著者プロフィール
Mona

アラブ首長国連邦ドバイ在住。東京外国語大学卒。日系ベンチャー、日系総合商社、湾岸系資本の現地商社等での勤務経験を元に、雑誌・ラジオ・Web媒体でドバイ現地情報や中東ビジネス小話を発信中。「地に足のついた」ドバイ像をお届けする。ドバイ在住11年目。ペルシア語使い。

ブログ「どうもヒールが砂漠に刺さる」

Twitter:@Monataro_DXB

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