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松尾彩香|スペイン

88年越しの謝罪:ドイツ大統領がゲルニカ訪問、犠牲者に哀悼を表明

筆者撮影@レイナソフィア美術館

2025年11月、ドイツのフランク・ヴァルター・シュタインマイヤー大統領がスペイン・バスク地方の町ゲルニカを訪れ、1937年の空爆について正式に謝罪しました。ドイツの国家元首が現地で直接謝罪したのはこれが初めてで、88年を経ての節目として現地を中心に関心が寄せられました。式典では大統領が献花と黙祷を捧げ、「ドイツはゲルニカの記憶と責任を忘れない」と述べ、犠牲者や遺族に対して深い哀悼の意を示しました。

今回の謝罪の背景には、ゲルニカが世界的に「戦争の象徴」として知られるようになった歴史があります。ゲルニカは1937年4月26日、スペイン内戦の最中にナチス・ドイツの支援部隊「コンドル軍団」による空爆を受けました。市場の日で街に多くの市民が集まっていた時間帯を狙った攻撃により、街は壊滅し、多くの民間人が犠牲となりました。市民を無差別に巻き込んだ代表的な空爆として、この出来事は国際社会に大きな衝撃を与えることになります。

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空爆を受けたゲルニカの街 ©️YouTube -Guernica de Picasso: ¿Por qué es su obra más impactante?

世界中にこの悲劇を強く印象づけたのが、パブロ・ピカソによる大作《ゲルニカ》です。爆撃の報道に衝撃を受けたピカソは、同年のパリ万国博覧会に向けてこの作品を制作しました。モノクロームの巨大なキャンバスには、泣き叫ぶ母親、炎に包まれる家屋、倒れる兵士、苦悶する馬などが描かれ、戦争の不条理を象徴的に表現しています。日本でも教科書や美術教育を通じて知られ、「ゲルニカ=ピカソの絵」というイメージが広く定着しています。一方で、作品の背後にある歴史的経緯までは十分に知られていないのではないでしょうか。今回の謝罪は、絵としての《ゲルニカ》だけでなく、その題材となった爆撃の実像にも関心が向けられる契機となりました。

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制作中のピカソ©️YouTube -Picasso's Guernica: Unraveling the Masterpiece of Modern Art - Explained in 10 Minutes

現在、このピカソの《ゲルニカ》はマドリードのレイナ・ソフィア美術館に展示されています。同館はスペイン有数の現代美術館で、2024年には約153万人の来館者を記録し、その中心にある《ゲルニカ》は常に多くの観覧者を集めています。専用室には警備員が常駐し、来館者はじっくりと絵と向き合うことが可能です。展示室には制作過程のドローイングも並び、単に美術を見るだけではなく"歴史を感じる場"として国内外から注目を集めています。今回の謝罪は、ゲルニカ空爆の歴史と、それを象徴的に伝えてきたピカソ《ゲルニカ》に改めて注目が集まる契機となりました。作品が展示されるレイナ・ソフィア美術館は国内外の旅行者に人気が高く、今後も多くの人がゲルニカの歴史を知るきっかけとなる場所であり続けるでしょう。

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慰霊碑に献花するドイツ大統領©️YouTube -Homenaje del presidente de la República Federal de Alemania a las víctimas del bombardeo de Gernika
 

Profile

著者プロフィール
松尾彩香

2015年スペイン巡礼(カミノデサンティアゴ)フランス人の道を完歩。スペイン語習得のために渡ったコロンビアでコーヒー農家になるもスペイン移住の夢が捨てられず、現在はコロンビアのコーヒー事業を継続しながらマドリードのベッドタウンでひっそりとスペインライフを満喫中。

Twitter: @maon_maon_maon

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