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スペインあれこれつまみ食い

松尾彩香|スペイン

スペインのイチゴ農家の危機「干ばつイチゴボイコット運動」

©️iStock -gerenme

日本では各地で梅雨入りが発表され始めているようですが、そろそろスーパーでずらっと並ぶイチゴの姿を見ることもなくなってきたのではないでしょうか。気候が日本と似ているスペインでは、イチゴが旬の時期も日本とほぼ同じ。春は青果売り場がイチゴで真っ赤に染まり、多くのスペイン人が迷うことなくイチゴをカゴに放り込みます。日本のイチゴほど甘さがないため、砂糖やホイップクリームをつけなくては顔をすぼめるほど酸っぱいスペインのイチゴですが、春と言えばやっぱりイチゴ。日本のイチゴが恋しいと文句を言いながらも、この春はたくさんのイチゴを食べました。

さて、イチゴが旬な時期が過ぎたスペインで、名産地であるウエルバで栽培されたイチゴが現在話題になっています。この地域は日照時間が長く、1日の寒暖差が少ないことからイチゴの栽培に非常に適しており、スペイン産イチゴの95%以上はウエルバで作られているのですが、今回ここで作られたイチゴがとある理由でドイツからボイコットを受けていると連日報道されています。

 

「盗んだ水で作られたイチゴ」

今回ボイコットの対象になっているのはウエルバ県ドニャーナ国立公園周辺で作られたイチゴ。ボイコットを呼びかけているドイツの政治団体Compactのウェブページでは署名運動が行われており、すでに集められた署名の数は16万5千を超えています(6月7日現在)。ドイツで食べられているイチゴの30%を占めているイチゴが、なぜボイコットの対象になっているのか。その理由は栽培に使われている水にありました。

ドニャーナ国立公園はスペイン南部アンダルシア州に位置するヨーロッパの中でも最大級の自然保護地区から構成されている国立公園です。毎年50万羽以上の渡り鳥たちが羽を休めるために訪れる国立公園で、絶滅危惧種となっている動物の隠れ家としての役割も担っているため、1994年にはユネスコの世界遺産にも登録されました(参考wikipedia)。近年雨不足による干ばつに悩まされているヨーロッパにおいてこの国立公園に広がる湿地は野生動物たちの命を繋ぐ大切な役割を果たしているのですが、この公園内の水を農業用水として違法に使用しているイチゴ農家がいるというのが今回ボイコットが起こった理由のようです。ドイツ側は、ウエルバ産のイチゴを販売することはドニャーナ国立公園の自然破壊に加担しているということになるとして大手スーパーマーケットチェーン店に販売停止を求めており、それに対してウエルバの生産者たちは抗議の声を上げています。

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ドニャーナ公園の灌漑装置 ©️YouTube - El ROBO del agua en DOÑANA

 

首相もドイツの味方?

この騒動を聞きつけたスペイン中央政府ペドロ・サンチェス首相。「自国の農産物が他国のボイコット運動のせいで被害を受けている。生産者たちを助けなくては・・・!」となるのかと思いきや、この首相が残したコメントは想像を上回るものでした。サンチェス首相は騒動が始まった翌日、自身のTwitterで「否定は環境を破壊し、地域の経済を破壊に追い込みます。ドニャーナ国立公園を救いましょう。」と発言。つまりドイツのボイコットを支持ともとれるような発言をしたのです。

この発言に対し、青年農業者協会(Asaja)は「サンチェス政権のメンバーが自国の農業部門に不当な攻撃を加え、首相自身もこの中傷運動に参加していることに驚きを隠せない」とコメント。さらに「灌漑には最も効率的な技術を用い、プラスチックの削減など環境保全に配慮した農業を行っている。さらにイチゴ栽培は年間約6億ユーロの輸出と約10万人の雇用を生み出している」として、この地域のイチゴ産業の重要性を強調しました。

 

政党で分かれるドニャーナ国立公園の水の行方

このドニャーナ国立公園の水を農業用水とすることに対し、政党の意見は真っ二つに分かれています。

今回ドイツのボイコット運動を支持するような発言をしたサンチェス首相は中道左派のPSOE党。この政党はリベラルで環境や人権問題に重きを置いているため、2014年にこの地域の1600ヘクタールの農地を排除し国立公園に転換するなどして保護を進めてきました。一方、右派のPP党やVOX党などは保守的で経済活動を優先させる傾向があるため、この国立公園からの灌漑用水量を増やすための法案を作成するなどし、今回のボイコット運動にも否定的な姿勢を見せています。

 

先月5月28日にスペイン全土で行われた統一地方選挙ではアンダルシア州で中道右派のPP党が勝利し、国立公園周辺の多くの自治体でも同じくPP党が勝利を収めました。さらに7月23日には解散総選挙が行われることが発表されたのですが、現在政権を握っている中道左派のPSOE党がPP党に敗北する可能性は大いにあり、もしPP党が総選挙で勝利すれば今後ドニャーナ国立公園の水が農業用水として積極的に使われることを意味すると言っても過言ではないのです。今後このボイコット運動がどのような結末を迎えるかはまだ分かりませんが、7月に行われる選挙の結果次第で今後のドニャーナ国立公園とイチゴ農園の運命は大きく左右することが予想されます。

 

Profile

著者プロフィール
松尾彩香

2015年スペイン巡礼(カミノデサンティアゴ)フランス人の道を完歩。スペイン語習得のために渡ったコロンビアでコーヒー農家になるもスペイン移住の夢が捨てられず、現在はコロンビアのコーヒー事業を継続しながらマドリードのベッドタウンでひっそりとスペインライフを満喫中。

Twitter: @maon_maon_maon

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