コラム

ハリウッドの白人偏重「ホワイトウォッシング」は変えられるか?

2017年11月09日(木)11時30分

映画版の『エアベンダー』に対してアメリカのファンが怒った最大の理由は、「人種差別に対するポリティカル・コレクトネス」ではない。自分たちが家族のように愛してきたキャラクターと、彼らと一緒に過ごした大事な世界をめちゃくちゃにされたからだ。

ファンの意見を聞いていると、『ドラゴンボール・エボリューション』、『ゴースト・イン・ザ・シェル』、最近ではネットフリックスによる『デスノート』が『アバター』と同じカテゴリに入るようだ。

ハリウッドがホワイトウォッシングを続ける言い訳は「そうでないと売れないから」というものだ。『エクソダス:神と王』の監督リドリー・スコットはキャスティングの理由をVariety誌にこう説明した。

「もし主演男優が、どこそこから来たモハメドなにがしだと言ったら、(中略)これほど大規模な予算の映画は撮れない」そして「資金が得られないんだ。だから、(ホワイトウォッシングについての)疑問は最初から話題にもならなかった」

ハリウッドのプロデューサーや監督は、リドリー・スコットのように「主役を白人にしなければ売れない」と決めつけているが、実際には、無理にホワイトウォッシングした映画は興行的に失敗することが多い。

例に挙げた、『ドラゴンボール・エボリューション』や『アバター』はファンから「史上最悪の実写化映画」と呼ばれているし、日本では「スカーレット・ヨハンソンでいいんじゃないの?」という反応だった『ゴースト・イン・ザ・シェル』も、アメリカでは評価が低い。

映画評論サイト「Rotten Tomatoes」では100%が満点の「トマトメーター」が低いほど悪いのだが、上記の3作は、それぞれ14%、6%、44%の「腐ったトマト」評価を受けている。何よりも、興行的に失敗だった。

それとは対照的に、2016年に公開された『ドリーム』は、主要人物がすべて黒人女優なのに、予想を超えて大ヒットした。

原作は歴史ノンフィクション『Hidden Figures』。「ジム・クロウ法」時代の南部アメリカで、NASAの前身であるNACA(アメリカ航空諮問委員会)に計算士(人間コンピュータ)として雇用され、後にNASAで白人男性のエンジニアに混じって宇宙計画を陰で支えた黒人女性たちの実話だ。

映画では原作の黒人女性を黒人女優が演じたわけだが、ハリウッドの「売れない」という先入観を覆し、今年新たにアメリカと日本で拡大公開されて興行的に大成功を収めた。

プロフィール

渡辺由佳里

Yukari Watanabe <Twitter Address https://twitter.com/YukariWatanabe
アメリカ・ボストン在住のエッセイスト、翻訳家。兵庫県生まれ。外資系企業勤務などを経て95年にアメリカに移住。2001年に小説『ノーティアーズ』(新潮社)で小説新潮長篇新人賞受賞。近著に『ベストセラーで読み解く現代アメリカ』(亜紀書房)、『トランプがはじめた21世紀の南北戦争』(晶文社)などがある。翻訳には、レベッカ・ソルニット『それを、真の名で呼ぶならば』(岩波書店)、『グレイトフル・デッドにマーケティングを学ぶ』(日経BP社、日経ビジネス人文庫)、マリア・V スナイダー『毒見師イレーナ』(ハーパーコリンズ)がある。

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