コラム

トランプ勝利を予測した教授が説く「大統領弾劾」シナリオ

2017年05月12日(金)17時00分

本書読了後に、もっとも実現の可能性が高いと感じたのは、ロシア問題と女性問題だ。

■ロシア問題
共和党からの抵抗で進行が遅れているが、トランプ(あるいは選挙の側近)とロシアとの関係については実際に調査が行われている。トランプが最初に国家安全保障問題担当の大統領補佐官に任命したマイケル・フリンは、就任前にロシア大使と経済制裁解除について話し合ったことが判明して辞任した(こう書いている間にも、調査は進展しているようだ)。

そして、ジェフ・セッションズ司法長官は、就任前に宣誓したうえで否定したにもかかわらず、ロシアの駐米大使と会談していたことがわかった。

ロシアがアメリカ大統領選挙に介入した証拠はすでにある。問題は、トランプかトランプ陣営が関わっていたかどうかだ。国家への背信行為(treason)は重罪だ。トランプの背信がひとつでも証明されたら、共和党議員であってもトランプの弾劾と罷免に賛成せざるを得なくなる。ゆえに、これが最もありえるシナリオだ。

■女性問題
トランプからセクシャルハラスメントを受けたと訴え出た女性は少なくない。女性に下品な性的コメントをするビデオも流出した。それでも多くの女性がトランプに票を投じたが、だからといって、女性問題が消え去ったわけではない。

トランプの最強の敵は、もしかすると、女性弁護士のグロリア・アルレッドかもしれない。アルレッドは、セクシャルハラスメントやレイプのケースが大きく話題になると、必ずと言っていいほど担当弁護士として登場する。コメディアンのビル・コスビーからレイプされた被害者たちの弁護も担当した凄腕だ。

トランプを有名にしたリアリティ番組「アプレンティス」にコンテスタントとして出演したサマー・ザーボスがセクシャルハラスメントの被害者として名乗り出てきたときに、トランプは彼女が嘘をついていると否定した。それに対し、トランプは政治集会やメディアで、ザーボスを含めたセクハラの被害者たちを個人攻撃し、風貌をおおっぴらに揶揄した。そこで、ザーボスは、トランプを名誉毀損罪で訴えたのだ。

では、なぜこの民事訴訟が弾劾に繋がるのか?

それは、民事訴訟であっても、宣誓の上で嘘をついたら偽証罪になるからだ。トランプは、録画やスクリーンショットで証拠があるにもかかわらず、「私はそんなことは言っていない」などといった嘘を平気でつく。選挙にはそれでも勝てたが、裁判となるとそうはいかない。

けれども、嘘だらけでも今までなんとかなってきたので、トランプのエゴはますます膨らんでいる。最初は我慢していても、ベテランのアルレッドに挑発されたら、つい嘘をついてしまう可能性は大いにある。

【参考記事】アメリカを対テロ戦争に導いた、ブッシュ元大統領の贖罪とは

しかしながら、共和党が上下院の両方を支配している現況では、弾劾への道は険しい。

そのためには、2018年の中間選挙で、民主党が大活躍して議席を確保するしかない。けれども、バーニー・サンダースを支持した左派が勢力を拡大している民主党内も分裂していて、いまひとつ頼りない。

リクトマン教授の予測が当たるかどうか、当たったとしたら、どのシナリオなのか、これからも目が離せない。

プロフィール

渡辺由佳里

Yukari Watanabe <Twitter Address https://twitter.com/YukariWatanabe
アメリカ・ボストン在住のエッセイスト、翻訳家。兵庫県生まれ。外資系企業勤務などを経て95年にアメリカに移住。2001年に小説『ノーティアーズ』(新潮社)で小説新潮長篇新人賞受賞。近著に『ベストセラーで読み解く現代アメリカ』(亜紀書房)、『トランプがはじめた21世紀の南北戦争』(晶文社)などがある。翻訳には、レベッカ・ソルニット『それを、真の名で呼ぶならば』(岩波書店)、『グレイトフル・デッドにマーケティングを学ぶ』(日経BP社、日経ビジネス人文庫)、マリア・V スナイダー『毒見師イレーナ』(ハーパーコリンズ)がある。

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