コラム

アメリカ政治を裏で操るコーク兄弟の「ダークマネー」

2016年05月23日(月)16時20分

 しかし、国民の怒りをエネルギーにするトランプとサンダースのムーブメントは、次第に過激化して党の存在を脅かすまでになっている。

「アメリカを改善するためには、このくらいの急激な変化が必要だ」と語る人は少なくない。だが、アメリカという巨大な国を破壊せず、99%の国民の収入を増やすのは簡単なことではない。

 アメリカでは、法律の原案作成から公布まで、異なる政党のメンバーで構成される委員会でのネゴシエーション、議会での討論と草案の変更、予算討論、再び委員会での話し合い、再び議会での討論と変更、そして最終的に投票というプロセスが必要だ。つまり、一人の政治家や大統領がどんなにピュアな理想を持っていても、思い描いた通りの法律を作ることは不可能だ。どこかで妥協をしなければならないし、妥協を拒んだら何も解決しない。

 この部分にフラストレーションを覚えている真摯な政治家はいるし、フラストレーションを抱えながらも、国民のためになる法律を可決する努力をしている政治家はいくらでもいる。国を変えるためには、こういった政治家を地道に増やし、応援し続けるしかないのだ。

 だが、トランプサンダースの熱狂的な支持者たちは、その部分をまったく無視して、これまで地道な努力をしてきた政治家すら「エスタブリッシュメント」として否定し、批判している。

 これでは、コーク兄弟らの思う壺だ。

【参考記事】米共和党、トランプ降ろしの最終兵器

 しかし、コーク兄弟ら保守派の大富豪にとっての大きな皮肉は、計算にまったく入れていなかったトランプの登場だ。トランプは、コークたち富豪を必要としていないから、彼らの言うことはきかない。そして、コークらが作りだしたティーパーティの代表テッド・クルーズを退けて共和党の筆頭候補になり、このままでは大統領にもなりかねない勢いだ。

 経済や外交面での政策がなく、行きあたりばったりで、毎日のように発言が変わるトランプは、安定を重視するウォール街やグローバル・ビジネスマンにとっては悪夢のような存在だ。トランプが大統領になったら、株が大暴落し、巨額の資金を失う可能性もある。そこで、トランプを阻止するために巨費を投じてコマーシャルを流しているが、それでもトランプの勢いは強まるばかりだ。

 コーク兄弟らは、庶民の味方であるリベラルな政治家を潰す目的は果たしたが、その過程で、フランケンシュタイン博士のように、自分では操れないモンスターまで生み出してしまったのだ。

プロフィール

渡辺由佳里

Yukari Watanabe <Twitter Address https://twitter.com/YukariWatanabe
アメリカ・ボストン在住のエッセイスト、翻訳家。兵庫県生まれ。外資系企業勤務などを経て95年にアメリカに移住。2001年に小説『ノーティアーズ』(新潮社)で小説新潮長篇新人賞受賞。近著に『ベストセラーで読み解く現代アメリカ』(亜紀書房)、『トランプがはじめた21世紀の南北戦争』(晶文社)などがある。翻訳には、レベッカ・ソルニット『それを、真の名で呼ぶならば』(岩波書店)、『グレイトフル・デッドにマーケティングを学ぶ』(日経BP社、日経ビジネス人文庫)、マリア・V スナイダー『毒見師イレーナ』(ハーパーコリンズ)がある。

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