コラム

米国サイバー軍の格上げはトランプ大統領の心変わりを示すのか

2017年08月22日(火)17時15分

Joshua Roberts-REUTERS

<トランプ米大統領は18日、米国戦略軍の下に置かれているサイバー軍を統合軍に格上げすると発表した。大統領選挙でのサイバー攻撃問題を認めたがらなかったトランプ大統領がこれを承認した意味は大きい>

フェイクニュースかと思うニュースを米国のドナルド・トランプ大統領がTwitterで発表した。米国戦略軍の下に置かれているサイバー軍を格上げし、現在は九つある統合軍に加え、10番目の統合軍にするという。

米軍の統合軍という考え方がそもそもわかりにくい。米軍と言えば普通は陸軍、海軍、空軍、海兵隊という四つを思い浮かべる。法律上は沿岸警備隊も軍の一つとされるが、これは国防総省ではなく、国土安全保障省の管轄である。

統合軍は、実際の戦闘活動の際に兵力を構成する単位で、現在は地域別に六つ、機能別に三つが存在する。我々の住むアジア太平洋地域を管轄するのは、ハワイに司令部を置く太平洋軍である。日本人はつい在日米軍を見てしまい、韓国人は在韓米軍を見てしまうが、在日米軍も在韓米軍も、太平洋軍の下位統合軍に過ぎない。

地域別の統合軍は、最大の太平洋軍の他に、北方軍(北米地域)、南方軍(南米地域)、欧州軍、アフリカ軍、中央軍(主として中東地域)がある。米軍は世界を勝手に分割し、担当を決めているのだ。機能別の統合軍には、特殊作戦軍、輸送軍、そして戦略軍がある。サイバー軍はこれまで、戦略軍の下に置かれてきた。戦略軍は核兵器、宇宙、サイバーを担当している。

太平洋軍の下を見ると、太平洋陸軍、太平洋艦隊(海軍)、太平洋空軍、太平洋海兵隊という下位構成軍があり、アジア太平洋地域の有事の際にはそれらが兵力を出し合い、作戦に参加する。第二次世界大戦時に陸軍と海軍の対立が作戦活動を阻害したという反省から統合軍が作られた。

サイバー軍の編成

サイバー軍を2009年6月に設置したのは当時のロバート・ゲーツ国防長官である。ゲーツは、インテリジェンス機関である国家安全保障局(NSA)の長官だったキース・アレグザンダーにサイバー軍初代司令官を兼任させることにした。サイバースペースという特殊な領域とはいえ、軍の司令官とインテリジェンス機関の長官を兼任させるという人事には世間が驚いた。ゲーツは、サイバースペースにおける国防総省の作戦をうまく組織し、サイバースペースへのアクセスの自由を保障し、そして、軍事活動への妨害を阻止するための人員、資源、技術への投資を監督することことが兼務の狙いだったと著書の中で説明している。実際にサイバー軍が動き出したのは2010年5月になった。

プロフィール

土屋大洋

慶應義塾大学大学院政策・メディア研究科教授。国際大学グローバル・コミュニティセンター主任研究員などを経て2011年より現職。主な著書に『サイバーテロ 日米vs.中国』(文春新書、2012年)、『サイバーセキュリティと国際政治』(千倉書房、2015年)、『暴露の世紀 国家を揺るがすサイバーテロリズム』(角川新書、2016年)などがある。

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

米、アルゼンチンペソ直接購入 200億ドルの通貨ス

ワールド

米NY州司法長官を起訴、住宅ローン詐欺で トランプ

ワールド

米司法省、ファースト・ブランズ破綻を巡って調査開始

ワールド

イリノイ州への州兵派遣一時差し止め、地裁「火に油注
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:中国EVと未来戦争
特集:中国EVと未来戦争
2025年10月14日号(10/ 7発売)

バッテリーやセンサーなど電気自動車の技術で今や世界をリードする中国が、戦争でもアメリカに勝つ日

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    かばんの中身を見れば一発でわかる!「認知症になりやすい人」が持ち歩く5つのアイテム
  • 2
    【クイズ】日本人が唯一「受賞していない」ノーベル賞の部門はどれ?
  • 3
    悲しみで8年間「羽をむしり続けた」オウム...新たな飼い主との「イケイケなダンス」姿に涙と感動の声
  • 4
    50代女性の睡眠時間を奪うのは高校生の子どもの弁当…
  • 5
    あなたは何型に当てはまる?「5つの睡眠タイプ」で記…
  • 6
    ウクライナの英雄、ロシアの難敵──アゾフ旅団はなぜ…
  • 7
    史上最大級の航空ミステリー、太平洋上で消息を絶っ…
  • 8
    米、ガザ戦争などの財政負担が300億ドルを突破──突出…
  • 9
    底知れぬエジプトの「可能性」を日本が引き出す理由─…
  • 10
    いよいよ現実のものになった、AIが人間の雇用を奪う…
  • 1
    増加する「子どもを外注」する親たち...ネオ・ネグレクトとは何か? 多い地域はどこか?
  • 2
    かばんの中身を見れば一発でわかる!「認知症になりやすい人」が持ち歩く5つのアイテム
  • 3
    バフェット指数が異常値──アメリカ株に「数世代で最悪」の下落リスク
  • 4
    「大谷翔平の唯一の欠点は...」ドジャース・ロバーツ…
  • 5
    赤ちゃんの「耳」に不思議な特徴...写真をSNS投稿す…
  • 6
    iPhone 17は「すぐ傷つく」...世界中で相次ぐ苦情、A…
  • 7
    祖母の遺産は「2000体のアレ」だった...強迫的なコレ…
  • 8
    【クイズ】日本人が唯一「受賞していない」ノーベル…
  • 9
    ロシア「影の船団」が動く──拿捕されたタンカーが示…
  • 10
    更年期を快適に──筋トレで得られる心と体の4大効果
  • 1
    「最悪」「悪夢だ」 飛行機内で眠っていた女性が撮影...目覚めた時の「信じがたい光景」に驚きの声
  • 2
    【クイズ】世界で唯一「蚊のいない国」はどこ?
  • 3
    「中野サンプラザ再開発」の計画断念、「考えてみれば当然」の理由...再開発ブーム終焉で起きること
  • 4
    「大谷翔平の唯一の欠点は...」ドジャース・ロバーツ…
  • 5
    カミラ王妃のキャサリン妃への「いら立ち」が話題に.…
  • 6
    【クイズ】次のうち、飲むと「蚊に刺されやすくなる…
  • 7
    「我々は嘘をつかれている...」UFOらしき物体にミサ…
  • 8
    科学が解き明かす「長寿の謎」...100歳まで生きる人…
  • 9
    増加する「子どもを外注」する親たち...ネオ・ネグレ…
  • 10
    かばんの中身を見れば一発でわかる!「認知症になり…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story