コラム

サイバー攻撃にさらされる東京オリンピック:時限法も視野に

2016年03月07日(月)16時45分

ロンドン・オリンピックでは、2億件のサイバー攻撃が行われたという。Marko Djurica-REUTERS

 大規模なイベントの開催は、多大なセキュリティ・リスクを伴うようになっている。かつてはイベントの収支の赤字が最大のリスク要因だったが、今では物理的なテロやサイバー・テロにも備えなくてはいけない。

 2008年の北京オリンピックは、中国政府のメンツをかけたイベントだった。なんとしても成功させるため、中国政府は公安部(警察)と人民解放軍を動員して徹底的な警戒態勢をとった。それはサイバースペースでも同じだった。オリンピックの開催期間中は、外国からの観光客が大勢来るため、ソーシャルメディアなどの規制が一部弱められた。その分、セキュリティ・リスクも高まる。それに備えるために多大なリソースが割かれた。

 しかし、北京オリンピックのサイバーセキュリティにおいて最大の誤算だったのは、オンラインで入場券を発売した瞬間にアクセスが殺到し、システムが落ちてしまったことである。DDoS(分散型サービス拒否)攻撃が自然発生してしまったわけだ。

 それにしても、2008年夏の北京オリンピックや、2010年冬のカナダのバンクーバー・オリンピックは、現在ほどサイバー攻撃が深刻ではなかった。2014年冬のロシアのソチ・オリンピックはロシア政府が徹底的な警備体制を敷いてあらゆるリスク対処を行った。中国やロシアでは政府が強力な規制を行っても文句は出にくいが、民主主義体制の国ではそうはいかない。その点、2020年の東京オリンピックのためにいつも参照されるのが2012年夏の英国のロンドン・オリンピックである。

ロンドン・オリンピック

 2012年にロンドンでオリンピックを開催することは、2008年に決まった。すぐに英国最大の通信事業者であるBTが対応を開始した。まずは英国の国際オリンピック委員会(IOC)と話し合い、オリンピックのための情報インフラストラクチャ提供を決めた。

 BTは、通信、データ・センター、オリンピック放送システム(OBS)をサポートすることになった。その他、外国使節、VIP、メディアにもネットワークを提供することになった。

 しかし、そうしたVIPはもちろん、一般の来場者たちも自分の端末・機材を持ち込むため、コントロールの効かないBYOD(Bring Your Own Device)ネットワークになる。すでに感染している端末・機材が大量にネットワークに持ち込まれることになる。そうした懸念に対応するため、オリンピック開催の1年半前にシステムのアーキテクチャを完成させた。

プロフィール

土屋大洋

慶應義塾大学大学院政策・メディア研究科教授。国際大学グローバル・コミュニティセンター主任研究員などを経て2011年より現職。主な著書に『サイバーテロ 日米vs.中国』(文春新書、2012年)、『サイバーセキュリティと国際政治』(千倉書房、2015年)、『暴露の世紀 国家を揺るがすサイバーテロリズム』(角川新書、2016年)などがある。

あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

英中銀が金利据え置き、量的引き締めペース縮小 長期

ワールド

ガザ全域で通信遮断、イスラエル軍の地上作戦拡大の兆

ワールド

トランプ氏、プーチン氏に「失望」 英首相とウクライ

ワールド

インフレ対応で経済成長を意図的に抑制、景気後退は遠
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:世界が尊敬する日本の小説36
特集:世界が尊敬する日本の小説36
2025年9月16日/2025年9月23日号(9/ 9発売)

優れた翻訳を味方に人気と評価が急上昇中。21世紀に起きた世界文学の大変化とは

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「何だこれは...」クルーズ船の客室に出現した「謎の物体」にSNS大爆笑、「深海魚」説に「カニ」説も?
  • 2
    燃え上がる「ロシア最大級の製油所」...ウクライナ軍、夜間に大規模ドローン攻撃 国境から約1300キロ
  • 3
    1年で1000万人が死亡の可能性...迫る「スーパーバグ」感染爆発に対抗できる「100年前に忘れられた」治療法とは?
  • 4
    「日本を見習え!」米セブンイレブンが刷新を発表、…
  • 5
    「最悪」「悪夢だ」 飛行機内で眠っていた女性が撮影…
  • 6
    アジア作品に日本人はいない? 伊坂幸太郎原作『ブ…
  • 7
    中国山東省の住民が、「軍のミサイルが謎の物体を撃…
  • 8
    ケージを掃除中の飼い主にジャーマンシェパードがま…
  • 9
    中国経済をむしばむ「内巻」現象とは?
  • 10
    「ゾンビに襲われてるのかと...」荒野で車が立ち往生…
  • 1
    「最悪」「悪夢だ」 飛行機内で眠っていた女性が撮影...目覚めた時の「信じがたい光景」に驚きの声
  • 2
    「中野サンプラザ再開発」の計画断念、「考えてみれば当然」の理由...再開発ブーム終焉で起きること
  • 3
    【クイズ】次のうち、飲むと「蚊に刺されやすくなる」飲み物はどれ?
  • 4
    科学が解き明かす「長寿の謎」...100歳まで生きる人…
  • 5
    「二度見した」「小石のよう...」マッチョ俳優ドウェ…
  • 6
    「我々は嘘をつかれている...」UFOらしき物体にミサ…
  • 7
    【クイズ】世界で唯一「蚊のいない国」はどこ?
  • 8
    【クイズ】世界で1番「島の数」が多い国はどこ?
  • 9
    「何だこれは...」クルーズ船の客室に出現した「謎の…
  • 10
    電車内で「ウクライナ難民の女性」が襲われた驚愕シ…
  • 1
    「4針ですかね、縫いました」日本の若者を食い物にする「豪ワーホリのリアル」...アジア出身者を意図的にターゲットに
  • 2
    【クイズ】世界で唯一「蚊のいない国」はどこ?
  • 3
    「まさかの真犯人」にネット爆笑...大家から再三「果物泥棒」と疑われた女性が無実を証明した「証拠映像」が話題に
  • 4
    信じられない...「洗濯物を干しておいて」夫に頼んだ…
  • 5
    「最悪」「悪夢だ」 飛行機内で眠っていた女性が撮影…
  • 6
    「中野サンプラザ再開発」の計画断念、「考えてみれ…
  • 7
    「我々は嘘をつかれている...」UFOらしき物体にミサ…
  • 8
    プール後の20代女性の素肌に「無数の発疹」...ネット…
  • 9
    【クイズ】次のうち、飲むと「蚊に刺されやすくなる…
  • 10
    「怖すぎる」「速く走って!」夜中に一人ランニング…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story