コラム

NYのダム、ウクライナの変電所...サイバー攻撃で狙われる制御システム

2016年01月08日(金)12時30分

2015年12月23日、ロシアのサイバー攻撃によってウクライナで140万世帯の停電が発生した。(写真はドイツの変電所 Tobias Schwarz-REUTERS)

 米国西部のアイダホ州にあるアイダホ国立研究所は、冷戦のさなかの1949年に原子炉の試験場として設立された。名前は幾度となく変更されたが、数多くの原子炉がここで作られ、実験が行われた。

 2000年代に入り、ここでは重要インフラストラクチャに対するサイバーセキュリティに関する実験も行われるようになった。そして、2007年3月に「オーロラ発電機テスト」と呼ばれる実験が行われた。これはサイバー攻撃が物理的な部品を破壊できるかを確かめるためのものであった(Googleに対するサイバー攻撃として知られる「オーロラ作戦」とは関係ない)。

 研究所は、タイガー・チームと呼ばれる特定の項目を検討する専門家チームを結成し、27トンもある巨大なディーゼル発電機を実験用に設置し、その制御プログラムを不正に操作することで発電機を故障させることができるかを確かめようとした。この発電機が作られた当時のプログラムはセキュリティを考慮しておらず、脆弱性を悪用すれば、発電機の制御システムを乗っ取ることができるはずだった。

サイバー攻撃で破壊された発電機

 実際の実験の動画が残されており、それによれば、発電機はサイバー攻撃を受け、そのたびにショックを受けたように大きく振動した後、異常な煙を吐き出し、動かなくなったことが分かる。一部の部品は24メートルも飛んでいった。実験のため、攻撃は間隔をもって行われたが、実際の攻撃ではもっと短時間で破壊することができたと推測されている。

発電機の制御プログラムを不正に操作する実験「オーロラ発電機テスト」が行われた


 その後の検証によれば、発電機全体に故障が広がっており、全体を取り替えなくてはならないほどの損傷が見られた。実際にこうした攻撃が行われれば、数日から数週間にわたって発電機が使えなくなる可能性がある。そして、それが同時多発的に複数箇所で行われれば、全てを修復・交換するのには多大な人手と時間がかかり、社会的機能の喪失につながる可能性がある。

 元々の制御システムのプログラムはきわめて単純なものであり、この実験で使われたサイバー攻撃を止めるためには、電流制限器(ブレーカー)が以上に開閉しないように設定しておくだけで良かったとされている。しかし、そうした使い方がされるとは、当初は想定されていなかった。

 この実験は秘密で行われており、公開は予定されていなかった。しかし、2007年9月27日、DHSが提供した情報とビデオをCNNがニュースにして流した。さらに2014年7月、情報公開請求に基づいてDHSが関連文書の多くを公開、全体像が見えてきた(しかし、840ページある公開文書からは削られている部分も多い )。

プロフィール

土屋大洋

慶應義塾大学大学院政策・メディア研究科教授。国際大学グローバル・コミュニティセンター主任研究員などを経て2011年より現職。主な著書に『サイバーテロ 日米vs.中国』(文春新書、2012年)、『サイバーセキュリティと国際政治』(千倉書房、2015年)、『暴露の世紀 国家を揺るがすサイバーテロリズム』(角川新書、2016年)などがある。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

北朝鮮、黄海でミサイル発射実験=KCNA

ビジネス

根強いインフレ、金融安定への主要リスク=FRB半期

ビジネス

英インフレ、今後3年間で目標2%に向け推移=ラムス

ビジネス

米国株式市場=S&Pとナスダック下落、ネットフリッ
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:老人極貧社会 韓国
特集:老人極貧社会 韓国
2024年4月23日号(4/16発売)

地下鉄宅配に古紙回収......繁栄から取り残され、韓国のシニア層は貧困にあえいでいる

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なない理由が明らかに

  • 2

    止まらぬ金価格の史上最高値の裏側に「中国のドル離れ」外貨準備のうち、金が約4%を占める

  • 3

    中国のロシア専門家が「それでも最後はロシアが負ける」と中国政府の公式見解に反する驚きの論考を英誌に寄稿

  • 4

    休日に全く食事を取らない(取れない)人が過去25年…

  • 5

    「韓国少子化のなぜ?」失業率2.7%、ジニ係数は0.32…

  • 6

    ハーバード大学で150年以上教えられる作文術「オレオ…

  • 7

    日本の護衛艦「かが」空母化は「本来の役割を変える…

  • 8

    中ロ「無限の協力関係」のウラで、中国の密かな侵略…

  • 9

    毎日どこで何してる? 首輪のカメラが記録した猫目…

  • 10

    便利なキャッシュレス社会で、忘れられていること

  • 1

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 2

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なない理由が明らかに

  • 3

    攻撃と迎撃の区別もつかない?──イランの数百の無人機やミサイルとイスラエルの「アイアンドーム」が乱れ飛んだ中東の夜間映像

  • 4

    天才・大谷翔平の足を引っ張った、ダメダメ過ぎる「無…

  • 5

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 6

    アインシュタインはオッペンハイマーを「愚か者」と…

  • 7

    犬に覚せい剤を打って捨てた飼い主に怒りが広がる...…

  • 8

    ハリー・ポッター原作者ローリング、「許すとは限ら…

  • 9

    価値は疑わしくコストは膨大...偉大なるリニア計画っ…

  • 10

    大半がクリミアから撤退か...衛星写真が示す、ロシア…

  • 1

    人から褒められた時、どう返事してますか? ブッダが説いた「どんどん伸びる人の返し文句」

  • 2

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 3

    88歳の現役医師が健康のために「絶対にしない3つのこと」目からうろこの健康法

  • 4

    ロシアの迫撃砲RBU6000「スメルチ2」、爆発・炎上の…

  • 5

    バルチック艦隊、自国の船をミサイル「誤爆」で撃沈…

  • 6

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 7

    ロシアが前線に投入した地上戦闘ロボットをウクライ…

  • 8

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 9

    1500年前の中国の皇帝・武帝の「顔」、DNAから復元に…

  • 10

    浴室で虫を発見、よく見てみると...男性が思わず悲鳴…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story