コラム

ベルリンが「ブロックチェーンの首都」になった理由

2020年12月07日(月)17時00分

ベルリンのハッカー組織「カオス・コンピュータ・クラブ」のメンバーズ・サロンc-baseで開かれた会合の様子 2009年 ©Raimond Spekking / CC BY-SA 4.0(Wikimedia Commons)

<暗号通貨やブロックチェーン技術は、シリコンバレーの革新的な精神と連携するはずだったが、ブロックチェーンの考え方にもっとも適合したのはベルリンだった......>

ベルリンのハッカー文化

ブロックチェーン技術は、次世代インターネットやデジタル・トランスフォーメーション(DX)の最も有望なトレンドの1つである。スタートアップ、革新的な技術チーム、そして大企業や政府までが、次の破壊的なイノベーションの鍵となるブロックチェーンの応用に取り組んでいる。

元来、暗号通貨やブロックチェーン技術は、シリコンバレーの革新的な精神と連携するはずだった。しかし、ブロックチェーン・コミュニティは別の港を見つけた。それがベルリンである。

銀行や政府の介在なしで行われる分散型金融システムのアイデアが、ベルリンで特に関心を集めてきたのには、ベルリンという都市の自由精神や反体制文化と関連がある。さらに、世界のハッカー文化の中心であるカオス・コンピュータ・クラブ(CCC)がベルリンにあることも、暗号技術の基盤を支えている。

takemura1207_1.jpg

ベルリンのハッカー組織「カオス・コンピュータ・クラブ」のメンバーズ・サロンであるc-baseの入り口。ベルリンのハッカーシーンの中心で、国際的なハッカースペースの中核の1つだ


CCCは、世界に8千人ほどの正式メンバーを持ち、分散するコラボレーションを特徴とするハッカー文化により、ベルリンの先端情報技術やブロックチェーンの台頭を後押ししてきた。今日、ビットコインをめぐるゴールドラッシュが衰えた後でさえ、ベルリンの暗号コミュニティは、ブロックチェーンの背後にある理想を支持している。

現実世界をデジタルでマッピングする「デジタルツイン」

ブロックチェーンは、ネットワークに接続された複数のコンピュータが暗号化されたデータを共有することで、データの改ざんを防ぎ、透明性を実現する分散型台帳システムである。それは暗号通貨の送金システムにとどまらず、さまざまな経済活動のプラットフォームとなり得る技術である。ブロックチェーンは、500年前に発明された「複式簿記」以来の革命とも表現されている。

ブロックチェーンの応用を、中古車市場の深刻な問題を解決する事例をもとに説明してみよう、EUに登録されているすべての車両の約30%が、走行距離計の読み取り値を改ざんして走行していると推定されている。ここで、ブロックチェーン・ベースのデジタルツインの登場が期待される。デジタルツインは、現実世界のオブジェクトをデジタルでマッピングすることで、ヴァーチュアルな双子として機能する。実際に走行するクルマのすべての情報は、デジタルツインによって追跡可能となる。

中古車を購入する場合、走行距離と実施された修理や定期的なメンテナンスの履歴よって販売価格が決まる。走行距離の改ざんなどは、ブロックチェーンを介したデジタルツインを追跡することで確認することができる。すべての修理、所有者によるすべての変更は、個々のブロックに保存され、改ざんすることはできない。

takemura1207_3.jpg

Jeep Grand Cherokee Laredoのデジタルディスプレイ付き電子走行距離計。Odometer, Wikipedia. CC BY-SA 3.

クルマは定期的に走行距離計の読み取り値をデータベースに報告し、修理や検査に関するデータも保存される。データはパブリック・ブロックチェーンにミラーリングされ、走行距離の正確さが担保される。これにより、中古車市場の信頼性は高まり、クルマの価格の透明性が維持されるのだ。

プロフィール

武邑光裕

メディア美学者、「武邑塾」塾長。Center for the Study of Digital Lifeフェロー。日本大学芸術学部、京都造形芸術大学、東京大学大学院、札幌市立大学で教授職を歴任。インターネットの黎明期から現代のソーシャルメディア、AIにいたるまで、デジタル社会環境を研究。2013年より武邑塾を主宰。著書『記憶のゆくたて―デジタル・アーカイヴの文化経済』(東京大学出版会)で、第19回電気通信普及財団テレコム社会科学賞を受賞。このほか『さよならインターネット GDPRはネットとデータをどう変えるのか』(ダイヤモンド社)、『ベルリン・都市・未来』(太田出版)などがある。新著は『プライバシー・パラドックス データ監視社会と「わたし」の再発明』(黒鳥社)。現在ベルリン在住。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

欧州議会選、オランダで開始 左派が優勢も極右躍進

ビジネス

米国株式市場=S&Pとナスダック小反落、米雇用統計

ビジネス

NY外為市場=ユーロ上昇、ECB利下げを消化 ドル

ワールド

仏、ウクライナにミラージュ2000戦闘機を提供へ
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:ウクライナの日本人
特集:ウクライナの日本人
2024年6月11日号(6/ 4発売)

義勇兵、ボランティア、長期の在住者......。銃弾が飛び交う異国に彼らが滞在し続ける理由

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    我先にと逃げ出す兵士たち...ブラッドレー歩兵戦闘車が、平原進むロシアの装甲車2台を「爆破」する決定的瞬間

  • 2

    「世界最年少の王妃」ブータンのジェツン・ペマ王妃が34歳の誕生日を愛娘と祝う...公式写真が話題に

  • 3

    カラスは「数を声に出して数えられる」ことが明らかに ヒト以外で確認されたのは初めて

  • 4

    「出生率0.72」韓国の人口政策に(まだ)勝算あり

  • 5

    なぜ「管理職は罰ゲーム」と言われるようになったの…

  • 6

    ウクライナ水上ドローンが、ヘリからの機銃掃射を「…

  • 7

    アメリカ兵器でのロシア領内攻撃容認、プーチンの「…

  • 8

    ロシア兵がウクライナ「ATACMS」ミサイルの直撃を受…

  • 9

    アメリカで話題、意識高い系へのカウンター「贅沢品…

  • 10

    ヨルダン・ラジワ皇太子妃の「マタニティ姿」が美しす…

  • 1

    ラスベガスで目撃された「宇宙人」の正体とは? 驚愕の映像が話題に

  • 2

    ウクライナ水上ドローンが、ヘリからの機銃掃射を「回避」してロシア黒海艦隊に突撃する緊迫の瞬間

  • 3

    「世界最年少の王妃」ブータンのジェツン・ペマ王妃が34歳の誕生日を愛娘と祝う...公式写真が話題に

  • 4

    ヨルダン・ラジワ皇太子妃の「マタニティ姿」が美しす…

  • 5

    我先にと逃げ出す兵士たち...ブラッドレー歩兵戦闘車…

  • 6

    キャサリン妃「お気に入りブランド」廃業の衝撃...「…

  • 7

    「サルミアッキ」猫の秘密...遺伝子変異が生んだ新た…

  • 8

    アメリカで話題、意識高い系へのカウンター「贅沢品…

  • 9

    「自閉症をポジティブに語ろう」の風潮はつらい...母…

  • 10

    テイラー・スウィフトの大胆「肌見せ」ドレス写真...…

  • 1

    ラスベガスで目撃された「宇宙人」の正体とは? 驚愕の映像が話題に

  • 2

    半裸でハマスに連れ去られた女性は骸骨で発見された──イスラエル人人質

  • 3

    ウクライナ水上ドローンが、ヘリからの機銃掃射を「回避」してロシア黒海艦隊に突撃する緊迫の瞬間

  • 4

    EVが売れると自転車が爆発する...EV大国の中国で次々…

  • 5

    「世界最年少の王妃」ブータンのジェツン・ペマ王妃が…

  • 6

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などで…

  • 7

    ヨルダン・ラジワ皇太子妃の「マタニティ姿」が美しす…

  • 8

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する…

  • 9

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両…

  • 10

    ロシアの「亀戦車」、次々と地雷を踏んで「連続爆発…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story