コラム

英国EU離脱。しかし、問題は、移民からロボティックスへ

2016年06月27日(月)16時00分

 確かに、「21世紀の世界首都」である恩恵が多いのも確かだ。世界的な大企業が多く、世界で最も外国人旅行者が訪れる都市に成長。それによる雇用拡大もが大きかったが、イギリス人労働力から安価なEUからの移民に流れていき、全体的に疲弊。これによって、EU離脱運動が起きることになる。その中心人物は、他でもない第二代ロンドン市長のボリス・ジョンソンなのである。

移民労働者をロボティックスに移し替える移行段階

 しかし、移民やグローバル化による安価な労働力の移転は、すでに過去のものだと僕は確信している。例えば、英国と同じようにEU統合の光と影を持つドイツを代表する企業アディダスは、東西ドイツが合併後、すぐさまスニーカー工場をアジアに移転し、安価な労働力と国際的なマーケティングで、この25年大きく成長してきた。だが、今年に入って「脱アジア」を表明。ドイツ国内の最先端ロボティックス工場で、スニーカーの生産を本格的にはじめると発表したのだ。

 また、移民流入を防ぐ最初にして最後の壁である入国審査が、次々と自動化している。かつては、英国同様に厳しい入国審査があったオーストラリアは、昨年から「スマートゲート」の実験を開始した。パスポートをスキャナーに入れ、無人デジタルカメラの撮影が終われば、1分で終了する。この6月20日から、ついに本格運用されることとなった。その前提条件は、対象国のパスポートを持っていること。そして16歳以上であること。このふたつだけである。実際、僕もつい先日オーストラリアへ入国してみて拍子抜けした。さらに香港は、無人化ゲートを使うには事前登録が必要だが、その前提条件は、航空会社のマイレージステータス・カードを持っていれば、誰でも可能。今後、入国審査は無人、すなわちロボットの仕事となるだろう。

 こう考えると、イギリスのEU離脱とロボットによる無人入国審査は、別の問題ではない。10年前にはあれほど多くいたロンドン市内のスーパーのポーランド人レジ打ちが次々無人になり、そして、いまや入国審査までもがロボティックス化に向かっている。

 すなわち、イギリスに流入する移民をせき止め、再び労働力をイギリス人の手に戻すのではなく、移民労働者をロボティックスに移し替える移行段階に現在はある、と理解するのが正しい。移民か、それともロボットか。そのふたつの未来が対峙する象徴が、国境に設置された無人化ゲートなのである。

 たとえ、EU離脱に賛成した投票者が理解していなくとも、この流れは止められない。グローバル時代からロボティックス時代へ。入国ルールが変わる数年後のイギリス国境が無人化した際、多くの人たちは、自分たちの未来に気がつくことになるのだろう。

プロフィール

高城剛

1964年生まれ。 日大芸術学部在学中に「東京国際ビデオビエンナーレ」グランプリ受賞後、メディアを超えて横断的に活動。総務省情報通信審議会専門委員など公職歴任。2008年より、拠点を欧州へ移し活動。現在、コミュニケーション戦略と次世代テクノロジ―を専門に、創造産業全般にわたって活躍。また、作家として著作多数。2014年Kindleデジタルパブリッシングアワード受賞。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

中東紛争、長期化次第で世界経済に大きな影響=IMF

ビジネス

米利下げペース減速の見通し、イラン情勢悪化と原油高

ワールド

トランプ大統領、スペインとの貿易を全面停止へ 基地

ワールド

トランプ氏、軍に先制行動を命令 イランの米攻撃懸念
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:トランプのイラン攻撃
特集:トランプのイラン攻撃
2026年3月10日号(3/ 3発売)

核開発の断念を迫るトランプ政権が攻撃を開始。イランとアメリカの本格戦争は始まるのか?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本の若者「韓国就職」憧れと現実のギャップ ── ビザの壁、会社都合の解雇、帰国後も続く苦境
  • 2
    縫いぐるみが相棒、孤独なサル「パンチくん」がバズった理由
  • 3
    少子化に悩む韓国で出生率回復...昨年過去最大の伸び率を記録した「勝因」と「今後の課題」
  • 4
    サファリ中の女性に悲劇...ライオンに「くわえ去られ…
  • 5
    イラン猛反撃、同士討ちまで起きる防空戦はいつまで…
  • 6
    核合意寸前、米国がイラン攻撃に踏み切った理由
  • 7
    「死体を運んでる...」Google Earthで表示される「不…
  • 8
    人気の女性インフルエンサー、「直視できない」すご…
  • 9
    イランへの直接攻撃は世界を変えた...秩序が崩壊する…
  • 10
    「日本食ブーム」は止まらない...抹茶、日本酒に「あ…
  • 1
    見事なカンフーを見せた中国ヒト型ロボットのからくりとリスク
  • 2
    村瀬心椛は「トップでなければおかしい」...スノボの謎判定に「怒りの鉄拳」、木俣椋真の1980には「ぼやき」も
  • 3
    日本の若者「韓国就職」憧れと現実のギャップ ── ビザの壁、会社都合の解雇、帰国後も続く苦境
  • 4
    BTS復活...でも、韓国エンタメが「苦境」に陥っている
  • 5
    中国、4隻目の空母は原子力艦か──世界3番目の原子力…
  • 6
    縫いぐるみが相棒、孤独なサル「パンチくん」がバズ…
  • 7
    「毎日が人生最後の日」だと思って酒を飲む...84歳医…
  • 8
    少女買春に加え、国家機密の横流しまで...アンドルー…
  • 9
    中国で今まで発見されたことがないような恐竜の化石…
  • 10
    アルコールは血糖値を下げる...「脳と血管を守る」医…
  • 1
    ウクライナ戦闘機「F-16」がロシア軍「シャヘド」を空中爆破...地上から撮影の「レア映像」を公開
  • 2
    高市積極財政にアメリカが慌てる理由
  • 3
    台湾侵攻「失敗」の大きすぎる代償
  • 4
    「最恐」恐竜T・レックスの定説を覆す新研究が
  • 5
    イースター島の先住民から資源を略奪、島を「生きた…
  • 6
    アルコールは血糖値を下げる...「脳と血管を守る」医…
  • 7
    見事なカンフーを見せた中国ヒト型ロボットのからく…
  • 8
    「ヘル・コリア」から日本へ7万人 ── 大企業の高給より…
  • 9
    中国、パナマ運河の港湾喪失でパナマに報復──トラン…
  • 10
    命は長し、働け女たち――88歳「働くばあさん」が説く…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story