コラム

英国EU離脱。しかし、問題は、移民からロボティックスへ

2016年06月27日(月)16時00分

Stefan Wermuth-REUTERS

<世界一のグローバル都市へと成長し、移民が急増したロンドン。ロンドンに移住した高城剛氏は身近にその変化を見て来た。そして、移民やグローバル化による安価な労働力の移転は、すでに過去のものだと高城氏は確信している...> 写真:移民を問題視するイギリス独立党のナイジェル・ファラージ。しかし、既に移民とは別の限界点が来つつある・・?

世界一のグローバル都市へと成長したロンドン

 英国がEUから離脱した。この要因はいくつもあると思うが、一番は移民の問題だと言われている。かつて、英国病と揶揄されるほど、古い社会システムを打破できずに疲弊していた英国は、1999年のユーロ通貨統合以降、モノ、人、金の移動が自由かつ活発になり、いわゆるグローバル化に大きく舵を切った。このグローバル化の意味するところは、EUに限らない新興国も含めた、まさに「世界」を意味している。そして、ロンドンはあっという間にニューヨークを超えて、世界一のグローバル都市へと成長していくことになった。

 そして、時期を同じくロンドン市が誕生している。1999年までのロンドンは、行政が2層からなる地方自治制度を組み合わせた独特の制度を持つ複雑な機関だったが、2000年以降、大ロンドン市域全体の行政府が誕生。ここで大ロンドン市が誕生し、初代市長には労働党のケン・リヴィングストンが就任することになった。このケン・リヴィングストンが外国人に対する税の優遇など、大胆な開放政策でロンドン復活の立役者と呼ばれ、ロンドンは見違えるほどに活況になる。

 そんな「21世紀の世界首都」となったロンドンを目指し、世界中から人が集まってきた。なにを隠そう、僕もその一人だった。2007年末にロンドンに引っ越した際には、他のどの都市よりも外国人に対して、税制優遇が行われていた。それによって、物価が高騰。いわゆるバブルに突入する。このあたらしい黄金都市エルドラドを目指して、EU中から人が殺到した。

 なかでも2004年、EUに加盟したポーランド人は、自国で働く5倍以上の収入を得られることもあって、多くの人がロンドンを目指すことになった。なにしろ人手も足りない。気がつくと、わずか3年間でポーランドからの出稼ぎ労働者の数は100万人を超え、ロンドン市内にポーランド人街が、いくつも出来上がっていた。

ロンドンは既にパンク寸前

 2008年夏、僕が住んでいたロンドンは、10年前の1998年とはまったく別の街に変貌していた。とにかく、人が多い。電車に乗ってもデパートに行っても人だらけ。急増する移民に病院も学校もパンク状態。日本円から見るとポンドは250円を超え、景気がいい間は、まだよかった。その年の秋、すべては反転することになる。リーマンショックが起きたのだ。

 リーマンショック以降、ロンドンの風景は再び様変わりすることになる。建設中だった建築現場は放置され、外国人優遇税制も大きく見直されることになった。そして、この年、大ロンドン市の市長も変わる。グローバル志向の労働党のケン・リヴィングストンを破り、ロンドナーのためのロンドンを目指した保守党のボリス・ジョンソンが第二代ロンドン市長となる。

 ボリスがロンドン市長に就任後も、「21世紀の世界首都」となったロンドンのグローバル化に歯止めは利かなかった。世界中、なかでも、事実上国境がないEU中から押し寄せる人たちは年々増え続け、ロンドンはパンク寸前。2016年現在、ロンドンに住む人たちのあいだでは、300以上の言語が使われているという。もし、このままEUが拡大を続け、例えば難民が多いトルコがEUに加盟するならば、ロンドンは、そしてイギリスはどのようになってしまうだろう?

プロフィール

高城剛

1964年生まれ。 日大芸術学部在学中に「東京国際ビデオビエンナーレ」グランプリ受賞後、メディアを超えて横断的に活動。総務省情報通信審議会専門委員など公職歴任。2008年より、拠点を欧州へ移し活動。現在、コミュニケーション戦略と次世代テクノロジ―を専門に、創造産業全般にわたって活躍。また、作家として著作多数。2014年Kindleデジタルパブリッシングアワード受賞。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

ガザ停戦が発効、人質名簿巡る混乱で遅延 15カ月に

ワールド

韓国尹大統領に逮捕状発付、現職初 支持者らが裁判所

ワールド

アングル:もう賄賂は払わない、アサド政権崩壊で夢と

ワールド

アングル:政治的権利に目覚めるアフリカの若者、デジ
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:トランプ新政権ガイド
特集:トランプ新政権ガイド
2025年1月21日号(1/15発売)

1月20日の就任式を目前に「爆弾」を連続投下。トランプ新政権の外交・内政と日本経済への影響は?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    失礼すぎる!「1人ディズニー」を楽しむ男性に、女性客が「気味が悪い」...男性の反撃に「完璧な対処」の声
  • 2
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参加で「ネットの自由」を得た兵士が見ていた動画とは?
  • 3
    感染症に強い食事法とは?...食物繊維と腸の関係が明らかに【最新研究】
  • 4
    【クイズ】次のうち、和製英語「ではない」のはどれ…
  • 5
    「拷問に近いことも...」獲得賞金は10億円、最も稼い…
  • 6
    【クイズ】世界で1番マイクロプラスチックを「食べて…
  • 7
    女性クリエイター「1日に100人と寝る」チャレンジが…
  • 8
    注目を集めた「ロサンゼルス山火事」映像...空に広が…
  • 9
    本当に残念...『イカゲーム』シーズン2に「出てこな…
  • 10
    メーガン妃とヘンリー王子の「山火事見物」に大ブー…
  • 1
    ティーバッグから有害物質が放出されている...研究者が警告【最新研究】
  • 2
    体の筋肉量が落ちにくくなる3つの条件は?...和田秀樹医師に聞く「老けない」最強の食事法
  • 3
    「拷問に近いことも...」獲得賞金は10億円、最も稼いでいるプロゲーマーが語る「eスポーツのリアル」
  • 4
    失礼すぎる!「1人ディズニー」を楽しむ男性に、女性…
  • 5
    【クイズ】世界で1番マイクロプラスチックを「食べて…
  • 6
    メーガン妃のNetflix新番組「ウィズ・ラブ、メーガン…
  • 7
    轟音に次ぐ轟音...ロシア国内の化学工場を夜間に襲う…
  • 8
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 9
    【クイズ】次のうち、和製英語「ではない」のはどれ…
  • 10
    ドラマ「海に眠るダイヤモンド」で再注目...軍艦島の…
  • 1
    ティーバッグから有害物質が放出されている...研究者が警告【最新研究】
  • 2
    大腸がんの原因になる食品とは?...がん治療に革命をもたらす可能性も【最新研究】
  • 3
    体の筋肉量が落ちにくくなる3つの条件は?...和田秀樹医師に聞く「老けない」最強の食事法
  • 4
    夜空を切り裂いた「爆発の閃光」...「ロシア北方艦隊…
  • 5
    インスタント食品が招く「静かな健康危機」...研究が…
  • 6
    TBS日曜劇場が描かなかった坑夫生活...東京ドーム1.3…
  • 7
    「涙止まらん...」トリミングの結果、何の動物か分か…
  • 8
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 9
    「戦死証明書」を渡され...ロシアで戦死した北朝鮮兵…
  • 10
    「腹の底から笑った!」ママの「アダルト」なクリス…
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story