再エネ政策のためなら地元の伝統も文化も破壊する中国...周辺国も反対するダム建設のリスク
Mega Dam, Mega Cost
それでも中国政府には、政治的なリスクがあっても発電用ダムの建設を進める理由がある。国全体の二酸化炭素排出量を抑え、電気料金を引き下げる効果が見込めるからだ。
数字だけ見れば現在の中国は再生可能エネルギーの分野で世界有数の先進国だが、産業界に安価な電力を供給するため、現在でも石炭火力発電に多くを依存している事実がある。この点を修正する手っ取り早い手段が大規模な水力発電所ということになる。
汚職で建設費が増大?
今回の巨大ダム建設にも、民族的チベット人が抵抗するのは必至だ。しかし、それで中国政府が計画を変更する見込みはない。歴史を振り返れば、中国では大昔から「治水」が国家権力の正統性の象徴だった。そもそも伝説の古代王朝・夏の始祖たる禹は治水で天下を統一したとされる。
一方で、大規模な治水プロジェクトが政治的惨事を招いた例もある。隋王朝(581~618年)は軍事的な目的から大運河を建設したが、これが飢饉と反乱を招いて王朝の崩壊につながった。
チベットにおける巨大ダムの建設も、周辺各国との摩擦を生む可能性がある。
ダムでせき止められるヤルンツァンポ川はインドのブラマプトラ川へ流れ込んでおり、インド国内ではこの新たなダムが洪水対策に役立つことを期待する声がある一方、水の供給不足やかんがいへの影響を懸念する声も上がっている。