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教員の病気離職者が、21世紀に入って右肩上がりに急増している

2025年6月25日(水)11時40分
舞田敏彦(教育社会学者)
学校の教室

年々高まる学校への要請を教員だけで受け止めるのは不可能 photoAC

<矢継ぎ早に実施された教育改革、モンスターペアレンツの増加などから、激務で心身を病む教員の増加が止まらない>

公立の義務教育諸学校等の教育職員の給与等に関する特別措置法(給特法)が改正された。目玉は、残業代の代わりに支給される教職調整額を、月収の4%から10%へと段階的に引き上げることだ。しかし数字が変わっただけで、「定額働かせ放題」の仕組みが維持されることから、現場から強い不満が出ている。教員の多くが思っているのは、「カネはいいから時間をくれ」だ。

こういう声を受け、改正法の成立直前に、教員の残業時間(時間外在校等時間)の上限を月30時間にまで削減する、という目標規定が追加された。だがこれとて、仕事の量が変わらないと、持ち帰りの業務が増えるだけになる。給与を増やしたり、就業時間に(形式的な)制限を設けたりしても、教員の働き方改革にはつながりそうにない。

学校現場への様々な要請が時代とともに高まり、激務のあまり心身を病む教員も増えている。2021年度の公立小学校教員の病気離職者(多くは精神疾患)は753人で、同年の本務(常勤)教員1万人当たり18.1人となる。この値がどう変わってきたかをグラフにすると、<図1>のようになる。公立学校教員の病気離職率の推移だ。

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80年代の前半では、中学校教員の病気離職率が高かった。当時、全国的に学校が荒れていたためだろう。その後、荒れの鎮静化とともに離職率は下がるが、世紀の変わり目をボトムに上昇に転じる。急な右上がりだ。

今世紀以降、様々な教育改革が矢継ぎ早に実施された。2006年の教育基本法改正、2007年の全国学力テスト再開、主幹教諭・副校長の職階導入(組織の官僚制化の強まり)、2009年の教員免許更新制施行、外国語教育の早期化......。教員の病気離職の急増は、こうした急展開に現場が翻弄されていることの表れかもしれない。

学校をとりまく外部環境も変わった。それを象徴するのが、学校に無理難題をふっかけるモンスターペアレンツの増加だ。東京都がこの問題に関する調査報告書を出したのは2008年だが、<図1>に示されている病気離職率の上昇期と重なっている。近年では右上がりの傾斜がより大きくなっているが、業務のICT化への対応に加え、特別な支援を要する子や外国籍の子など、児童生徒の背景が多様化していることの影響もあるだろう。

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