「トランプのスピーチ」は計算され尽くした政治工学の産物?
Trump's Speech
「アゴラ」の中のトランプ氏
トランプ氏の言葉は、ファクトチェックの篩(ふるい)にかけると怪しい部分がかなりある。それにもかかわらず、トランプ氏はそれなりの支持をアメリカ市民から得ている。トランプ支持者がファクトチェックの結果を無視しているとすれば、そこでの民主主義の真価が問われる。民主主義のアゴラが腐敗し壊れ始めている、そう感じる人はトランプ支持者の数よりもはるかに多いだろう。
ファクトチェックの対象となる事実にまつわる言明を除くと、トランプ語録の約半分はおおむね強圧的言辞からできている。強圧的言辞はアメリカ人がこよなく好む強い大統領のイメージ戦略に対応している。強い大統領は、アメリカをリードする政治的指導者の理想像だ。
トランプ語録のもう半分は、先に取り上げた無意識民主主義に関係する。筆者には、トランプ氏の言葉の数々が支持者に媚びているように聞こえることがある。支持者の心に浸透する何かがあることは間違いない。彼の言葉は、意外にも選挙民の無意識に忍び込む何かを戦術的に選んでいるのかもしれない。「媚び」ているようには見えない媚びが、支持者には心地よい。Apple polishing(お追従)は鼻につく。彼はへつらってはいない。しかし、巧みに媚びているように聞こえてしまうのだ。彼の関税政策は、いささか安普請に見える。しかし、トランプ氏の言わば「政治工学」は結構手が込んでいるのかもしれない。彼の政治工学の中に、大衆心理学が上手く装置されているらしいのだ。
「媚び」以外にも、刺さる言葉がある。何某(なにがし)かの事柄に、私たちが後ろめたさや罪障感を潜在的に感じている場合、その後ろめたさや罪障感を象徴する言葉を投げつけられたなら、どうなるだろうか。言葉の槍が刺さった心は、多少はうずかないだろうか。最近、トランプ氏がそうした言葉を口にした。「反ユダヤ主義」がそれだ。