最新記事
BOOKS

「歴代首相に盆暮れに1000万円ずつ献金」「地域振興で潤うのは一世代だけ」原発にまつわる話

2024年3月28日(木)12時45分
印南敦史(作家、書評家)
東京電力の柏崎刈羽原発

現在再稼働が議論されている東京電力の柏崎刈羽原発(新潟県) Kim Kyung-Hoon-REUTERS

<原子力ムラの実態、つけを払わされる国民。原発取材を重ねてきた記者による『なぜ日本は原発を止められないのか?』>

1月1日に起きた能登半島地震によって、原発に対する不安がさらに大きくなったという人は少なくないだろう。事実、震度7を記録した石川県志賀町に位置する北陸電力志賀原発がもし稼働していたら、福島第一原発事故に匹敵する最悪の事態となっていただろうとも言われる。
『なぜ日本は原発を止められないのか?』
そもそも、日本には原発が多すぎる。なにしろ2011年の東日本大震災発生前、この狭い国には54基もの原発があったのだ。事故後には21基の廃炉が決定したが、2023年9月時点で12基が再稼働。推進派の意見もいろいろあろうが、あれだけの事故を起こしていながら、今なお原発を止めることができないというのは明らかに不自然だと思う。

しかも、処理水の海洋放出から影響を受ける漁業関係者がそうであるように、原発に関連するさまざまな"つけ"を払わされるのは私たち国民。新聞記者として東日本大震災発生時から現場取材を重ねてきた『なぜ日本は原発を止められないのか?』(青木美希・著、文春新書)の著者も、そのことに言及している。


 私たちはいつまでつけを払い続けるのか。
 東電と政府が一体となって原発を推進し、"原子力ムラ"の人々が安全規制をずさんにしてきたからこそ事故は起きた。
 それなのに政府は、東電の「汚染者負担の原則」をないがしろにし、事故処理にかかる莫大な金額を私たち国民に押し付けている。なぜここまでして東電をかばうのか。(「はじめに」より)

著者によれば、問題は、原子力ムラの"村長"が歴代総理大臣であるという事実だという。村長の意思で原発に税金をじゃぶじゃぶと使い、国策として推し進めることで"原発を守る仕組み"をつくってきたわけである。

そして、電力会社が"村長ら"へ巨額献金をしてきたことも、いまや多くの人々が知るところだ。たとえば本書にも、次のような記述がある。


 2014年7月、関電で政界工作を長年担った、内藤千百里(ちもり)元副社長(当時91)が、少なくとも1972年から18年間、在任中の歴代首相7人に「盆暮れに1000万円ずつ献金してきた」と、朝日新聞に証言したのである。また、自民党有力者らに毎年2回、盆暮れのあいさつと称して各200万〜1000万円の現金を運ぶ慣行があったと明かし、政界全体に配った資金は年間数億円に上ったと語った。1974年に電力業界が癒着の批判を受けて企業献金の廃止を宣言したのちも続いていたことがうかがえる。
 献金の目的は、原発政策の推進や電力会社の発展であり、「原資はすべて電気料金だった」、「許認可権を握られている電力会社にとって権力に対する一つの立ち居振る舞いだった」という。(105ページより)

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

日中双方と協力可能、バランス取る必要=米国務長官

ビジネス

マスク氏のテスラ巨額報酬復活、デラウェア州最高裁が

ワールド

米、シリアでIS拠点に大規模空爆 米兵士殺害に報復

ワールド

エプスタイン文書公開、クリントン元大統領の写真など
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:教養としてのBL入門
特集:教養としてのBL入門
2025年12月23日号(12/16発売)

実写ドラマのヒットで高まるBL(ボーイズラブ)人気。長きにわたるその歴史と深い背景をひもとく

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「最低だ」「ひど過ぎる」...マクドナルドが公開したAI生成のクリスマス広告に批判殺到
  • 2
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入ともに拡大する「持続可能な」貿易促進へ
  • 3
    懲役10年も覚悟?「中国BL」の裏にある「検閲との戦い」...ドラマ化に漕ぎ着けるための「2つの秘策」とは?
  • 4
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦…
  • 5
    中国最強空母「福建」の台湾海峡通過は、第一列島線…
  • 6
    待望の『アバター』3作目は良作?駄作?...人気シリ…
  • 7
    おこめ券、なぜここまで評判悪い? 「利益誘導」「ム…
  • 8
    ゆっくりと傾いて、崩壊は一瞬...高さ35mの「自由の…
  • 9
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後…
  • 10
    ロシア、北朝鮮兵への報酬「不払い」疑惑...金正恩が…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 3
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入ともに拡大する「持続可能な」貿易促進へ
  • 4
    【実話】学校の管理教育を批判し、生徒のため校則を…
  • 5
    「最低だ」「ひど過ぎる」...マクドナルドが公開した…
  • 6
    ミトコンドリア刷新で細胞が若返る可能性...老化関連…
  • 7
    自国で好き勝手していた「元独裁者」の哀れすぎる末…
  • 8
    【銘柄】資生堂が巨額赤字に転落...その要因と今後の…
  • 9
    香港大火災の本当の原因と、世界が目撃した「アジア…
  • 10
    身に覚えのない妊娠? 10代の少女、みるみる膨らむお…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 3
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした「信じられない」光景、海外で大きな話題に
  • 4
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 5
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 6
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 7
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 8
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入と…
  • 9
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸…
  • 10
    インド国産戦闘機に一体何が? ドバイ航空ショーで…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中