最新記事

極右

ブラジル南部でネオナチが扇動する事件が増加 ボルソナロ前政権時に極右思想拡大

2023年6月19日(月)11時23分
バナーとキャップ

ブラジルではネオナチ絡みの事件が増加中だ。ボルソナロ前大統領が在任していた2019年から2023年にかけて、極右の政治思想が広がるにしたがい増えてきたという。写真は、南部サンタカタリーナ州の農村部に潜伏していたネオナチ組織「クルー38」から押収された所持品。4月24日、同州フロリアーノポリスで撮影(2023年 ロイター/Cristiano Estrela)

2022年11月、ブラジル南部のサンタカタリーナ州イタジャイ市で、ハイチ系移民のためのイベントが開催された。だがその数時間前、主催者のアンドレア・ムラー氏のもとに、背筋の凍るようなメッセージが届いた。

ロイターが閲覧したメールの件名は「ハイチ系移民のイベントを中止せよ。さもなくば虐殺を決行する」。

文面には「サンタカタリーナは白人の、白人のための土地だ」とあり、末尾に「ジークハイル(勝利万歳)」と記されていた。ナチス・ドイツが使用していたスローガンだ。

結局、イベントは警察の立ち会いのもと、何のトラブルもなく進行した。だが、問題のメールについては州警察の捜査が今も続いており、ブラジルにおいてネオナチ絡みの事件が、まだ少数とはいえ増加中であることを示している。この種の事件は、ボルソナロ前大統領が在任していた2019年から2023年にかけて、極右の政治思想が広がるにしたがって増えてきた。

元陸軍大尉のボルソナロ氏は、1964年のブランコ政権樹立から1985年の民政移管まで続いた軍事独裁を、長きにわたり擁護。2022年の大統領選挙の際にはブラジルの投票制度について反民主主義的な攻撃を行い、国内先住民族を危険にさらしたと指摘される政策で広く批判を浴びた。

ブラジル連邦警察によると、ネオナチによる扇動とされる容疑を巡って開始された捜査の件数は2019年以降急増したが、今年になっても「かなりの増加」がみられるという。

ブラジルで1989年に制定された反人種差別法は、ナチズムを連想させるシンボルの使用を禁止しており、「ヒトラー体制に対する釈明」と見なされる言論は、表現の自由を保障する法律の対象外とされる。

警察当局によれば「ナチズムを宣伝する目的」でかぎ十字のシンボルを製造、販売、配布、誇示した容疑をめぐって行われた捜査は、今年に入ってすでに21件。ボルソナロ氏が当選した2018年には、わずか1件だった。

専門家からは、この数字だけではネオナチ問題の全国的な広がりを把握できないという指摘もある。4月にはサンタカタリーナ州の幼稚園で、おのを持った25歳の男性が子ども4人を殺害する事件が起きた。その翌日、ディーノ法相は複数州にまたがって活動していると考えられるネオナチ組織の捜査を警察に命じた。これ以前にも国内では今年2件の学校襲撃事件が発生しているが、容疑者らはかぎ十字をあしらった腕章を着用していた。

全国規模のユダヤ人団体CONIBは「過激派集団の数がかつてないほど増加している」と認識しており、「その多くがネオナチであることを公言している」という。

【20%オフ】GOHHME 電気毛布 掛け敷き兼用【アマゾン タイムセール】

(※画像をクリックしてアマゾンで詳細を見る)

今、あなたにオススメ

関連ワード

ニュース速報

ビジネス

決算に厳しい目、FOMCは無風か=今週の米株式市場

ビジネス

中国工業部門企業利益、1─3月は4.3%増に鈍化 

ビジネス

米地銀リパブリック・ファーストが公的管理下に、同業

ワールド

米石油・ガス掘削リグ稼働数、22年2月以来の低水準
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界が愛した日本アニメ30
特集:世界が愛した日本アニメ30
2024年4月30日/2024年5月 7日号(4/23発売)

『AKIRA』からジブリ、『鬼滅の刃』まで、日本アニメは今や世界でより消費されている

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    日本マンガ、なぜか北米で爆売れ中...背景に「コロナ」「ゲーム」「へのへのもへじ」

  • 3

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 4

    AIパイロットvs人間パイロット...F-16戦闘機で行われ…

  • 5

    ウクライナ軍ブラッドレー歩兵戦闘車の強力な射撃を…

  • 6

    走行中なのに運転手を殴打、バスは建物に衝突...衝撃…

  • 7

    ロシア黒海艦隊「最古の艦艇」がウクライナ軍による…

  • 8

    ロシア軍「Mi8ヘリコプター」にウクライナ軍HIMARSが…

  • 9

    19世紀イタリア、全世界を巻き込んだ論争『エドガル…

  • 10

    「すごい胸でごめんなさい」容姿と演技を酷評された…

  • 1

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 2

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 3

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価」されていると言える理由

  • 4

    「世界中の全機が要注意」...ボーイング内部告発者の…

  • 5

    医学博士で管理栄養士『100年栄養』の著者が警鐘を鳴…

  • 6

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 7

    「すごい胸でごめんなさい」容姿と演技を酷評された…

  • 8

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 9

    「たった1日で1年分」の異常豪雨...「砂漠の地」ドバ…

  • 10

    ハーバード大学で150年以上教えられる作文術「オレオ…

  • 1

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 2

    ロシアの迫撃砲RBU6000「スメルチ2」、爆発・炎上の瞬間映像をウクライナ軍が公開...ドネツク州で激戦続く

  • 3

    バルチック艦隊、自国の船をミサイル「誤爆」で撃沈する動画...「吹き飛ばされた」と遺族(ロシア報道)

  • 4

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 5

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士…

  • 6

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミ…

  • 7

    ロシアが前線に投入した地上戦闘ロボットをウクライ…

  • 8

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 9

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 10

    1500年前の中国の皇帝・武帝の「顔」、DNAから復元に…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中