最新記事

タイ

GDPの1.5%を占める性産業の合法化で、売春大国タイはどう変わるのか?

A GLOBAL CAPITAL OF SEX WORK

2023年3月8日(水)11時55分
ネハ・ワデカー
パタヤ

首都バンコクから車で2時間ほど、ビーチリゾートとして人気のパタヤはタイ性産業の一大拠点 DAVID SILVERMAN/GETTY IMAGES

<利益は莫大ながら違法。搾取や暴力の標的になり、コロナ禍でも救済の対象外だったセックスワーカーたち。1人の議員が合法化を訴えて立ち上がったが、問題は複雑>

タイ中部のビーチリゾート、パタヤ。ネオンがまぶしい歓楽街にはセックスがあふれている。

性風俗店が立ち並ぶ通りに近いアパートで、アウチャナポーン・ピラサタ(37)は鏡を見ながらプラム色の口紅を重ね塗りし、黒いアイラインを引く。鏡の角には写真が2枚。15歳の少年だった頃の彼女と、女性となった今の姿だ。

アウチャナポーンはトランスジェンダーの売春婦で、17年前から「アナ」と名乗って客を取ってきた。

以前はバンコク郊外の工場で働いていたが、キャバレーの踊り子を目指してパタヤに移った。金欲しさに「その手の」マッサージ店でアルバイトを始めると、いきなり最初の客に売春を持ちかけられたという。

「時給で3000バーツ(約1万1700円)払うと言われた」と、アナは振り返る。「工場に勤めていた頃は月給で6000バーツだった。こうして私はセックスワーカーになった」

タイは世界有数のセックスツーリズムの中心地だ。ただし性労働は裏社会のビジネスだから、GDPに占める割合は正確には分からない。調査会社のハボックスコープは2015年、タイの性産業の経済規模をその年のGDPの1.5%に当たる64億ドルと査定した。

年間数十億ドルを稼いでもタイの性産業は原則として違法であり、国の恥だと批判されている。だが、ある議員が合法化を求める法案を提出したこともあり、最近は公の場でも議論されるようになった。

法案支持者の主張はこうだ。売春を違法にしたせいで、セックスワーカーは基本的な労働者の権利や保護を奪われ、健康上のリスクや嫌がらせや搾取、暴力にさらされやすくなった。それに、違法にしたところで性産業の存在は隠せない......。

タイに行ってセックスワーカーの存在に気付かないのは「ケンタッキー・フライドチキンに行って、フライドチキンが目に入らないようなもの」だと、アナは言う。

セックスワーカーの大多数は女性だ。タイ保健省疾病管理局は17年、14万4000人のセックスワーカーのうち12万9000人を女性と見積もっている。だが、このビジネスの将来を決めるのは男性だ。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

北朝鮮が短距離弾道ミサイル発射、日本のEEZ内への

ワールド

中国、総合的な不動産対策発表 地方政府が住宅購入

ワールド

上海市政府、データ海外移転で迅速化対象リスト作成 

ビジネス

中国平安保険、HSBC株の保有継続へ=関係筋
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:インドのヒント
特集:インドのヒント
2024年5月21日号(5/14発売)

矛盾だらけの人口超大国インド。読み解くカギはモディ首相の言葉にあり

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両を一度に焼き尽くす動画をウクライナ軍が投稿

  • 2

    エジプトのギザ大ピラミッド近郊の地下に「謎めいた異常」...「極めて重要な発見」とは?

  • 3

    存在するはずのない系外惑星「ハルラ」をめぐる謎、さらに深まる

  • 4

    羽田空港衝突事故で「日航の奇跡」を可能にした、奇…

  • 5

    「円安を憂う声」は早晩消えていく

  • 6

    老化した脳、わずか半年の有酸素運動で若返る=「脳…

  • 7

    アメリカはどうでもよい...弾薬の供与停止も「進撃の…

  • 8

    共同親権法制を実施するうえでの2つの留意点

  • 9

    日鉄のUSスチール買収、米が承認の可能性「ゼロ」─…

  • 10

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などで…

  • 1

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などできない理由

  • 2

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する悲劇の動画...ロシア軍内で高まる「ショットガン寄越せ」の声

  • 3

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両を一度に焼き尽くす動画をウクライナ軍が投稿

  • 4

    大阪万博でも「同じ過ち」が繰り返された...「太平洋…

  • 5

    原因は「若者の困窮」ではない? 急速に進む韓国少…

  • 6

    エジプトのギザ大ピラミッド近郊の地下に「謎めいた…

  • 7

    北米で素数ゼミが1803年以来の同時大発生、騒音もダ…

  • 8

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国…

  • 9

    ロシア兵がウクライナ「ATACMS」ミサイルの直撃を受…

  • 10

    プーチン5期目はデフォルト前夜?......ロシアの歴史…

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 3

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なない理由が明らかに

  • 4

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などで…

  • 5

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する…

  • 6

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 7

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両…

  • 8

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 9

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 10

    ヨルダン・ラジワ皇太子妃のマタニティ姿「デニム生地…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中