最新記事

カタールW杯

サッカー強豪国になったオーストラリア、牽引するのは難民とその2世たち

The Game Changers

2022年12月7日(水)13時48分
マシュー・ホール(ジャーナリスト)
キアヌ・バッカス

オーストラリア代表のキアヌ・バッカスも南スーダン難民出身 Bernadett Szabo-REUTERS

<「白豪主義」が撤廃されて50年あまりだが、今も難民に寛容とは言えない豪州。特にアフリカ系難民への風当たりが強い中、代表チームに元難民が4人もいるという皮肉>

サッカーワールドカップ(W杯)カタール大会で、アジア勢で真っ先に16強入りを決めたオーストラリア。

かつて「白豪主義」を公然と掲げ、移民や難民の受け入れを大幅に制限してきたオーストラリアだが、カタール大会代表チームには元難民が4人いる。実際、歴代の代表チームの顔触れは、この国の移民政策の変遷を物語っている。

1960~70年代のオーストラリア代表チームは、ヨーロッパからの移民1世の選手が大多数を占めた。74年の西ドイツ大会に出場した代表チームは、イングランド、スコットランド、ドイツ、そしてユーゴスラビアからの移民が中心で、オーストラリア生まれの選手は少数派だった。

初めてW杯の決勝トーナメントに進んだ2006年の「黄金世代」で外国生まれの選手はニュージーランド出身のアーチー・トンプソンだけになったが、文化的には多様性が高かった。

今回の代表チームも豊かな多様性を持つ。ミロシュ・デゲネクは、1994年にクロアチアに生まれたが、ユーゴスラビア紛争の混乱を逃れて、6歳のときオーストラリアに難民として受け入れられた。

アフリカ生まれの選手も4人いて、うち3人が元難民だ。

アワー・マビルは、スーダン内戦を逃れてケニアの難民キャンプで暮らしていた両親の間に生まれた。家族と共にオーストラリアに受け入れられたのは10歳のときだ。

今年6月にオーストラリア代表チームがカタール大会の出場権を得たとき、マビルはオーストラリアが自分と家族に「一生もののチャンス」を与えてくれたと語っている。

トーマス・デンも、やはりケニアでスーダン難民の両親の間に生まれ、03年にオーストラリアに受け入れられた。

フォワードのガラン・クオルは、04年にエジプトで南スーダン人の両親の元に生まれ、6歳のときオーストラリアにやって来た。今回のカタール大会初戦、オーストラリアはフランスに惨敗したが、クオルは終了間際に投入され、オーストラリア史上最年少のW杯出場選手となった。

「白いオーストラリア」

移民や難民にとってサッカーは常に身近な存在であり、その子供や孫たちも、オーストラリアで伝統的に人気の高いラグビーやクリケットではなく、サッカーをやることが多い。このためサッカーの代表チームのほうが、ラグビーやクリケットのチームよりも、現在のオーストラリアの多様性を反映しているとたたえられることも少なくない。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

英中銀が金利据え置き、量的引き締めペース縮小 長期

ワールド

ガザ全域で通信遮断、イスラエル軍の地上作戦拡大の兆

ワールド

トランプ氏、プーチン氏に「失望」 英首相とウクライ

ワールド

インフレ対応で経済成長を意図的に抑制、景気後退は遠
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界が尊敬する日本の小説36
特集:世界が尊敬する日本の小説36
2025年9月16日/2025年9月23日号(9/ 9発売)

優れた翻訳を味方に人気と評価が急上昇中。21世紀に起きた世界文学の大変化とは

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「何だこれは...」クルーズ船の客室に出現した「謎の物体」にSNS大爆笑、「深海魚」説に「カニ」説も?
  • 2
    燃え上がる「ロシア最大級の製油所」...ウクライナ軍、夜間に大規模ドローン攻撃 国境から約1300キロ
  • 3
    1年で1000万人が死亡の可能性...迫る「スーパーバグ」感染爆発に対抗できる「100年前に忘れられた」治療法とは?
  • 4
    「日本を見習え!」米セブンイレブンが刷新を発表、…
  • 5
    「最悪」「悪夢だ」 飛行機内で眠っていた女性が撮影…
  • 6
    アジア作品に日本人はいない? 伊坂幸太郎原作『ブ…
  • 7
    中国山東省の住民が、「軍のミサイルが謎の物体を撃…
  • 8
    ケージを掃除中の飼い主にジャーマンシェパードがま…
  • 9
    中国経済をむしばむ「内巻」現象とは?
  • 10
    「ゾンビに襲われてるのかと...」荒野で車が立ち往生…
  • 1
    「最悪」「悪夢だ」 飛行機内で眠っていた女性が撮影...目覚めた時の「信じがたい光景」に驚きの声
  • 2
    「中野サンプラザ再開発」の計画断念、「考えてみれば当然」の理由...再開発ブーム終焉で起きること
  • 3
    【クイズ】次のうち、飲むと「蚊に刺されやすくなる」飲み物はどれ?
  • 4
    科学が解き明かす「長寿の謎」...100歳まで生きる人…
  • 5
    「二度見した」「小石のよう...」マッチョ俳優ドウェ…
  • 6
    「我々は嘘をつかれている...」UFOらしき物体にミサ…
  • 7
    【クイズ】世界で唯一「蚊のいない国」はどこ?
  • 8
    【クイズ】世界で1番「島の数」が多い国はどこ?
  • 9
    「何だこれは...」クルーズ船の客室に出現した「謎の…
  • 10
    電車内で「ウクライナ難民の女性」が襲われた驚愕シ…
  • 1
    「4針ですかね、縫いました」日本の若者を食い物にする「豪ワーホリのリアル」...アジア出身者を意図的にターゲットに
  • 2
    【クイズ】世界で唯一「蚊のいない国」はどこ?
  • 3
    「まさかの真犯人」にネット爆笑...大家から再三「果物泥棒」と疑われた女性が無実を証明した「証拠映像」が話題に
  • 4
    信じられない...「洗濯物を干しておいて」夫に頼んだ…
  • 5
    「最悪」「悪夢だ」 飛行機内で眠っていた女性が撮影…
  • 6
    「中野サンプラザ再開発」の計画断念、「考えてみれ…
  • 7
    「我々は嘘をつかれている...」UFOらしき物体にミサ…
  • 8
    プール後の20代女性の素肌に「無数の発疹」...ネット…
  • 9
    【クイズ】次のうち、飲むと「蚊に刺されやすくなる…
  • 10
    「怖すぎる」「速く走って!」夜中に一人ランニング…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中