最新記事

東南アジア

「加盟国に決断求める」シンガポール外相 ミャンマー問題で手詰まりのASEAN

2022年11月3日(木)16時45分
大塚智彦
ASEAN本部のASEANのバナー

ASEANの対ミャンマー政策はどうなるか? Willy Kurniawan - REUTERS

<軍政によるクーデターと民主派弾圧が続く彼の国に隣国が打つ手はあるか?>

東南アジア諸国連合(ASEAN)によるミャンマー問題への和平・対話の仲介工作が暗礁に乗り上げている。ミャンマーを含めた加盟国10カ国の間に厳然と存在する仲介に向けた温度差がその主な要因だ。11月8〜10日にカンボジアの首都プノンペンで開催予定のASEAN首脳会議と関連会議に向けた加盟各国の外務省担当者による事前交渉でも、難しい意見の集約が進められている。

これまでASEANはミャンマー問題の解決に向けて、2021年4月のASEAN緊急首脳会議で採択された議長声明の「5項目の合意」を共通プラットフォームとしてきた。ところが、今ではその有効性に疑問を示す加盟国が増えてきたことも「全会一致」「内政不干渉」を掲げるASEANの結束した対応策打ち出しを困難にしているという実状がある。

シンガポール「困難な決断すべき時」

11月1日、シンガポールのビビアン・バラクリシュナン外相はASEAN円卓会議で「ミャンマー問題はこのままでは今後数十年間にわたって続く可能性がある。このためASEANは困難な決断をする時が来た」との見解を示し、今後2週間の動きを注視するとも述べた。

ミャンマーでの2021年2月1日の軍によるクーデターで、アウン・サン・スー・チー氏率いる民主政府が打倒された直後から、シンガポールはマレーシア、インドネシアと並んでミャンマー軍事政権への厳しい姿勢を表明。軍政への批判を続けてきた。

2022年になってもミャンマー軍政が「5項目の合意」のうちの「即時武力行使の中止」と「全ての関係者とASEAN特使の面会」の2項目について拒否し続けていることから、ASEANの一連の会議にミャンマー軍政の代表を招待しない状況が続いている。

11月のASEAN首脳会議にもミン・アウン・フライン国軍司令官を招待する予定はなく、9カ国の首脳会談となる見通しだ。

マレーシアが民主勢力代表招致に前向き

こうした手詰まりの状況を打開すべくマレーシアのサイフディン・アブドゥッラー外相は、ASEANの一連の会議に軍政代表ではなく、軍政に対抗して武装抵抗闘争を全土で展開している民主派勢力の「国民統一政府(NUG)」の代表を招致するべきだとの姿勢を明らかにしている。

これは事態打開の一策として注目されたが、10月27日にインドネシアの首都ジャカルタで開催されたASEAN特別外相会議では引き続きミャンマー軍政に「5項目の合意」の履行を求めていくことで意見が一致。マレーシアによる「NUG代表の招致」は議論されなかったという。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

ANAHD、今期18%の営業減益予想 売上高は過去

ワールド

中国主席「中米はパートナーであるべき」、米国務長官

ビジネス

中国、自動車下取りに補助金 需要喚起へ

ビジネス

円安、物価上昇通じて賃金に波及するリスクに警戒感=
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界が愛した日本アニメ30
特集:世界が愛した日本アニメ30
2024年4月30日/2024年5月 7日号(4/23発売)

『AKIRA』からジブリ、『鬼滅の刃』まで、日本アニメは今や世界でより消費されている

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 2

    「すごい胸でごめんなさい」容姿と演技を酷評された米女優、「過激衣装」写真での切り返しに称賛集まる

  • 3

    中国の最新鋭ステルス爆撃機H20は「恐れるに足らず」──米国防総省

  • 4

    今だからこそ観るべき? インバウンドで増えるK-POP…

  • 5

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 6

    未婚中高年男性の死亡率は、既婚男性の2.8倍も高い

  • 7

    「鳥山明ワールド」は永遠に...世界を魅了した漫画家…

  • 8

    「誹謗中傷のビジネス化」に歯止めをかけた、北村紗…

  • 9

    「たった1日で1年分」の異常豪雨...「砂漠の地」ドバ…

  • 10

    心を穏やかに保つ禅の教え 「世界が尊敬する日本人100…

  • 1

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 2

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価」されていると言える理由

  • 3

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた「身体改造」の実態...出土した「遺骨」で初の発見

  • 4

    「世界中の全機が要注意」...ボーイング内部告発者の…

  • 5

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 6

    医学博士で管理栄養士『100年栄養』の著者が警鐘を鳴…

  • 7

    ハーバード大学で150年以上教えられる作文術「オレオ…

  • 8

    「たった1日で1年分」の異常豪雨...「砂漠の地」ドバ…

  • 9

    NewJeans日本デビュー目前に赤信号 所属事務所に親…

  • 10

    「誹謗中傷のビジネス化」に歯止めをかけた、北村紗…

  • 1

    人から褒められた時、どう返事してますか? ブッダが説いた「どんどん伸びる人の返し文句」

  • 2

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 3

    ロシアの迫撃砲RBU6000「スメルチ2」、爆発・炎上の瞬間映像をウクライナ軍が公開...ドネツク州で激戦続く

  • 4

    バルチック艦隊、自国の船をミサイル「誤爆」で撃沈…

  • 5

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 6

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士…

  • 7

    88歳の現役医師が健康のために「絶対にしない3つのこ…

  • 8

    ロシアが前線に投入した地上戦闘ロボットをウクライ…

  • 9

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 10

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中