最新記事

感染症

夏本番には「脳を食べるアメーバ」に要注意

How Does the Brain-Eating Amoeba Naegleria fowleri Kill You?

2022年6月27日(月)19時01分
アリストス・ジャージョウ

その殺人アメーバは鼻から入って脳に達する NiseriN-iStock.

<温かな水に棲み、人間の鼻から入って脳に達するアメーバ。めったに感染しないが、感染すれば致死率97%という恐ろしい病気を引き起こす>

フォーラーネグレリアは主に温かな淡水の中で見つかる単細胞生物のアメーバで、死亡率97%の非常に危険な病気「原発性アメーバ性髄膜脳炎(PAM)」を引き起こすことがある。

ありがたいことに、アメリカでも世界各地のフォーラーネグレリアの生息地域でも、感染は非常にまれだ。ただしアメリカを例に取ると、1962年から昨年までの間に154例が確認され、そのうち救命できたのはたった4人に過ぎないと、米疾病対策センター(CDC)の疫学専門家ジュリア・ハストンは本誌に語った。

感染は、湖や川といった淡水の温かい水の中で水泳やダイビングをした時に、フォーラーネグレリアを含む水が鼻から体内に入って起こる。

「(フォーラーネグレリアは)鼻と脳をつなぐ嗅覚神経を通って脳に達する」とハストンは言う。「脳にたどり着くと脳細胞を破壊し始め、PAMと呼ばれる重篤で、通常は死に至る感染症を引き起こす」

「このアメーバは毒素を放出して脳細胞を破壊する。(一方で人体の)免疫系は免疫細胞を脳に送り込んで感染と戦おうとする。毒素と免疫反応の両方が脳の腫脹を引き起こし、患者は死に至る」

PAMは非常に速く進行するため、発症からほんの数日で死に至るケースがほとんどだという。

免疫反応が脳の損傷に拍車をかける

「症状は他の細菌性髄膜炎と似ているため、最初は診断がつかないこともある」とハストンは言う。「救命効果がきちんと証明された治療法はない。だが、治療の選択肢がないわけではない」

人間の脳細胞を食べることがあることから、フォーラーネグレリアは「脳食いアメーバ」とも呼ばれる。

「フォーラーネグレリアは通常はバクテリアを餌にし、温かい自然環境の中で生息する自由生活性のアメーバだ」と語るのは、メイヨー・クリニックの臨床寄生虫学研究室のボビー・プリット室長だ。「だが残念なことに、脳細胞も餌にできる上、人の体温は生存と増殖にぴったりだ」

「フォーラーネグレリアに感染した患者は、呼吸といった生命機能を司る脳の部位が破壊されるて死に至る。(脳への)ダメージは、アメーバに脳細胞を食われることと、感染に関連して脳が腫れることによって引き起こされる。脳が腫れると大後頭孔(頭蓋骨に開いた孔で延髄が通る)のような小さな開口部から脳が押し出されてしまい、細胞の死につながる」

フォーラーネグレリアに感染した場合の致死率は非常に高いが、これは体内でフォーラーネグレリアが非常に速く増殖することと、脳細胞を激しく破壊することが要因となっている。

今、あなたにオススメ

関連ワード

ニュース速報

ワールド

イラン、イスラエルへの報復ないと示唆 戦火の拡大回

ワールド

「イスラエルとの関連証明されず」とイラン外相、19

ワールド

米石油・ガス掘削リグ稼働数、5週間ぶりに増加=ベー

ビジネス

日銀の利上げ、慎重に進めるべき=IMF日本担当
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:老人極貧社会 韓国
特集:老人極貧社会 韓国
2024年4月23日号(4/16発売)

地下鉄宅配に古紙回収......繁栄から取り残され、韓国のシニア層は貧困にあえいでいる

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なない理由が明らかに

  • 2

    ハーバード大学で150年以上教えられる作文術「オレオ公式」とは?...順番に当てはめるだけで論理的な文章に

  • 3

    便利なキャッシュレス社会で、忘れられていること

  • 4

    「韓国少子化のなぜ?」失業率2.7%、ジニ係数は0.32…

  • 5

    中国のロシア専門家が「それでも最後はロシアが負け…

  • 6

    「毛むくじゃら乳首ブラ」「縫った女性器パンツ」の…

  • 7

    止まらぬ金価格の史上最高値の裏側に「中国のドル離…

  • 8

    休日に全く食事を取らない(取れない)人が過去25年…

  • 9

    毎日どこで何してる? 首輪のカメラが記録した猫目…

  • 10

    ネット時代の子供の間で広がっている「ポップコーン…

  • 1

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 2

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なない理由が明らかに

  • 3

    攻撃と迎撃の区別もつかない?──イランの数百の無人機やミサイルとイスラエルの「アイアンドーム」が乱れ飛んだ中東の夜間映像

  • 4

    天才・大谷翔平の足を引っ張った、ダメダメ過ぎる「無…

  • 5

    「毛むくじゃら乳首ブラ」「縫った女性器パンツ」の…

  • 6

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 7

    アインシュタインはオッペンハイマーを「愚か者」と…

  • 8

    犬に覚せい剤を打って捨てた飼い主に怒りが広がる...…

  • 9

    ハリー・ポッター原作者ローリング、「許すとは限ら…

  • 10

    価値は疑わしくコストは膨大...偉大なるリニア計画っ…

  • 1

    人から褒められた時、どう返事してますか? ブッダが説いた「どんどん伸びる人の返し文句」

  • 2

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 3

    88歳の現役医師が健康のために「絶対にしない3つのこと」目からうろこの健康法

  • 4

    ロシアの迫撃砲RBU6000「スメルチ2」、爆発・炎上の…

  • 5

    バルチック艦隊、自国の船をミサイル「誤爆」で撃沈…

  • 6

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 7

    ロシアが前線に投入した地上戦闘ロボットをウクライ…

  • 8

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 9

    1500年前の中国の皇帝・武帝の「顔」、DNAから復元に…

  • 10

    浴室で虫を発見、よく見てみると...男性が思わず悲鳴…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中