最新記事

白人学

白人精神分析医が書いた論文「白人性という病」の自虐的過激さ

Medical Journal Article Describes Whiteness as 'Parasitic-Like Condition'

2021年6月10日(木)16時40分
ジョン・ジャクソン
論文イメージ

心理学者からも「まともに取り合う学者がいるのか」と批判の声があがった Chinnapong-iStock

<権威ある学会誌に発表された論文は、白人性とは寄生性のある暴力的な病で根治不可能と主張。白人が怒るのは当然?>

5月27日に発行された米国精神分析学会誌(隔月発行)に掲載された、査読済みのある研究論文が、「白人性」とは「悪質で、寄生性のある病」だと説明した。この表現をはじめ、論文に含まれる複数の文言が多くの人の怒りを買い、ソーシャルメディア上で著者に対する反発の声があがっている。

「On Having Whiteness(『白人性について』)」と題されたこの論文の著者は、ドナルド・モス博士。ニューヨーク精神分析研究所とサンフランシスコ精神分析センターの両方に所属する白人男性だ。

モスは論文の中で、白人は、「宿主を貪欲で際限なくよこしまにする寄生性の病」にかかりやすいと指摘した。この病にかかると征服することを特権と感じ、「果てしない権力や限りない影響力、容赦ない暴力」をふるい、「恐怖による」支配欲求が増幅する、ともいう。

彼は以前にも「白人性」についての自説を披露しており、2019年には南アフリカ精神分析学会の総会で行った演説の中で、白人性とは寄生性のある病だと主張。ニューヨーク精神分析協会および研究所と、ニューヨーク現代精神分析研究センターで行った講義でも同様の主張を展開した。

「白人に対する人種差別」か

モスは心理学について複数の著書があり、秋には彼が監修を務めた小論文集「憎悪、嫌悪と破壊願望:いま起きていることについての精神分析的小論文」が発行される予定だ。また、「気候変動問題とその否定」に関する研究グループを自称する「グリーン・ギャング」の創設メンバーでもある。

ツイッター上では、モスの論文に対する怒りが噴出。「こんな人種差別主義者の胸糞悪い主張は非難されるべきだ」「自分も白人である著者が、学術的な厳密さを追求しているふりをしているだけだ。精神分析の専門誌なんてこんなものだ」などのコメントが殺到した。

心理学者のフィリップ・ペレグリノ博士はモスの論文について、「私たちは、いったいこの研究をどう捉えるべきか? 真に受ける人間がいるのか?」とツイートした。

モスは論文の中で、白人性は「個人の保護や民主主義の原則に基づいて形成された集団をも簡単にむしばむ」と述べ、この白さという病には治療が必要だと主張した。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

株式・債券ファンド、いずれも約120億ドル流入=B

ワールド

中国、総合的な不動産対策発表 地方政府が住宅購入

ビジネス

アングル:米ダウ一時4万ドル台、3万ドルから3年半

ワールド

北朝鮮、東岸沖へ短距離ミサイルを複数発発射=韓国軍
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:インドのヒント
特集:インドのヒント
2024年5月21日号(5/14発売)

矛盾だらけの人口超大国インド。読み解くカギはモディ首相の言葉にあり

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両を一度に焼き尽くす動画をウクライナ軍が投稿

  • 2

    エジプトのギザ大ピラミッド近郊の地下に「謎めいた異常」...「極めて重要な発見」とは?

  • 3

    存在するはずのない系外惑星「ハルラ」をめぐる謎、さらに深まる

  • 4

    羽田空港衝突事故で「日航の奇跡」を可能にした、奇…

  • 5

    「円安を憂う声」は早晩消えていく

  • 6

    老化した脳、わずか半年の有酸素運動で若返る=「脳…

  • 7

    アメリカはどうでもよい...弾薬の供与停止も「進撃の…

  • 8

    共同親権法制を実施するうえでの2つの留意点

  • 9

    日鉄のUSスチール買収、米が承認の可能性「ゼロ」─…

  • 10

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などで…

  • 1

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などできない理由

  • 2

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する悲劇の動画...ロシア軍内で高まる「ショットガン寄越せ」の声

  • 3

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両を一度に焼き尽くす動画をウクライナ軍が投稿

  • 4

    大阪万博でも「同じ過ち」が繰り返された...「太平洋…

  • 5

    原因は「若者の困窮」ではない? 急速に進む韓国少…

  • 6

    エジプトのギザ大ピラミッド近郊の地下に「謎めいた…

  • 7

    北米で素数ゼミが1803年以来の同時大発生、騒音もダ…

  • 8

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国…

  • 9

    ロシア兵がウクライナ「ATACMS」ミサイルの直撃を受…

  • 10

    プーチン5期目はデフォルト前夜?......ロシアの歴史…

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 3

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なない理由が明らかに

  • 4

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などで…

  • 5

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する…

  • 6

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 7

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両…

  • 8

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 9

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 10

    ヨルダン・ラジワ皇太子妃のマタニティ姿「デニム生地…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中