オーウェル的世界よりミャンマーの未来に投資しよう、「人間の尊厳」を原点に

2021年4月23日(金)17時56分
永井浩(日刊ベリタ)

日本政府はいまやミャンマー国民からも国際世論からも、ビッグブラザーの仲間と見られても仕方ないであろう。つまり、人間の尊厳を踏みにじる支配者側の行為に加担することによって、みずからの人間としての尊厳を損なおうとしていることに気づこうとしない。

そのような日本の姿が、他者の鏡にどのように映し出されているかを見てみよう。

日本の価値観外交の詭弁

ひとつは、「日本の価値観外交はミャンマーで座礁」と題する、テンプル大学ジャパンキャンパスのジェフ・キングストン教授が2月22日にFORSEA (Forces of Renewal for Southeast Asia)に寄せた以下の論稿である。

「価値観外交」とは、「普遍的価値(自由主義、民主主義、基本的人権、法の支配、市場経済)に基づく外交」(外務省HP)とされ、安倍晋三首相が2016年に日本政府の外交方針として提唱した。これを推進するために、日本、米国、オーストラリア、インドの4ヶ国首脳や外相による安全保障や経済を協議する枠組み「自由で開かれたインド太平洋戦略(Free and Open Indo- Pacific Strategy:FOIP)」が立ち上げられた。「ユーラシア大陸に沿って自由の輪を広げ、普遍的価値を基礎とする豊かで安定した地域を形成」するものと説明されている。この戦略は、こうした価値観を共有できずに「一帯一路」構想によって地域への影響力を強める中国に対抗する狙いがあるとされる。

では価値観外交は、ミャンマーではどう機能しているだろうか。

多くの在日ミャンマー人が日本政府に対して、祖国の民主化運動を支援してほしいと訴えて外務省前でデモをおこない、日本人参加者とともに要望書を同省に手渡した。しかし日本政府は彼らの声には耳を傾けようとはせず、軍事政権と行動をともにするようだ。

菅政権の内閣官房参与で外交ブレーンの宮家邦彦氏はジャパンタイムズ紙(2月4日)で、国軍への制裁と圧力に反対し、説得を優先すべきだと述べている。「ミャンマーに対する圧力政策の再開はタッマドー(国軍)を暗黒面に押しもどしてしまうだけである」として、「必要なのは、国際社会の一致した監視のもとでタッマドーの指導者が心変わりするよう話合いを再開し、最終的には説得できるよう慎重な努力をすることだ」とされる。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

アングル:メダリストも導入、広がる糖尿病用血糖モニ

ビジネス

アングル:中国で安売り店が躍進、近づく「日本型デフ

ビジネス

NY外為市場=ユーロ/ドル、週間で2カ月ぶり大幅安

ワールド

仏大統領「深刻な局面」と警告、総選挙で極右勝利なら
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:姿なき侵略者 中国
特集:姿なき侵略者 中国
2024年6月18日号(6/11発売)

アメリカの「裏庭」カリブ海のリゾート地やニューヨークで影響力工作を拡大する中国の深謀遠慮

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    この「自爆ドローンでロシア軍撃破の瞬間」映像が「珍しい」とされる理由

  • 2

    森に潜んだロシア部隊を発見、HIMARS精密攻撃で大爆発...死者60人以上の攻撃「映像」ウクライナ公開

  • 3

    屋外に集合したロシア兵たちを「狙い撃ち」...HIMARS攻撃「直撃の瞬間」映像をウクライナ側が公開

  • 4

    メーガン妃「ご愛用ブランド」がイギリス王室で愛さ…

  • 5

    米モデル、娘との水着ツーショット写真が「性的すぎ…

  • 6

    米フロリダ州で「サメの襲撃が相次ぎ」15歳少女ら3名…

  • 7

    接近戦で「蜂の巣状態」に...ブラッドレー歩兵戦闘車…

  • 8

    ロシア兵がウクライナ「ATACMS」ミサイルの直撃を受…

  • 9

    「ノーベル文学賞らしい要素」ゼロ...「短編小説の女…

  • 10

    ロシア軍の拠点に、ウクライナ軍FPVドローンが突入..…

  • 1

    ニシキヘビの体内に行方不明の女性...「腹を切開するシーン」が公開される インドネシア

  • 2

    接近戦で「蜂の巣状態」に...ブラッドレー歩兵戦闘車の猛攻で、ロシア兵が装甲車から「転げ落ちる」瞬間

  • 3

    早期定年を迎える自衛官「まだまだやれると思っていた...」55歳退官で年収750万円が200万円に激減の現実

  • 4

    認知症の予防や脳の老化防止に効果的な食材は何か...…

  • 5

    米フロリダ州で「サメの襲撃が相次ぎ」15歳少女ら3名…

  • 6

    毎日1分間「体幹をしぼるだけ」で、脂肪を燃やして「…

  • 7

    堅い「甲羅」がご自慢のロシア亀戦車...兵士の「うっ…

  • 8

    カカオに新たな可能性、血糖値の上昇を抑える「チョ…

  • 9

    「クマvsワニ」を川で激撮...衝撃の対決シーンも一瞬…

  • 10

    ヨルダン・ラジワ皇太子妃が妊娠発表後、初めて公の場…

  • 1

    ラスベガスで目撃された「宇宙人」の正体とは? 驚愕の映像が話題に

  • 2

    半裸でハマスに連れ去られた女性は骸骨で発見された──イスラエル人人質

  • 3

    ニシキヘビの体内に行方不明の女性...「腹を切開するシーン」が公開される インドネシア

  • 4

    ウクライナ水上ドローンが、ヘリからの機銃掃射を「…

  • 5

    「世界最年少の王妃」ブータンのジェツン・ペマ王妃が…

  • 6

    EVが売れると自転車が爆発する...EV大国の中国で次々…

  • 7

    接近戦で「蜂の巣状態」に...ブラッドレー歩兵戦闘車…

  • 8

    ヨルダン・ラジワ皇太子妃の「マタニティ姿」が美しす…

  • 9

    早期定年を迎える自衛官「まだまだやれると思ってい…

  • 10

    ロシアの「亀戦車」、次々と地雷を踏んで「連続爆発…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中