最新記事

南米

ベネズエラ、大幅賃金低下で公務員が欠勤や大量離職 社会機能が崩壊の危機

2020年12月22日(火)12時40分

経済危機のベネズエラでは税務署から人が消え、学校では教師が足りず、公共料金は徴収されないままになっている。写真はベネズエラのカラカスで、停電した地下鉄の駅の外でかわりの輸送手段を待つ人たち。2019年7月撮影(2020年 ロイター/Carlos Garcia Rawlins)

経済危機のベネズエラでは税務署から人が消え、学校では教師が足りず、公共料金は徴収されないままになっている。公務員の給与が雀の涙ほどに下がり、何十万人もの欠勤や退職が相次いでいるからだ。

公務員は、ほとんど食べていけない額の給与収入など諦めて職場を離れる。スタッフが減った電力会社や電話会社は、停電や技術障害を放置することもしばしば。公務員数十人への取材によると、カラカスの地下鉄公社は運行数を制限し、国税当局は民間企業への厳しい監視をやめた。

2007年に国有化された電話会社Cantvの従業員で労働組合員でもあるイゴール・リラさんによると、公務員に通貨・ボリバルで支払われる給与は、ドル換算で月額6ドル前後。彼女は「これで何ができるというの」と話し、多くの従業員が退職し、残った者は「副業」に携わっていると説明した。

給与を抑えれば国庫は助かるが、忠誠心がむしばまれ、国家の機能は弱り、最終的には失業と慢性的な公共サービスの欠落を招く。ベネズエラの人口は数年前に約3000万人に達したが、ここ数年で何百万人もが国外に脱出した。

首都・カラカスの公共交通の要であるはずの地下鉄公社は、多くの従業員が休暇を取ったきり戻らないという。約30年間勤務していたが最近退職した57歳の元従業員が明らかにした。地下鉄公社はかつて、左派のマドゥロ大統領がバス運転手として働き、労組指導者を務めた職場。現在の従業員給与は月額約10ドル相当だ。

3年におよぶハイパーインフレに、新型コロナウイルス感染拡大に対応した経済制限措置の影響が重なり、公務員の「無気力さ」はさらにひどくなった。

やはり07年に国営化されたカラカス電力公社のある管理職は、出勤は週1回だけで、副業としてタクシー運転手をしている。数回の乗車勤務で公社の月給と同じ4ドル相当が稼げる。

国会議員選

今月実施された国会議員選では、政府が公務員に圧力をかけマドゥロ氏の政党連合を支持させることが難しくなっている様子が示された。国会議員選は野党のボイコットにより打撃を受けたが、政権を支持する地域でも投票率は低く、その結果、与党統一社会党(PSUV)の全国得票も前回選挙より下がった。

南部の都市、プエルト・オルダスの国営アルミ精錬所で働くロムロ・ムノスさんは今回、過去数十年間で初めて投票を棄権した。給与は月額10ドル相当前後で、政府が「CLAP」という制度に基づき毎月配給する食品ボックスに頼って暮らしている。

「投票しなかったのは、新政権への移行を速めたかったからだ。新政権になれば労働者に恩恵が及び、CLAPのボックスで生き延びる必要はなくなる」と話す。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

パリのソルボンヌ大学でガザ抗議活動、警察が排除 キ

ビジネス

日銀が利上げなら「かなり深刻」な景気後退=元IMF

ビジネス

独CPI、4月は2.4%上昇に加速 コア・サービス

ワールド

米英外相、ハマスにガザ停戦案合意呼びかけ 「正しい
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界が愛した日本アニメ30
特集:世界が愛した日本アニメ30
2024年4月30日/2024年5月 7日号(4/23発売)

『AKIRA』からジブリ、『鬼滅の刃』まで、日本アニメは今や世界でより消費されている

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドローンを「空対空ミサイルで撃墜」の瞬間映像が拡散

  • 2

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 3

    AIパイロットvs人間パイロット...F-16戦闘機で行われた、史上初の「ドッグファイト」動画を米軍が公開

  • 4

    メーガン妃の「限定いちごジャム」を贈られた「問題…

  • 5

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士…

  • 6

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 7

    医学博士で管理栄養士『100年栄養』の著者が警鐘を鳴…

  • 8

    19世紀イタリア、全世界を巻き込んだ論争『エドガル…

  • 9

    ナワリヌイ暗殺は「プーチンの命令ではなかった」米…

  • 10

    目の前の子の「お尻」に...! 真剣なバレエの練習中…

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 3

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドローンを「空対空ミサイルで撃墜」の瞬間映像が拡散

  • 4

    医学博士で管理栄養士『100年栄養』の著者が警鐘を鳴…

  • 5

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 6

    AIパイロットvs人間パイロット...F-16戦闘機で行われ…

  • 7

    「すごい胸でごめんなさい」容姿と演技を酷評された…

  • 8

    「世界中の全機が要注意」...ボーイング内部告発者の…

  • 9

    日本マンガ、なぜか北米で爆売れ中...背景に「コロナ…

  • 10

    「誹謗中傷のビジネス化」に歯止めをかけた、北村紗…

  • 1

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 2

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 3

    ロシアの迫撃砲RBU6000「スメルチ2」、爆発・炎上の瞬間映像をウクライナ軍が公開...ドネツク州で激戦続く

  • 4

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士…

  • 5

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 6

    ロシアが前線に投入した地上戦闘ロボットをウクライ…

  • 7

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 8

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 9

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 10

    「誰かが嘘をついている」――米メディアは大谷翔平の…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中