最新記事

南米

ベネズエラ、大幅賃金低下で公務員が欠勤や大量離職 社会機能が崩壊の危機

2020年12月22日(火)12時40分

調査会社・アノバによると、現在280万人に減った公務員の平均月給は13ドル相当で、民間セクター労働者の半分に満たない。

アノバを含む調査会社3社の推計では、昨年は少なくとも50万人の公務員が退職した。

アノバの試算によると、公務員の25%以上が月額1ドル未満相当に下がった最低賃金の水準でやりくりしている。インフレ率は4087%で、今年は1ドル相当で1キロの米粉かトウモロコシ粉しか買えない時もあった。

欠勤も放置

インタビューによると、公務員の多くは退職しないまま働くのをやめているため、離職者数の把握は難しい。さらに国営機関は今年、欠勤者への処罰をやめた。コロナ禍で出勤人数やシフト数を減らしているにもかかわらず、多くの者はそれでも姿を現さず、それで罰せられることもない。

労組幹部によると、週当たり20時間以上働く公立学校の教師は、ほとんどいないという。最も給料が良いのは兵士で、月約17ドル相当が支給される。

20年間にわたって体育教師として働いてきたビクトル・カリロさんは、最低限の生活費を賄うため、近所のアパートを修繕する副業をせざるを得ない。先月は街頭デモに参加した。

13年に就任したマドゥロ大統領は、ベネズエラの経済的苦境は米国の制裁が原因と主張してきたが、給与水準の低さが問題であることも認識している。マドゥロ氏は最近、「傷が開き、化膿しているが、われわれが治していく」と述べた。

政府は自国通貨・ボリバルで支払われる賃金を何度も引き上げているが、インフレ率に追い付いていない。

ベネズエラ社会紛争観測機関によると、同国で今年開かれたデモは544件で、その大半が公務員によるものだった。

国税当局SENIATはチャベス前政権下で企業への抜き打ち検査を積極的に行ったが、今はオフィスが閑散としている。従業員2人によると、12年の月給は最大700ドル相当だった。だが、今や約13ドル相当に減り、従業員の半分は離職した。

政府は石油生産の減少と米国による原油輸出への制裁もあり、税収の確保に苦心している。

国外に脱出する公務員もいれば、ただ離職する者もいる。郵便公社を退職して販売価格1ドル相当のココナッツの菓子を作る仕事に転じた女性は「ある日オフィスで、チーズも何もかかっていない、ただのパスタを食べ、仕事を辞めた。あんな生活ではやっていけない」と語った。

(記者:Mayela Armas、Corina Pons)

[ロイター]


トムソンロイター・ジャパン

Copyright (C) 2020トムソンロイター・ジャパン(株)記事の無断転用を禁じます


【話題の記事】
・オーストラリアの島を買って住民の立ち入りを禁じた中国企業に怨嗟の声・反日デモへつながった尖閣沖事件から10年 「特攻漁船」船長の意外すぎる末路


20240521issue_cover150.jpg
※画像をクリックすると
アマゾンに飛びます

2024年5月21日号(5月14日発売)は「インドのヒント」特集。[モディ首相独占取材]矛盾だらけの人口超大国インド。読み解くカギはモディの言葉にあり

※バックナンバーが読み放題となる定期購読はこちら


今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

ホンダ、電動化とソフトへ投資倍増 30年度までに1

ワールド

中国、生産能力過剰論に反論 米欧の「露骨な貿易保護

ワールド

ウクライナが米欧を戦争に巻き込む恐れ、プーチン氏側

ビジネス

商業用不動産、ユーロ圏金融システムの弱点=ECB金
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:インドのヒント
特集:インドのヒント
2024年5月21日号(5/14発売)

矛盾だらけの人口超大国インド。読み解くカギはモディ首相の言葉にあり

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両を一度に焼き尽くす動画をウクライナ軍が投稿

  • 2

    プーチン5期目はデフォルト前夜?......ロシアの歴史も「韻」を踏む

  • 3

    北米で素数ゼミが1803年以来の同時大発生、騒音もダブルの「大合唱」

  • 4

    羽田空港衝突事故で「日航の奇跡」を可能にした、奇…

  • 5

    マーク・ザッカーバーグ氏インタビュー「なぜAIを無…

  • 6

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などで…

  • 7

    それでもインドは中国に勝てない...国内企業の投資意…

  • 8

    総額100万円ほどの負担増...国民年金の納付「5年延長…

  • 9

    老化した脳、わずか半年の有酸素運動で若返る=「脳…

  • 10

    ロシア兵がウクライナ「ATACMS」ミサイルの直撃を受…

  • 1

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などできない理由

  • 2

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する悲劇の動画...ロシア軍内で高まる「ショットガン寄越せ」の声

  • 3

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両を一度に焼き尽くす動画をウクライナ軍が投稿

  • 4

    大阪万博でも「同じ過ち」が繰り返された...「太平洋…

  • 5

    原因は「若者の困窮」ではない? 急速に進む韓国少…

  • 6

    北米で素数ゼミが1803年以来の同時大発生、騒音もダ…

  • 7

    「恋人に会いたい」歌姫テイラー・スウィフト...不必…

  • 8

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国…

  • 9

    ロシア兵がウクライナ「ATACMS」ミサイルの直撃を受…

  • 10

    プーチン5期目はデフォルト前夜?......ロシアの歴史…

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 3

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なない理由が明らかに

  • 4

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などで…

  • 5

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する…

  • 6

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 7

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 8

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 9

    ヨルダン・ラジワ皇太子妃のマタニティ姿「デニム生地…

  • 10

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中