「CO₂から作る」樹脂で配線器具をサステナブルに...パナソニック「炭素資源循環」の挑戦
熱硬化性樹脂であるユリア樹脂。例えば、コンセントの周縁部は熱可塑性樹脂で熱に溶かして再利用ができるが、真ん中の差し込み口部分には電気火災への安全性が高いこのユリア樹脂が使用される 写真提供:パナソニックEW社
<コンセントなど配線器具に不可欠な材料であるユリア樹脂。これまで「リサイクル不可能」だったが、三菱ガス化学との共同開発により、その技術的な障壁を突破する>
日本企業のたとえ小さな取り組みであっても、メディアが広く伝えていけば、共感を生み、新たなアイデアにつながり、社会課題の解決に近づいていく──。そのような発信の場をつくることをミッションに、ニューズウィーク日本版が立ち上げた「SDGsアワード」は今年、3年目を迎えました。
私たちは今年も、日本企業によるSDGsの取り組みを積極的に情報発信していきます。
持続可能な社会に向けて、資源を効率的に循環させるサーキュラーエコノミーの実現を目指した取り組みが各地で進んでいる。CO₂排出量を削減し、排出量と吸収・削減量を均衡させるカーボンニュートラルに対する時代の要請も大きい。
だが現実には、技術的な理由から資源循環が難しいケースも少なくない。その1つが、コンセントや電源タップなど配線器具に多く使われる「ユリア樹脂」という材料だった。
ユリア樹脂はショートや火災の要因となるトラッキングに強く、電気火災に対する安全性が高い。だが、一度割れてしまうと元に戻らない熱硬化性と呼ばれる性質があるため、溶かして再成形できるPET素材(ポリエチレンテレフタレート)のようにリサイクルはできない。
たかが配線器具、とは言えないだろう。例えば、コンセントなどの総称である配線用差込接続器(一般用)は、日本国内だけで月に1300万個以上が製造されているのだ(日本配線システム工業会による2025年10月統計)。これだけの数の配線器具が、使用後はユリア樹脂部分が廃棄・焼却処分されている。
そこで、コンセントやスイッチなど電気設備資材で国内シェア8割を持つパナソニック株式会社エレクトリックワークス社(以下、パナソニックEW社)は、配線器具の資源循環を実現する技術開発を行った。
メタノールの総合メーカーである三菱ガス化学株式会社と共同開発し、2025年春に発表した「環境配慮型ユリア樹脂」である。

工場の排ガスなどから回収したCO₂を活用
コンセントで言えば、差し込み口の箇所に使われているのがユリア樹脂。パナソニックEW社が使用する樹脂材料の約25%を占め、使用量が多い。にもかかわらず、例えるならビスケットのように、割れたら元に戻せない熱硬化性であるため、リサイクルが不可能だった。
ユリア樹脂は現在、天然ガス由来のメタノールから製造されている。「化石資源から製造され、使用後には廃棄焼却されるという、いわゆるリニア型の生産構造となっていました」と、パナソニックEW社技術本部先端技術イノベーションセンターの川角優奈主任技師は説明する。
「対して、環境配慮型ユリア樹脂も使用後は焼却されますが、工場の排ガスなどから回収したCO₂を炭素資源として活用することで、実質的な資源循環が可能になりました」
すなわち、リサイクルが不可能な材料だからといって環境負荷の低減をあきらめるのではなく、原料のメタノールに着目することで、カーボンリサイクル(炭素資源循環)を実現したわけだ。環境配慮型ユリア樹脂では、従来のユリア樹脂に比べ、原材料ベースで約20〜30%のCO₂排出量削減が見込めるという。
また、成形プロセスなどには従来の設備をそのまま使用することができ、すでに従来品と変わらない品質のユリア樹脂の製造にも成功していると、川角氏は言う。





